↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/7

ごにんの数えかた

Webブラウザで楽しめるARG(代替現実)ゲームとして開発した「コンセプトカフェ ステラリウム」のサイドストーリー。


ゲームをクリアした後に読んでいただくと、より楽しめるはずです。

https://celadon-strudel-70d511.netlify.app/

るなは、数を数えるのが苦手だった。


高校の修学旅行でも、五人分のお土産を買うつもりで六つ買った。自分の分を忘れて、もう一つ足したからだ。


「るなを入れて五人だよ」


ほのかが笑った。


「るなを入れたら、ほのかちゃんが出ちゃうとおもったの」


「出ないよ。ひかり、すばる、みお、るな、ほのか。ほら、五人」


ほのかは、るなの指を一本ずつ折った。


そのときから、るなにとって五は、指の数ではなく名前の数になった。


ひかり。


すばる。


みお。


るな。


ほのか。


二〇二五年三月二十日、サイトからほのかのプロフィールが消えた。


データは残っていると聞いていた。見えない場所へ移しただけ。ブログも、卒業キャストのアーカイブとして保管する。


それでもCASTのページには、四人しか並ばなかった。


るなは何度もページを更新した。


ひかり、すばる、みお、るな。


四人。


「サイト、こわれてる」


るなが言うと、みおは首を振った。


「壊れてない」


「だって、たりないよ」


「うん」


「たりないのに、こわれてないの?」


みおは少し考えた。


「足りないまま、動いてる」


その言い方が、るなには悲しかった。


卒業告知のあとも店は開いた。客が来て、飲み物を注文し、キャストは笑った。


店は壊れていなかった。


ほのかがいなくても動く店を、ほのかが作った。


そのことが嬉しくて、嫌だった。


五日間、るなはブログを書けなかった。


画面を開いて、閉じた。


「きょうのまかない」と題名をつけて、消した。


パンケーキがおいしかった。みおが本を二冊忘れて帰った。すばるの誤字を見つけた。ひかりが閉店後もずっとパソコンを見ている。


書くことはたくさんあった。


けれど、どの一日にもほのかがいない。


るながブログを書けば、四人の店の新しい日が増える。


ほのかを置いて進むようで、送信できなかった。


三月二十五日、女の子がひとりで来店した。


高校生くらいだった。卒業告知を見たと言い、端の席に小さな星形のキーホルダーを置いた。


「ほのかちゃん、辞めちゃったんですよね」


「うん」


るなは答えた。


「会ったことはないんですけど、ブログ好きでした。文章が毎回ちがって、おもしろくて」


女の子は笑った。悪意はなかった。


「不思議な人でしたよね。結局、どんな人だったんですか?」


るなは困った。


いちごが好き。チョコミントも好きだと書いた。文章は丁寧で、絵文字が多くて、短くて、ひらがなが多い。


ブログのほのかは、四人の中に散らばっていた。


本当のほのかは。


「おみやげをね、六こ買うひと」


「六個?」


「五にんなのに。るなのぶんをわすれて、あとから一こたすから」


説明しながら、自分の記憶違いに気づいた。


六つ買ったのは、るなだった。


「あれ、ちがった。ほのかちゃんじゃなくて、るなだ」


女の子が笑った。


「仲よしだったんですね」


その言葉で、るなの中に何かが落ち着いた。


ブログを上手に書けなくてもいい。


ほのかのことを正しく説明できなくてもいい。


思い出は、誰のものだったか混ざるくらい、一緒にいた。


女の子が帰ったあと、るなは端の席に座った。


初めてだった。


「ちょっとだけ、かしてね」


ノートパソコンを開く。


題名を打った。


《ごにんは、ごにんだよ》


本文を書き始める。


《きょう、おきゃくさまに、ほのかちゃんはどんなひとってきかれました。》


《うまくこたえられなかったです。》


《るなのなかにいるほのかちゃんと、ひかりちゃんのなかにいるほのかちゃんと、すばるちゃんと、みおちゃんのなかにいるほのかちゃんは、ちょっとずつちがうのかもしれません。》


そこまで書き、何度も読み直した。


最後に一行を足した。


《でも、4にんになったんじゃないよ。5にんは、5にんだよ。》


時刻は二十時ちょうどだった。


予約投稿にせず、そのまま公開した。


すぐにすばるからメッセージが来た。


《るな〜〜〜〜(TT)(TT)(TT)》


みおからは、《読んだ》だけ。


ひかりは店の奥にいた。出てきて、るなの頭を撫でた。


「ありがとうございます」


「なんで、ひかりちゃんがおれいいうの」


「言いたかったので」


るなは端の椅子から立った。座面を両手で払い、カウンターとの間を少し直した。


「もういいよ」


椅子へ向かって言った。


「かえすね」


それから自分の指を一本ずつ折った。


ひかり。


すばる。


みお。


るな。


ほのか。


五本すべてを握ると、拳がひとつできた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。