12.
陽が落ちる。もう、時間がない。
伊緒利先輩から聞いた斎己先輩の様子は、タイムリミットが近いことを指し示しているようだった。
決意が揺るがないうちに、丘を登る。枯れ葉を踏みしだき、一本の桜の木を目指す。
周囲を取り囲む夕靄の向こうに、淡い、かすかな光が見える。
きっと、そこに先輩はいる。まだ、私を待っている。
ここは、私がつくった檻のようだ。目を塞ぎ、口を閉ざし、何もしない代わりに誰も傷つけない、透明な檻。
ずっと、その中でまどろんでいるつもりだった。
――斎己先輩さえ、現れなければ。
先輩がしゃべるたび、強引に私を連れ出そうとするたび、檻に小さな亀裂が入った。適当で、いい加減で。私の拒絶なんかタンポポの綿毛よりも軽く蹴飛ばして。
約束を破ることも多々あった。……けれど、私は、その軽さに救われてきたのだ。
一歩一歩、桜に近づく。一足進むごとに、先輩との思い出が一つずつ思い出されてゆく。
そのたびに亀裂は増え続けて――、とうとう、上から下までを貫く大きなヒビが入った。
手を伸ばし、亀裂をそっとなぞる。それだけで檻はバキンと砕け、無数の破片となって降り注いだ。
キラキラ、キラキラと舞い落ちる透明な欠片が、とても切なくて。
その合間に見えた青白い花びらに、息が止まった。
――桜。
桜が、咲いている。丘に昔から立っている、樹齢二百年ともいわれる巨大な一本桜が。
幻でも、見間違いでもない。確かに白い花々が、夕闇の中に浮かんでいた。
「――よお。やっと来たな」
「……先輩……」
先輩の顔色は明らかに悪かった。それでも、体を持ち上げ、立ち上がって笑ってみせる。
「……まだ、待ってたんですね」
「待っていたのは、おまえだろ」
――おまえが俺を、待ってたんだろ。
目線で語る先輩に向かって、私も辛うじて微笑んでみせた。
そうだ、先輩の言う通り。
――待っていたのは、私だった。




