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美佐穂の突きでたお腹を撫でて、「元気に産まれてくるんでちゅよ」なんて声をかけた。この私がだ!
「今日の検診で先生に叱られちゃったの」と美佐穂が言うから、お腹の子になにかあったのかと青くなった。
美佐穂も私の狼狽に気づき、慌てて言いなおす。
「あ、大丈夫。体重が増えぎみだって注意されただけ。幸せ太りかも」
「本当に? 体重が増えただけで医者って怒るの?」
私の思考は、妊婦のことを何も知らない夫たちと同じだった。もっと深刻なことを告げられて、美佐穂が言いだせないのかもしれないなんて勘ぐったりもした。
「本当。あまり脂肪がつくと出産時に出血が多くなることがあるんだって。だから怒られるっていうより注意」
「そんなことがあるんだ。じゃあ、あまり甘い物を買ってこない方がいいのかな」
そう、美佐穂の笑顔のためにケーキやクッキーなんかを毎日のように買ったりしている。
「うん、ちょっと控えた方がいいかな。栄養価の高い物を選んで食べているつもりなんだけど」
そうだった。美佐穂は栄養士だ。その道のプロ。私がいろいろ買ってきてもそのすべてをむやみに食べることはしない。
私はその日、いつも真っ直ぐ帰るところをわざわざ別の電車に乗りかえた。ラベンダーのサボンにへ寄るため。
毎日、二人で使っているから石鹸の減りが激しかった。だいぶ小さくなって使いにくくなっていたから。新しいのを買ってきてと美佐穂に頼まれていた。
三日前のオフの日の昼間、美佐穂とこのカフェを訪れていたというのに、その時に買っておけばよかったとちょっと後悔。
駅からアパートに向かう途中の私は鼻歌まじりでサボンの入った袋を手にしていた。ちょっと袋を開けて匂いを嗅いだ。ほのかなラベンダーのいい香り。
ふと見ると私のアパートの部屋に誰か知らない男が立っていた。ドアを開けたまま玄関先で美佐穂に何か言っている。その後ろからその男の顔を覗き込むように「誰?」と言った。
私と同じくらいの背の男がギョッとして振り返り、胡散臭そうにじろじろと見た。




