第四十三話 失われた旋律を求めて(メグとご陰キャさまの冒険譚 四)
「いやお前さ、やっぱ病院行けって」
魂をもってかれたようにフルートをガン見するご陰キャさまの額に、メグが何度もでこピンしながらそう言った。ご陰キャさまはすっとぼけた表情を浮かべて言った。
「ん。なんのこと?」
「とぼけんな。お前あれ舐めたいとか思っただろ」
「てかさ、人のこと変態みたいに言うのやめてもらえますぅ?」
「筋金入りのど変態だろが。‥‥そんで、由香っちはその150曲のレパートリーのなかから、ひょっとしたらこの曲がそうなんじゃないかなあ、ってやつはないの?」
メグが由香のほうに向きなおりながらそう訊くと、由香は首を振った。
「いいえ、まったく。逆に英雄の方たちのほうこそ、そこらへんのとこご存知じゃないのかなあって‥‥」
メグが由香の顔をじっと見つめたまま、由香には聞こえないように小声で言った。
「うーん。由香っちの性格がゆるゆるなのか、カエデの設定そのものがゆるゆるなのか、AIのあたしでも見きわめがつかんわ」
ご陰キャさまが頭のうしろで両腕を組み、上半身を反らして言った。
「なんでもいいんじゃね。どのみちカエデっちの書いたシナリオに沿って話が動いていくんだから、そこは考えをめぐらすだけ時間の無駄かもしれんのよ。よくマジックでさ、マジシャンが小銭に紙コップを被せて、どの紙コップのなかに小銭があるか当ててくださいってのがあるじゃない。でもタネも仕掛けもあるわけだから、選んだ紙コップに小銭が入っているかどうかは最初から決まっているっていう。あんな感じで、どっちみち俺らが選ぶのは、マジシャンに誘導された紙コップでしかないのよ。それが当たりかどうかは、カエデっちが決めることなんだから」
メグは感心したように、何度もうなずきながら言う。
「その選択自体にはあまり意味がないってわけか。なるほど。お前みたいなアホにしては気の効いたこと言うな。でも、わざわざ150曲のレパートリーなんて面倒くさそうな縛りを加えてるくらいだから、なんか意味がありそうな気もするんだけど‥‥」
とつぜん由香が大声を出した。
「そういえば、思い当たる曲がひとつだけあるんです」
「え。あんの」
「150曲のレパートリーには含まれていないんですけど、ずっと昔から頭にこびりついているメロディーがあるんです」
「ん? どーゆーこと?」
「150曲のレパートリーっていうのは、あくまでこの島に存在するメロディーのことなんです。いってみれば、この島の住民の共有財産みたいなものですね。それは、たとえば楽譜として残ってるものだったり、口承で伝えられてきた、少なくともふたり以上は知っているメロディーとかだったりするわけです。でもこのメロディーはなぜかあたししか知らないんです。まるで無意識のうちに作曲して、その記憶自体を忘れてしまったみたいに」
メグはご陰キャさまと顔を見あわせ、それから由香に向かって言った。
「じゃあ、たぶんそれじゃないの。てか、えらく簡単に見つかったもんね。でもそうなると、由香っちが150曲を毎日練習してた意味なんてなかったことになるじゃない」
ご陰キャさまが頭のうしろで両腕を組んだまま、メグのほうに顔だけ向け、ひどく真剣な表情で言った。
「いや、由香りんがフルートを吹いて吹いて吹きたおしてるっていう設定になるから、このフルートにはちゃんと存在意義があるってことになるわけよ」
メグもご陰キャさまと同じように真剣な表情を浮かべて言った。
「ああ、そっか。最初から一曲に絞りこまれてる設定だったら、由香っちもそこまで熱心に練習してないんだもんね。この場合はフルートそのものに価値があるってんじゃなく、由香っちが日常的に吹いてるフルートだからこそ、なんていうか、アイテム的な意味があるんだもんなあ。‥‥って、お前ほんと今度ログアウトしたら二度とこの仮想空間に入れないようにしてやっからな。マジであのフルートにも由香っちにも変なことすんなよ」
