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 私の意識が過去へと戻っていった。


 去年もその前の年も、係長と誕生祝いということで食事を一緒にしていた。もちろんいつも他の研究員たちと一緒だったけど。そして昨年はなぜか皆が早めに帰った。


 食事の後に飲みに出掛けるがその日は二人きりになっていた。二人きりでグラスを傾けた。別に無理して話をしなくても気にしない。そんな空間が心地よい。私の心は好きですという思いが強くなっていた。


 その頃の係長の家庭のことはよく知らなかった。聞くところによると奥さんと別れたとか別居中だとか。とりあえず今一人暮らしをしていることは火を見るよりも明らかだった。手作り弁当を持参してきたことがない。誕生日などの特別な日も早く帰らないんだから。


 初め私の意識は上司と部下でしかなかった。


 けれどまわりの研究員たちが気を回す。飲みに行けば、私を係長の隣に座らせたりするから少しづつ意識するようになっていた。彼らにしてみれば係長の方もまんざらではないと感じていた様子。


 私には元々人を観察するという力がついていなから、その変化を知る事には疎かった。ただ私のほのかな恋心は少しづつ成長していった。


 毎日顔を見られればいいと思う程度。そんな小さなことは生活に張りができる。


 バーを出ると雨が降っていた。


 かなり激しい雨で、目の前に止まっていたタクシーは次々と帰り人たちをのせて走っていく。私達は完全にそのタイミングから外れてしまい、その場を動けないでいた。


「また次のタクシーがくるだろうから、このままちょっと待とう」


 私は小声ではい、と返事をする。急いで帰りたくなかった。そんな雨の夜、二人きりで立っていることも幸せに感じていた。


 それからタクシーが前の通りで止まってもそれは誰かが呼んだ車両だったり、目と鼻の先で先に乗り込まれてしまったりしていた。


 雨の方がストップした。それから待ってもタクシーは来ない。



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