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愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~  作者: 紅しょうが


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第8話 私、どうやって戦えばいいの?

王都の外れ。


玲たちは、レオンハルト率いる辺境騎士団とともに街道を歩いていた。


正確には――


玲は歩いていた。


雷電も歩いていた。


そしてアビーも、玲の足元をちょこちょこと歩いている。


「……なんで私たちまで一緒にいるんですか?」


玲は隣を歩くレオンハルトを見上げた。


「お前が勝手についてきたんだろう」


「いや、そうなんですけど……」


「なら聞くな」


「……はい」


玲は素直に黙った。


その横で、雷電が尻尾を振りながら歩いている。


アビーは玲の足元を歩きながら、時々周囲を見回していた。


『玲』


「ん?」


『この辺り、昨日より嫌な感じがするわ』


「嫌な感じ?」


『ええ』


玲が周囲を見回す。


「……何もいないけど」


『だから怖いのよ』


「……そういうもの?」


『そういうものよ』


その時。


雷電が突然、足を止めた。


「ワン」


「雷電?」


アビーも立ち止まる。


『……来るわ』


「何が?」


『魔物』


レオンハルトが即座に足を止めた。


「全員、止まれ!」


騎士たちが一斉に剣を抜く。


玲は慌てて雷電を見た。


「どこ?」


『前方。木の陰』


玲が目を凝らす。


ガサッ――


茂みが揺れた。


次の瞬間。


「グアアアアッ!!」


巨大な魔物が飛び出してきた。


「うわっ!」


玲が後ろへ飛び退く。


魔物は狼に似ていた。


しかし、その身体は普通の狼の倍近くある。


黒い毛並み。


鋭い牙。


そして赤く光る目。


「……また魔物?」


「玲! 下がれ!」


レオンハルトの声が響く。


「はい!」


玲は後ろへ下がろうとした。


だが。


「ワン!」


雷電が玲の前へ出た。


「雷電!」


雷電は魔物を睨みつける。


「ちょっと! 雷電、戻って!」


「ワン!」


「戻ってってば!」


雷電は戻ってこない。


むしろ、魔物へ向かって走り出した。


「雷電!!」


「お前も下がれ!」


レオンハルトが玲の腕を掴む。


「でも雷電が!」


「騎士に任せろ!」


「でも!」


「お前は戦えないだろう!」


「……」


玲が固まる。


「……そうですけど」


「なら下がっていろ!」


「はい……」


玲は渋々後ろへ下がった。


その直後。


魔物が雷電へ飛びかかった。


「雷電!」


雷電はギリギリで横へ飛ぶ。


魔物の爪が地面をえぐった。


「ワン!」


「雷電、無茶しないで!」


雷電は振り返り、何事もなかったように尻尾を振った。


「……もう!」


玲が叫ぶ。


「雷電、こっち!」


「ワン!」


その隙に、騎士たちが魔物へ斬りかかる。


「今だ!」


「グアアッ!」


魔物が暴れる。


一人の騎士が吹き飛ばされた。


「ぐっ!」


「大丈夫ですか!?」


玲が駆け寄る。


「来るな!」


騎士が叫ぶ。


しかし、玲は止まらなかった。


「怪我してるじゃないですか!」


「お前は下がれ!」


「でも!」


玲は騎士の腕を見る。


深い傷。


血が流れている。


玲は反射的に手を伸ばした。


「……治さなきゃ」


淡い光が、玲の手のひらから溢れた。


「……!」


傷がゆっくりと塞がっていく。


騎士が目を見開く。


「これは……」


「よかった……」


玲がほっと息を吐く。


その時。


『玲!』


「えっ?」


アビーが玲の足元へ駆け寄った。


『魔物が来る!』


玲は振り返る。


魔物がこちらへ向かっていた。


「うそ!」


玲は慌ててアビーを抱き上げる。


「アビー!」


『玲、走って!』


「どこへ!?」


『後ろ!』


「分かった!」


玲はアビーを抱いたまま走る。


「お前! アビーを抱えて前に出るな!」


レオンハルトの怒声が飛んだ。


「出てません! 逃げてます!」


「ならもっと下がれ!」


「はい!」


玲が走る。


しかし魔物は追ってくる。


「ちょっと待って! なんで私ばっかり!」


『玲! 右!』


「右!?」


『そう! 右へ避けて!』


玲が横へ飛ぶ。


直後。


魔物の爪が、さっきまで玲がいた場所を薙ぎ払った。


「ひぃっ!」


『危なかったわね』


「アビー! もうちょっと早く言って!」


『言ったでしょう!』


「そうだけど!」


『それより玲! あの魔物を見て!』


「見てるよ!」


『首の付け根!』


「え?」


『首の付け根が急所よ!』


「急所って言われても!」


『魔力をぶつけて!』


「だから、どうやって!?」


『さっきやったでしょう!』


「知らないよ!」


『知らないって……』


アビーが呆れた声を出す。


「ワン!」


雷電が魔物の後ろへ回り込んだ。


「雷電!」


雷電が魔物の足元を駆け抜ける。


魔物が雷電を追って振り返った。


「雷電、こっち!」


雷電が魔物を引きつける。


『今よ!』


「ええいっ!」


玲はアビーを片腕で抱えたまま、もう片方の手を魔物へ向けた。


「当たれぇぇぇっ!!」


ドォォォン!!


