7 ドリア(1)
今日は土曜日。お休みである。まずは2人の夕食用にカレーを作っておきつつ、凛果に昼はいらないと言っておく。今日は夜までお出かけするのだ。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい」
父さんまだ寝てるな。
俺はファッションセンスがないので私服も地味だ。チャコールグレーの薄手のパーカーにベージュのチノパン。うーん、陰キャ。
2年生は修学旅行がある。これが3泊4日なのだが、ここで問題なのはそんなにたくさん服を持っていないことだ。今のままでは最終日、着回すか裸になるかの2択になる。
俺は服のセンスがないため1人では選べない。同じ服になってしまう。凛果に選んで貰えればよかったのだが、凛果は俺と同レベルのファッション音痴である。父さんも同じなので血筋だな。
ということで奥の手だ。というより最終手段。
正直気まずいが、別に仲が悪いわけじゃないんだ。高校が違うから疎遠になっただけで。1年間以上関わりがなかったが、しかしそれまでの関係がなくなったわけでもない。せっかくなら仲良くしたいじゃないか。そう、勇気を出すのが肝心なのだよ
嗅ぎ慣れた匂い――
「ん?早いね。まだ30分前だよ?」
「そういう貴女はなぜもういるんですかね?」
駅到着。
ということで疎遠になった幼馴染である。しかも美人さん。
俺にもこんな幼馴染がいるんだぜ。同じ高校なら完璧だったのに。
「私がユウマの服を選ぶ、代わりに今日買い物に付き合ってくれるんだよね?」
「そ。今日はよろしくな、未来」
吉井未来。美容師志望でまさかの俺の幼馴染。ぱっちり二重にナチュラルメイク。さらさらの髪はハーフアップにしていて、爪まで綺麗に整えている。品のある華やかさといったところだろう。中学のころから別嬪さんだったが、高校生になって拍車がかかったようだ。
肌が白いのはあれだな。日焼け止めを塗ってるのもあるだろうが、どうせいまだにインドアを極めてるんだろう。私服からしてオシャレなのに勿体ない。
多分匂いからしてシャンプーも変えてないな。変わったところはたくさんあるが、しかしこいつは確かに俺の幼馴染である。
「急に連絡きて驚いたんだけど」
「悪かったって」
連絡するのだって勇気が必要なんだぞ。
復縁したいとは1年生終わりごろからずっと思っていた。しかし勇気が出ず、理由を探していたのだ。へたれと笑いたければ笑えばいいさ
「それにしても、見違えたな…」
「ふふん、そうでしょ」
自慢気な顔もマジで可愛い。俺も美容師目指せばよかったか。
あり得ないけどな。自分の進路は自分の意思じゃないと。隆二と衣笠さんのように恋仲だったりするならともかく、彼女はただの幼馴染である。不確かな未来との未来のために今を犠牲にする気はないのだ。
電車に乗って都会に出る。俺としては駅のウニクロ、なんならCUでもいいんだが、まあ未来の買い物に付き合わないといけないからな。未来くらいの女ならこんな都会の成り損ないでは満足できないのだろう。電車1本で行けるのが救いか。
やっぱ休日は電車混んでるな。朝の通勤ラッシュとかはもっと凄いらしいが、今だって普通に座れないしパーソナルスペースぐちゃぐちゃである。
なんか未来がスマホと睨めっこしてる。
「何してるんだ?」
「前髪整えてるの」
スマホの自撮りモードってそのためにあったのか。なるほろ
「まずはご飯にしましょうか」
「いいな。マルドナクド?吉田屋?シーゼリア?」
「なんでどんどん価格帯安くなってるのさ。シーゼリアにするよ」
1番安いじゃないか。メニューによるけど。
駅から歩いて5分。お昼には少し早いがシーゼなら大丈夫だろ。
「何にする?」
「太平洋風ドリアとフリードリンク」
「俺と同じだな」
ここはSeazeria。海産物に自信があるファミレスで、とにかく安くて美味いのが特徴だ。
この2つを頼むと計500円のワンコインで楽しめるので俺たちの中では鉄板である。
多分ホール担当の人件費削減のため、注文はスマホだ。ちゃちゃっと済ませておく。
「先ドリンク汲んできていいぞ。一応見張っとくから」
「ありがと」
一応な、一応。流石に荷物盗られるとは思ってないが、気をつけるに越したことはないだろう。
1分ほどで帰ってきた。ホットココアとコーラか。甘くて健康に悪そう。
「ほな行ってきます」
「いてらー」
未来がココアとコーラで、見てるだけで甘そうだからな。俺はジンジャーエールとアイスコーヒーにしよう。
ドリンクバーに何度も行くのは面倒だから一回で2つ淹れるというのは未来の家の家訓である。
「「ふぅ」」
「なんか凄く甘そうじゃないか。」
「そっちこそ、それブラックだよね?苦くて飲めたものじゃないよ」
「そこは好みの問題だが。お前はそんな健康に悪そうなもの飲んでいいのか?」
「いつもは水とかハーブティーだけだからいいの」
「ほーん」
ドリアを待つ間、互いに最近のことを適当に話す。
勉強のこと、運動のこと、健康のこと、趣味のこと。
凛果がますます可愛くなっていること、友人カップルがところ構わずイチャつくこと。
ヘアカットで最優秀になれたこと、憧れの人が講師を担当してくれたこと。
ずっと一緒にいたのだ。一年会わないだけで積もる話はいくらでもある。
「ユウマが料理当番とかwwウケるw」
「これでもちゃんとやってるんだからな。今日だってカレー作ってから来たし」
「ほへー。私も料理練習しようかなあ」
「レシピに従うだけだぞ」
「それが難しいんだけどねぇ」
などと話しているとようやくドリアがくる。未来と話していたからよかったが、1人で待ってたりしたらすごく長く感じそうだな。
吉井未来: 悠真の幼馴染。幼稚園から一緒。美容系の道に進むために悠真とは離ればなれになった。一瞬北原(悠真の高校)に行こうとも思ったが、大事な進路を他人で決めるのはいけないと思い美容科がある高校へ。悠真と離れるのは彼女としてもどこか寂しかったようだ。




