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「あの時、遠くから見てたんだって。途中まで尾行してたらしいの。今日も駅のあたりでうろうろしてたって。買い物をしていた私をみかけてこのアパートをつきとめたってこと。見かけた郁ちゃんの後ろ姿、男の人だと勘違いしたらしい。それで声をかけられなかったんだって。もう他に男がいたって青くなってたらしいの。そんなことあるわけないじゃないねえ」
それは美佐穂の本心だと気づいた。どんな状況でも美佐穂の心にはその男がいた。怒ってはいるけど、嫌いになったわけじゃない。だから家を出てしまっても他の男に心を奪われるようなことは決してないということだ。
私と美佐穂の間にはものすごい温度差があることがわかった。私は同性として美佐穂を愛していた。けど、美佐穂は女友達としか思っていない。その心にはあの男がいた。
今までの美佐穂がしてくれたことは、私を愛していたから料理をし、洗濯、掃除をしてくれたんじゃない。アパートに住まわせてくれたからお礼のつもりだったんだと気づいた。
もし、私が真顔で結婚を迫ったら笑い飛ばすだろうか。いや、美佐穂は私のことを良く知っている。そんな冗談を言うような性分じゃないって。
バカじゃないって思っても「そういうのもいいよね」って言ってくれると思う。少しは希望を残してくれるような言い方をして、「でもちょっと今は無理かもしれない、ごめんね」なんて言うんだろう。
傷つかないようにそんな答えをしてくれるはずだ。
「あの人、私が出て行ってからもう仕事が手につかなくて、大変なプロジェクトを任されているのに、休みをとって探し回ってたんだって。クビになっちゃうかもしれない。そんなあの人に私ったら帰ってって言っちゃった」