凄まじい衝撃音。


魔力の塊が魔物の首の付け根へ直撃した。


「グギャアアアッ!!」


魔物が吹き飛ぶ。


地面に叩きつけられた。


「…………」


玲は固まった。


腕の中のアビーも固まっている。


雷電だけが、


「ワン!」


と尻尾を振っている。


「……倒れた?」


『倒れたわね』


「……私が?」


『そうね』


「…………」


玲は自分の手を見る。


「私、何したの?」


『私に聞かないで』


「ですよね!」


「ワン!」


雷電が玲のところへ走ってくる。


「雷電!」


玲はアビーを抱えたまま、雷電の頭を撫でる。


「危ないことしないでよ!」


「ワン!」


「もう!」


『雷電も反省しなさい』


「クゥン……」


「……反省した?」


「クゥン」


「ならいいけど」


その時。


「――玲」


低い声が響いた。


「…………」


玲の動きが止まる。


ゆっくり振り返る。


レオンハルトが立っていた。


「はい……」


「こっちへ来い」


「……はい」


玲が恐る恐る近づく。


「何ですか?」


「何ですか、ではない」


「……」


「俺は何と言った?」


「……下がってろ」


「そうだ」


「……はい」


「何故、前に出た?」


「怪我した人がいたから……」


「それは騎士に任せればいい」


「でも、怪我してたら治した方がいいじゃないですか」


「……」


「放っておく方が嫌です」


レオンハルトが黙る。


玲はアビーを抱き直す。


「それに……」


「何だ?」


「私、剣持ってないし」


「そうだな」


「弓もないし」


「そうだな」


「だから、魔法しかないのかなって……」


「……」


レオンハルトが玲の手を見る。


「お前」


「はい?」


「自分の魔法を制御できていないだろう」


「…………」


「図星か」


「……はい」


「何故あんな威力が出たのかも分かっていない?」


「……はい」


レオンハルトは額を押さえた。


「……頭が痛くなってきた」


「すみません」


「謝れば済む問題ではない」


「……はい」


その横で。


『玲』


「なに?」


『怒られてるわよ』


「分かってる!」


「ワン」


『雷電は反省してないわね』


「クゥン……」


レオンハルトが三人を見る。


「……お前たちは、いつもこうなのか?」


「たぶん」


『そうね』


「ワン」


「……そうか」


レオンハルトが深く息を吐く。


「もういい」


「怒ってます?」


「怒っている」


「……ですよね」


「だが」


レオンハルトは玲を見る。


「お前が怪我人を助けたことは、責めていない」


玲が顔を上げる。


「……」


「むしろ、感謝している」


玲の顔が少しだけ緩む。


「よかった……」


「ただし」


「はい」


「次からは俺の指示を聞け」


「……はい」


「絶対にだ」


「……はい」


「本当に分かっているのか?」


「分かってます!」


玲が頬を膨らませる。


その様子を見て、レオンハルトの口元が僅かに緩んだ。


「……ならいい」


そして。


「玲」


「はい?」


「少し話がある」


玲は首を傾げる。


「何ですか?」


「お前が王城から来たという話だ」


玲の表情が変わった。


「……」


レオンハルトは周囲を見る。


「ここでは話しにくい。少し離れるぞ」


「……分かりました」