メグは意味不明な会話に首を傾げている由香に向かって言った。
「由香っち、ちょっとそれ吹いてみてくれん?」
「あ、はい」
由香は神妙な面持ちをしてフルートにそっと口につけた。その口もとをガン見するのをちらりと見て、メグは黙ったまま、ご陰キャさまの右頬にグーパンチを食らわせる。由香は目を閉じ、しなやかな運指でメロディーを奏で、メグとご陰キャさまも目を閉じてそれに聞き入った。スローテンポでじつに美しい曲だった。明らかにおかしなリズムをとっているご陰キャさまに、メグは目を閉じたまま、ふたたびご陰キャさまにグーパンチを食らわせた。
「なんで目を閉じてんのにそういうのがわかんのよ」
「空気の動きでわかんの」
「いや、座頭市みたいなこと言わんでくれる」
曲の途中でテーブルのうえに置かれていた由香のスマホが鳴動し、由香はフルートを吹く手をとめ、上半身を屈めてスマホを覗きこむ。画面に表示された「バイト先の店長」という文字を見て、慌てた口調で言った。
「うわ、あいつから電話かかってきた。また急なシフト変更の話かな。ごめんなさい、ちょっと席はずしますね‥‥」
そのままフルートをテーブルのうえに置き、かわりに手にとったスマホを耳に当て、話しながら隣りの和室に入っていって荒々しく襖を閉めた。ご陰キャさまが声を落として言う。
「ああいう登録名にすんの、由香りんっぽいんよなあ。バイト先の店長のこと、あいつって呼ぶのもやたらリアルだわ」
「あの曲ってさ、『バット・ビューティフル』じゃないの」
メグがまるで独りごとのように言った。
「うん? 有名な曲なん?」
「ま、有名っちゃ有名よね。大昔のアメリカの映画『リオへの道』の挿入歌でさ、とくにビリー・ホリディがカバーしてから有名になった曲なの。といっても世の中のほとんどの人は知らないだろうけど」
ご陰キャさまが感心したように言った。
「メグちんってさ、まるでAIみたいにそういうことすらすら言えんのな」
「AIだっつうの。しかも由香っち、スタン・ゲッツのヴァージョンで吹いてるし」
「誰それ。ヒップホップ系の人? ‥‥でもあれ、なんか聴きおぼえのあるメロディーだわ」
ご陰キャさまがそう言うと、メグの目が点になる。
「ん。あんた、あれどこで聴いた?」
「たしか高校んときだったかなあ」
「あんたが高校生のときって、もう十年くらいまえの話でしょ。よくおぼえてるね。たしかに綺麗なメロディーには違いないけど、たいていの人たちは一度聴いたくらいじゃすぐ忘れちゃうよ」
「なぜか俺の心を打ったんよ。俺、その曲を聴きながら涙を流したの。音楽を聴いて涙を流したのって、あとにもさきにもそれっきりだったから、記憶に引っかかってんのよ。つうても、いまのいままで忘れてはいたんだけど」
メグがご陰キャさまのほうに向きなおって訊いた。
「それってさ、笛舐めたあとの話、それとも笛舐めるまえの話、どっち?」
ご陰キャさまは唸りながら目を細めて天井を見あげた。
「たしかあれは高二の二学期だったはず。一学期の終わりくらいに笛舐め妖怪が降臨したあと、俺を取りかこんでいた花色の世界が無事死亡して、毎日重い足引きずりながら学校通ってた頃だわ」
「二学期っていうと、文化祭の季節だな。由香っちって、吹奏楽部に入ってたんだよね」
「そうだ。思い出した。どんよりした気分で、文化祭やってる校内ひとりでさまよいながら、どこからか聞こえてくるこのメロディーをふらふらと追っかけていったんだっけ。そして教室の開いたまんまのドアから、由香っちがこの曲を演奏してるのを見たの。で、気がついたら俺の頬に涙がつたってたんよ」
メグは深く溜め息をついてから言った。
「そりゃ、あんたの胸を打つわ。この曲の歌詞は、恋することは愚かで悲しいけど、でも恋することは美しい、って内容のものなの。‥‥十七才くらいの女の子が、こんな同年代の誰も知らないはずの曲を、わざわざ文化祭っていう舞台で演奏したってことに、なんか胸が締めつけられるな」
