47/60
5
「店に戻って呼んでもらった方が早かったね」
「歩いて大通りに出たら来るかもしれません」と答えた私。
もう少し一緒にいたかったからだ。
私は知っていた。係長の家はここからそう遠くない。私のためにタクシーを一緒に待ってくれていた。
私達は黙って歩き、大通りに出た。夜中近いが車の通りは多い。
「あっちのホテルへ行こう」
そんな言葉に息を止めた。でもすぐに変な妄想を打ち消す。大通りの向こう側に高級ホテルが見えたからだ。そんなホテル前にはタクシーがいつも来るはず。
係長は歩道橋を登り始めた。その背中を見て私も階段を上る。この人がそんな野心を持つわけがなかった。やましいことを考えるならとっくに自分の家へ誘っていることだろう。
私はけっこう酔っていたみたいだ。そんなあり得ないシーンを想像してみた。きっと誘われたらついて行っていたと思う。
さっきまであんなに雨が降っていたのに夜空には星が光っていた。私達の誕生日はいつもこんな天気が多い。梅雨の真っ最中だったり、クラっとするような快晴の日もあったり。
三歩ほど先を歩く係長の脚が止まった。歩道橋の階段を今度は降りるのだ。私に手を差し伸べていた。そんな対応に私はどうしていいのか戸惑ってしまう。