玲は雷電を見る。


「雷電、アビー」


「ワン」


『ええ』


二匹を連れて、レオンハルトの後を追った。


少し離れた場所。


騎士たちの姿が見えなくなったところで、レオンハルトが足を止める。


「話せ」


「……何を?」


「王城で何があった」


玲は黙った。


「何故、逃げた?」


「……」


「王城から逃げる理由が、ただの気まぐれとは思えん」


玲は俯いた。


雷電が玲の足元へ寄り添う。


アビーは玲の腕の中でじっとしている。


『玲……』


「……うん」


玲は小さく息を吐いた。


「私……」


レオンハルトを見る。


「殺されそうになったんです」


レオンハルトの表情が変わった。


「何?」


「王城で出された食事に……毒が入ってました」


「……」


「雷電とアビーが気づいてくれて、食べずに済んだんです」


『あの時は本当に危なかったわ』


「……そうだったね」


玲は苦笑した。


けれど、その目にはまだ恐怖が残っていた。


「だから、逃げました」


「誰が毒を入れた?」


「分かりません」


「心当たりは?」


「ありません」


「何故、狙われた?」


「それも……」


玲は首を振った。


「分からないんです」


レオンハルトは黙っている。


「私、召喚されてすぐに『聖女じゃない』って言われて」


「……」


「その後、部屋に閉じ込められて……」


玲はアビーを抱く腕に少し力を込めた。


「食事に毒が入ってて」


声が震える。


「怖くなって……逃げました」


レオンハルトの目が鋭くなる。


「王城は、お前を殺そうとした可能性がある」


「……たぶん」


「ならば、戻るな」


玲は少し驚いた顔をした。


「……はい」


「王城へ戻る気は?」


「ありません」


即答だった。


「二度と戻りたくないです」


レオンハルトは玲を見る。


しばらく黙っていた。


そして。


「分かった」


「……?」


「お前の話は、聞かなかったことにする」


「え?」


玲が目を丸くする。


「俺は何も聞いていない」


「……ありがとうございます」


玲が小さく笑う。


その時。


アビーが玲の腕の中からレオンハルトを見る。


『玲』


「ん?」


『この人には話しても大丈夫なの?』


玲はレオンハルトを見る。


真っ直ぐな目。


鋭いのに。


何故か、嫌ではない。


「……たぶん」


『たぶん?』


「うん」


玲は少し笑った。


「この人なら、大丈夫な気がする」


レオンハルトの眉が僅かに動いた。


「随分と信用されているらしいな」


「え?」


「いや」


レオンハルトは視線を逸らした。


玲は首を傾げる。


「変な人」


「お前にだけは言われたくない」


「ひどい!」


「ワン!」


『雷電、今のはレオンハルトの方が正しいわ』


「アビーまで!」


レオンハルトの口元が、ほんの少しだけ上がった。


しかし――


その表情はすぐに消えた。


王城。


毒。


そして、聖女ではないとされた女。


レオンハルトの中に、一つの疑問が残った。


なぜ、この女は召喚された?


そして――


なぜ王城は、この女を殺そうとした?


答えはまだ分からない。


ただ一つ。


玲が思っている以上に。


この女には、何かがある。


レオンハルトはそう確信し始めていた。

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