↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/7

明るすぎる星

Webブラウザで楽しめるARG(代替現実)ゲームとして開発した「コンセプトカフェ ステラリウム」のサイドストーリー。


ゲームをクリアした後に読んでいただくと、より楽しめるはずです。

https://celadon-strudel-70d511.netlify.app/

すばるは、「卒業」という言葉が嫌いだった。


卒業は、前へ進む人のための言葉だ。


花束を抱えて、泣きながら笑って、また会おうねと言える人のためのものだ。


ほのかは前へ進んだわけではない。会おうと言っても、もう会えない。


だから二〇二五年三月、ひかりが告知文を見せたとき、すばるは最初の一行でスマートフォンを伏せた。


《キャスト「ほのか」卒業のお知らせ》


「やだ」


「すばる」


「やだって。出さなくてよくない?」


営業後の店内に、すばるの声が響いた。


「ブログだけ置いとけばいいじゃん。月一回でいいから更新しよ。あたし書くよ。今度は間違えない。誕生日も、曜日も、ちゃんと確認するから」


「そういう問題じゃない」


みおが言った。


「じゃあ何の問題なの」


「ほのかの時間を、私たちが勝手に進め続けること」


「止めたら死んじゃうじゃん!」


声にしてから、すばるは自分の言葉の残酷さに気づいた。


るなが泣き出した。


ひかりは何も言わなかった。


ほのかが亡くなったあとも、ブログを三ヶ月続けた。


最初の一週間は、予約済みの記事が残っていた。誰も止められなかった。二十一時になると、生きていたときと同じように記事が公開された。


《あけましておめでとう!》を書いたのはひかりだった。


その記事についた「嘘つき」というコメントを、すばるは十回読んだ。


反論を書いては消した。


何も知らないくせに。


これは嘘じゃない。


ほのかちゃんが楽しみにしてたんだから。


じゃあ今は、誰のために書いているの。


最後の問いだけが消せなかった。


「ステラだっているじゃん」


すばるはカウンターの隅に置かれた、星型の小さな端末を指した。サイトのチャットボットと同じ顔が描いてある。


「ほのかちゃんの言葉でしゃべってる。ステラはずっといてよくて、ブログはダメなの?」


「ステラは、新しいことを言わない」


ひかりが静かに答えた。


「私たちは、ほのかに新しい言葉を言わせ続けてる」


「いいじゃん」


「よくない」


「なんで!」


「間違えるからです!」


ひかりが初めて声を荒らげた。


「私たちは、ほのかなら何を好きになるか、来年どんな言葉を使うか、もう知ることができない。ずっと二年前のあの子を、私たちの都合で動かすことになる。それは——」


ひかりはそこで言葉を切った。


店の時計が、二十一時を指していた。


何も投稿されない二十一時だった。


すばるは椅子を蹴るように立ち、店を出た。


夜の駅前を歩いた。コンビニのラジオから、昔のアイドル曲が流れていた。


ほのかが好きだった曲だ。


高校の文化祭で、五人で振り付けを覚えた。ほのかは誰より下手で、すばるは誰より大げさに踊った。病室でも小さく手だけ動かして、二人で笑った。


すばるはコンビニの前でしゃがみ込んだ。


曲が終わるまで泣いた。


翌日、病院のあった場所へ行った。


建物は何も変わっていない。面会受付の前を、知らない人たちが通り過ぎる。ほのかがいた部屋には、もう別の誰かがいる。


すばるは待合室の端で、スマートフォンを開いた。


ほのかとの最後のメッセージを読む。


《あしたのブログなに?》


《ひみつ☆》


《すばるが書くとすぐわかる》


《なんで!?》


《明るすぎるから》


あのときは文句を言った。いま読むと、それは褒め言葉だった気がした。


明るすぎる星は、昼の空では見えない。


消えたあとも、暗くなって初めて届く光がある。


すばるは告知文を開いた。


ひかりが書いた文章は短かった。理由を書かない。イベントもしない。感謝だけを記す。


その下に一文を足した。


《これまで、ほのかを見つけてくださったすべての方へ、心より御礼申し上げます。》


消して、もう一度打った。


見つけてくださった。


在籍していた、でも、応援してくれた、でもない。その言葉なら、ほのかを過去形だけにしなくて済む気がした。


店へ戻ると、四人はまだ昨夜と同じ席にいた。


「卒業イベントは、やらないから」


すばるは言った。


「ほのかちゃんが来られないイベント、絶対やらない。写真も増やさない。ブログも、もう書かない」


ひかりが頷いた。


「でも、消さないで」


「消しません」


「プロフィールも、見えなくするだけ。データは消さないで」


「はい」


「あと、卒業って、あたしはまだ納得してない」


「はい」


「ずっと納得しないから」


「それでいいです」


三月二十日、告知が公開された。


すばるはその日、ブログを書かなかった。


代わりに閉店後、ほのかの好きだった曲を流した。


誰も踊らなかった。曲の最後になって、るなが小さく手を動かした。病室のほのかがしていたのと同じ振りだった。


すばるも手を上げた。


みおが続き、最後にひかりが続いた。


四人しかいない店で、五人分の振り付けが揃った。


曲が終わると、すばるは泣きながら笑った。


「ぜんぜん卒業できてないじゃん」


「しなくていいんじゃない」


みおが言った。


「店を、辞めても」


端の椅子を見た。


「友達は、辞めないから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。