「ん‥‥どういうこと?」
メグがご陰キャさまの顔をじっと見据える。
「もしかしたら由香っちは、その時点でもまだあんたのことが好きだったかもしれないってこと。高校生の女の子が、英語の歌詞を踏まえてこの曲を演奏したかどうかはさすがに微妙なラインだけど、あんたと由香っちの通ってた高校の偏差値を考えると、まんざらあり得ない話でもないんだよね。あんた、笛舐めたあと、由香っちに話しかけたことある?」
「話しかけるわけないっしょ。まえにも話したけど、由香りん、笛舐められてからしばらく学校に来なかったし、来るようになってからもこっちのこと露骨に避けてたもん」
「それが笛舐められた女子の典型的な反応だろが、このばかたれ。こんなことになった場合、女子のほうから話しかけてくることなんて、まずないんだからね。少なくとも何回かプチデートするような関係ではあったんだから、きちんとあんたのほうから話しかけて、謝罪するなり言いわけなりするのが筋だったんじゃないの?」
「俺みたいなヘタレにそんな勇気あるわけないじゃない」
ご陰キャさまは泣きそうな顔をして、鼻水を垂らしながらそう言うと、口を八の字にまげた。メグがつくづく呆れたように言った。
「そのくせ笛舐める勇気だけはあるってんだから、まったく食えねえ野郎だよな、おめえって野郎はよ」
テーブルに置かれているティッシュを盛大に何枚も抜き出して、ご陰キャさまは派手に鼻をかんでから言った。
「でもなんでカエデっちが、俺と由香りんのこんな裏エピソードのこと知ってんの」
「高校が文化祭のウェブサイトつくってて、そこに吹奏楽部の演目とかが書かれてて、あんたの在校期間がネットにつながってる学校のパソコンにデータとして残ってたら、それを掘りかえして点と点を結んだ可能性はあるね。さすがに由香っちの演奏したこの曲を聴いて、あんたが涙を流したなんて話までは知らないだろうけど、そこは賭けに出たんだろうな。外したとしてもべつにリスクはないわけだし」
ご陰キャさまはひとしきり唸ってから言った。
「でもさ、カエデっちがこの曲ぶっこんできたってことは、これが龍をなだめる曲ってことになるわけ? 俺が言うのもなんだけど、それってちょっと悪趣味すぎるんじゃね」
「うーん。なぜかこのアホにはそういう自覚だけはちゃんとあんだよなあ‥‥」
メグが困ったような表情を浮かべてそう言った。
「‥‥失礼しましたぁ」
由香がそそくさと戻ってきて、ふたたび椅子に腰をおろしたのと同時に、玄関のドアが開いてミキが帰ってきた。石板を抱えて台所に入ってきたミキに、メグが椅子から立ちあがって言った。
「おかえりー。ミキちゃん、わざわざあんがとね」
メグが満面の笑みを浮かべながら、両手を差しだして、さも当然のように石板を受け取ろうとするその姿を、ミキが射るような目つきで冷たく一瞥して言った。
「あ、触れないでくださいね」
「え。ダメなの」
「貴重なものですから。逆になんで部外者の方が気軽に触わっていいとか思っちゃったりするんですか?」
「部外者って‥‥あたしたち、そこに書かれてる英雄のはずなんだけど。それにさ、石板そのものはべつに重要なんじゃなくて、そこに書かれてること自体が重要なはずでしょ。あたしたちがこの島に来た以上は、もうそんなもの必要ないっちゃないんだし」
ミキがまるで汚らしいものを見るようにメグの手に視線を落とした。
「手についた油とかで石板が酸化しちゃったりするんでダメです。石板が預言としての役割を終えたとしても、歴史的な文化遺産として神社に祀っておきたいんで」
メグは石板を持っているミキの手を、表情のない目でじっと見た。
「でもさ、ミキちゃん、手袋もはめずに素手で持ってるよね」
「あたしは巫女だからべつにいいんです」
