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その日の夕方、帰宅途中の電車に揺られながら、中途半端に思いだした係長とのことを考えていた。
私は、昨年の秋、人事課に移動願をだした。どこでもよかった。大槻係長から離れられるなら本当にどこでも。でもまさか、営業に配属されるとは思わなかったけど。
夏に係長とそんなかかわりがあって、私の意識はずっと係長に向いていた。離婚って不幸なことだという印象がある。結婚することが幸せという代名詞なら、その幸せがこわれる離婚は不幸なことっていう理論。
けど、お互いをおもいやる愛情が失せてしまったとしたら、その結婚にしがみつくことが幸せとは言えないと思う。お互い新たな別の人生を選択する方が幸せのうちに入るかもしれない。人の離婚を願う自分がなんだか怖くてそう理屈づけていた。
うだるような暑さから朝晩は過ごしやすい気候に変わりつつある頃、突然係長が欠勤した。
風邪をひいても休んだことのない係長だったから、私は心配した。家庭の事情ということしかわからなかった。その三日後に、やっとその詳細がわかった。
息子さんが事故で入院していると研究員の一人に直接連絡があった。
「下校の時、巻き込まれた事故だったって。今、奥さんと二人で連日病院につめているそうだよ。大変だよな」
「で、けがの具合は?」
「一応、安定はしているらしいけど、集中治療室を出るまで休ませてくれって」
急に浮かび上がった係長の家庭の話。
今までその存在すら感じられなかったのに、ここでは決して見ることのできなかったもう一つの係長の顔を認識させられた。あの人はどんな顔で息子さんを心配し、声をかけているのか。不安でたまらないであろう奥さんの肩を抱きしめているかもしれない。
その頃の薄情な私は、息子さんのことを心配することよりも係長が家族に向き合っているその姿を思い描いていた。




