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係長の手は力強く暖かだ。この手を握りたいって思ったときに握れる、そんな気兼ねのない関係になれるのか。もし可能だとしたらそれはいつなんだろう。
明るいホテルの玄関口。ちょうど客を乗せてきたタクシーが入ってきた。このホテルの宿泊客のようだ。楽しそうにしているカップルが降りた。そのタクシーに私が乗り込んだ。
てっきり係長も途中まで乗るんだと思い込んで、奥の座席まで移動した。係長は五千円札を差し出した。お札を反射的に受け取る。
「じゃあ、また明日」
運転手はそれがさようならの合図だと思い込んで、私がなにか言おうとした鼻先でドアを閉めた。まもなく発進。私はただ無表情で頭を下げるほかなかった。
きっと歩いて帰るんだろう。たとえ五分くらいの道のりでも一緒に乗って欲しかった。でもまだ係長の手の感触が残っていた。手を繋いで、離婚調停中と教えてくれた。
そのことに意味はあると思っていた。すこしだけでも期待をしていいよねと思っていた。
そんなことがあっても翌日の私と係長はいつもの通りだった。あれは夢だったのかもしれないって思うこともあった。
でもふとパソコンから顔をあげると係長がこっちを見ていることが多いことに気づいた。そういう時は目が合うから。そして目だけを細める。それは笑った証拠。
二人だけの空間に満足していた。