「なにその理屈。巫女だからいいって、ぜんぜん科学的な説明になってないよ。っていうか、ミキちゃんさ、最初に会ったときからかなりキャラ変わってない?」
「変わってませんっ」
「ふーん‥‥まあいいや。じゃあミキちゃんが手に持ったままでいいから、近くで見せてくれる?」
「いいですけど、無駄なことぺらぺら喋って唾とか飛ばさないでくださいね」
メグはその言葉にこめられためいっぱいの悪意を、引きつった笑顔でなんとか受け流した。用心深そうな手つきで差し出された石板を、メグは息さえひそめて、隅から隅までじっくりと眺めた。そして顔をあげ、ミキに礼を言ってからそそくさと椅子に戻ると、ご陰キャさまに声をひそめて言った。
「うーん。とりあえず漢字とかはちゃんとしっかり書かれてある。AI生成によくあるような『なんちゃって漢字』は一文字もないわ」
「AIのメグちんがそういうこと言うと妙にシュールなんよね。ほんでメグちん、それ読めんの?」
メグは残念そうに首を振った。
「いや、あくまでこの世界の独自ルールに則ったアナーキーな漢文だから、翻訳することはできんわ。繋がりがありそうで並びはあえて意図したように無秩序だし、それを解明することはたぶん時間と労力の無駄ね」
「ふうん。なんでそんな設定にしたんだろ。ここまで細部に凝ってんのに」
「これからミキちゃんに読んでもらうんだけど、たぶんあたしが翻訳できちゃう言語だと、ミキちゃんが解釈した部分と、あたしが解釈した部分に齟齬がでてくる可能性があるからね。カエデもそうだけど、カエデの創作物であるミキちゃんも、あたしと同じOSでつくられたAIってことになるじゃない? でもあたしとミキちゃんにはべつべつの人格が与えられているわけだから、当然そういう事態を招く可能性があることになるのよ。カエデがそのリスクをとらなかったのは素直に偉いと思うわ」
ご陰キャさまが何度もうんうんうなずいてから言う。
「メグちんのそういう解説聞いてると、せめて高校くらいはちゃんと出とけばよかったなあって、つくづく思うわ」
「そもそも言語ってものを完璧に翻訳することは、人間でも機械でも不可能なの。外国語で書かれた同じ小説の異なる翻訳を読んだことのある人間ならあるあるなんだけど、読んで受ける印象がかなり変わってくるのね。つまり翻訳者の解釈ってものがそこに介在しているからそうなってしまうわけ。漢文ならなおさらそういう側面がつよく出てくる。でもカエデのつくった独自ルールの漢文ってんなら、それをこっちが呑んでしまえば話が成立するわけじゃない。やっぱ賢いわ、カエデのやつ」
メグはミキのほうに向きなおって言った。
「ミキちゃん、これ読めるんだよね」
「はい」
「すまんけど、うちらのために声に出して読んでくれるかな?」
「いいですけど、静かに聞いていてくださいね」
メグがまた軍人の敬礼のようなポーズをとって、引きつった笑顔を浮かべながら言った。
「了解ですぅ」
ミキがやはり冷ややか目つきでメグを一瞥してから、淡々と石板を読みあげた。
――太古の昔、神のつくられし龍は気ままに空を飛びまわっていた。
諍いの絶えぬ孤島の島民たちを仲裁するよう神に命じられ、龍は天空ひとっ飛び、この島にやってきた。龍の出現によって島民たちは争いの手をとめた。軽やかに空を翔ける龍は島民たちを魅了した。
拍手喝采が起きれば龍だってわるい気はしない。島民たちを背中に乗せて空を駆けめぐり、興がのれば太い炎の柱も吐いた。ところがしばらくすると島民たちは龍に飽きてしまい、龍のことなどそっちのけ、ふたたび争いを始めた。
島民たちに飽きられた龍は拗ね、もはや神に与えられた使命も忘れ、怠惰をむさぼった。神が龍はどうなっていると様子を見にくれば、雲に寝ころび昼寝に興じる無残な姿。神はお怒りになられた。お前自身が島民たちの命を守る盾になれと、神は杖をふって龍に雷を落とした。あわれな龍は一瞬のうちに石となって真っ逆さまに地面に叩きつけられた。
