ごにんの数えかた
Webブラウザで楽しめるARG(代替現実)ゲームとして開発した「コンセプトカフェ ステラリウム」のサイドストーリー。
ゲームをクリアした後に読んでいただくと、より楽しめるはずです。
https://celadon-strudel-70d511.netlify.app/
るなは、数を数えるのが苦手だった。
高校の修学旅行でも、五人分のお土産を買うつもりで六つ買った。自分の分を忘れて、もう一つ足したからだ。
「るなを入れて五人だよ」
ほのかが笑った。
「るなを入れたら、ほのかちゃんが出ちゃうとおもったの」
「出ないよ。ひかり、すばる、みお、るな、ほのか。ほら、五人」
ほのかは、るなの指を一本ずつ折った。
そのときから、るなにとって五は、指の数ではなく名前の数になった。
ひかり。
すばる。
みお。
るな。
ほのか。
二〇二五年三月二十日、サイトからほのかのプロフィールが消えた。
データは残っていると聞いていた。見えない場所へ移しただけ。ブログも、卒業キャストのアーカイブとして保管する。
それでもCASTのページには、四人しか並ばなかった。
るなは何度もページを更新した。
ひかり、すばる、みお、るな。
四人。
「サイト、こわれてる」
るなが言うと、みおは首を振った。
「壊れてない」
「だって、たりないよ」
「うん」
「たりないのに、こわれてないの?」
みおは少し考えた。
「足りないまま、動いてる」
その言い方が、るなには悲しかった。
卒業告知のあとも店は開いた。客が来て、飲み物を注文し、キャストは笑った。
店は壊れていなかった。
ほのかがいなくても動く店を、ほのかが作った。
そのことが嬉しくて、嫌だった。
五日間、るなはブログを書けなかった。
画面を開いて、閉じた。
「きょうのまかない」と題名をつけて、消した。
パンケーキがおいしかった。みおが本を二冊忘れて帰った。すばるの誤字を見つけた。ひかりが閉店後もずっとパソコンを見ている。
書くことはたくさんあった。
けれど、どの一日にもほのかがいない。
るながブログを書けば、四人の店の新しい日が増える。
ほのかを置いて進むようで、送信できなかった。
三月二十五日、女の子がひとりで来店した。
高校生くらいだった。卒業告知を見たと言い、端の席に小さな星形のキーホルダーを置いた。
「ほのかちゃん、辞めちゃったんですよね」
「うん」
るなは答えた。
「会ったことはないんですけど、ブログ好きでした。文章が毎回ちがって、おもしろくて」
女の子は笑った。悪意はなかった。
「不思議な人でしたよね。結局、どんな人だったんですか?」
るなは困った。
いちごが好き。チョコミントも好きだと書いた。文章は丁寧で、絵文字が多くて、短くて、ひらがなが多い。
ブログのほのかは、四人の中に散らばっていた。
本当のほのかは。
「おみやげをね、六こ買うひと」
「六個?」
「五にんなのに。るなのぶんをわすれて、あとから一こたすから」
説明しながら、自分の記憶違いに気づいた。
六つ買ったのは、るなだった。
「あれ、ちがった。ほのかちゃんじゃなくて、るなだ」
女の子が笑った。
「仲よしだったんですね」
その言葉で、るなの中に何かが落ち着いた。
ブログを上手に書けなくてもいい。
ほのかのことを正しく説明できなくてもいい。
思い出は、誰のものだったか混ざるくらい、一緒にいた。
女の子が帰ったあと、るなは端の席に座った。
初めてだった。
「ちょっとだけ、かしてね」
ノートパソコンを開く。
題名を打った。
《ごにんは、ごにんだよ》
本文を書き始める。
《きょう、おきゃくさまに、ほのかちゃんはどんなひとってきかれました。》
《うまくこたえられなかったです。》
《るなのなかにいるほのかちゃんと、ひかりちゃんのなかにいるほのかちゃんと、すばるちゃんと、みおちゃんのなかにいるほのかちゃんは、ちょっとずつちがうのかもしれません。》
そこまで書き、何度も読み直した。
最後に一行を足した。
《でも、4にんになったんじゃないよ。5にんは、5にんだよ。》
時刻は二十時ちょうどだった。
予約投稿にせず、そのまま公開した。
すぐにすばるからメッセージが来た。
《るな〜〜〜〜(TT)(TT)(TT)》
みおからは、《読んだ》だけ。
ひかりは店の奥にいた。出てきて、るなの頭を撫でた。
「ありがとうございます」
「なんで、ひかりちゃんがおれいいうの」
「言いたかったので」
るなは端の椅子から立った。座面を両手で払い、カウンターとの間を少し直した。
「もういいよ」
椅子へ向かって言った。
「かえすね」
それから自分の指を一本ずつ折った。
ひかり。
すばる。
みお。
るな。
ほのか。
五本すべてを握ると、拳がひとつできた。