龍は石となって眠った。そのあいだ島民たちは満ちたりた平和に酔うだろう。しかし時を経たのち、その平和を乱す悪漢どもが、分断する島の向こう側より現れる。同時にその悪漢どもと対峙する英雄たちもまた五の月と十五の日に現れる。誰が英雄たちであるかは神に仕えし女人のみが見てすぐにそれと判別する。
なにも恐れぬ彼らは、島の真の平和のため、防壁となった龍を切り刻もうとする悪漢どもと対峙するだろう。ながい眠りからめざめた龍は咆哮をあげ凶暴な牙を剥くが、神に仕えし女人の奏でる旋律は龍を鎮めることができる。ただしそれは旋律が奏でられるあいだの安寧に過ぎず、神からの使命などとうに忘れた龍はただの獣と化すが、英雄たちは神にかわって龍を討伐するだろう。島の平和を守りし龍を切り刻もうとする悪漢どもは、龍の飛翔とともにこちらになだれこむが、英雄たちならきっとそれを制圧することができるはず‥‥
「なんか、どえらいことが書かれてあんな。咆哮をあげ凶暴な牙を剥くとか、そういう脅かすようなこと、わざわざ書かなくてもよさそうじゃない」
ミキが石板を読み終えると、メグが怯えたような表情を浮かべながらそう言った。
「ん。メグちん怖いの?」
「あんたは怖くないわけ」
ご陰キャさまは肩をすくめて言った。
「石になってるあの龍がめざめて襲ってくるなんて、想像できなさすぎて、逆になんとも思わんのよ。俺の貧相な脳味噌じゃ手にあまるっつうか‥‥てかさ、ついさっきまで背筋がぞくぞくしてくるぜとか勇ましいこと言ってたのに、龍が吠えるとか聞かされたらブルッちゃって、メグちんもやっぱ十七才の女の子なんだな」
メグはむずかるように何度も頭を振ってから、泣きそうな顔をして言った。
「あんな巨大な龍ががおーって咆哮をあげて、凶暴な牙を剥くとか具体的なこと聞かされたら、そりゃこっちだって恐くもなってくるわよ。それにさ、結局は由香っちが曲を吹いているあいだしか龍がおとなしくならないとか、うちらが神さまにかわって龍を討伐しなきゃなんないとか、カエデはあたしたちになんか恨みでもあるわけ」
「んー‥‥たぶんあると思うけど」
メグは恨めしげな目つきでご陰キャさまの顔をぎろりと見た。
「冷静にツッコミ入れやがって、えらく余裕こいてるよね。どうせ腹んなかであたしがひとりで龍と戦ってくれるわとか思ってんでしょ。どこまで他人に甘えてんだよ、この穀つぶしニートが。こんなかよわい十七の女の子を龍と戦わせようだなんて、いったいなに考えてんのよ。もし当日になって熱とか出たら、あんたひとりで行ってきてもらうからね」
「いや、遠足じゃないんだから。瑞生クンがあっち側から襲ってくる可能性とか考えたら、メグちん担いででも龍んとこ行くし。つか、AIのメグちんが熱出す可能性なんかまったくないっしょ」
メグがはっとして、さらに泣きそうな顔をした。
「そうか。あたしたち、龍と瑞生クンのダブルパンチがあるってことだよね。うへえ。こりゃ、いまから気が重いわ。……でもさ、めざめた龍とうちらはどうやって戦ったらいいわけ。素手とかじゃ、どう考えたって無理でしょ。あたしはそれなりの腕力はあるけど、龍相手に空手チョップとかじゃサマになんないし。そこらへんの絵的な配慮とかあんのかな」
「ソードがあります」
ミキがまっすぐ片手をあげ、やけに嬉しそうな表情を浮かべながら言った。
「ソードぉ?」
メグが素っ頓狂な声で聞きかえした。
「はい。指が触れただけでそのまますっと骨まで裂けてしまうという、すこぶる切れ味のいい剣です。ただしこれまで使いこなせた人間は誰ひとりとしていないのですが」
ご陰キャさまが思いきり表情を歪めながら言った。
「なにそのむちゃ設定。持ってるだけでも危なくね。そんな剣、誰が使いこなせるってんの」
「もちろん、石板に刻まれている英雄たち‥‥つまりあなたがたです」




