大槻係長との過去そのほのかな恋心
その日の昼間、オフィス内に一人残っていた。
私はお弁当を電子レンジで温め、社員共有の冷蔵庫から自分の冷茶を取り出した。外は梅雨でずっと雨が続いていた。
さっきまでエレベーターの前で騒いでいた若者社員たちの声がしなくなったから、しばらくは誰もいない空間でのんびりできると思って大きな伸びをした。
「お疲れですか。なんなら肩でもお揉み致しましょうか」
突然の声に驚いて振り向く。そこには竹中がコンビニの袋を下げて立っていた。
「あ、いたの? なんでみんなと一緒にいかなかったの」なんて責めるような口調で言っていた。
普通の人なら顔を歪めるような言い方だったのに、竹中は全く気にしない様子で笑う。
「随分なお言葉、恐縮です。いつもだから気にしませんけどね。今日は殆どの人が外へランチに出掛けるから、鹿島さんと二人きりになれるチャンスだと思って抜けてきたんです」
そう言ってコンビニの袋からサンドイッチとグリーンサラダ、きんぴらごぼうの惣菜を取り出した。身を乗り出して私はそっちを見ていた。竹中は竹中で、私の弁当を勝手に開けて見ていた。
「うわああああ、なんですか、これ。お弁当箱は何の変哲もないただのタッパーなのに中身は高級料亭並みのお弁当じゃないですか」
それはちょっと過大表現だと思ったが、うなづける。
私のお弁当の中身は係長がよく注文していた幕の内弁当のように肉と煮物、揚げ物、色どりのいい野菜がきれいに詰められていたからだ。
もっと簡単な弁当でいいっていうのに、美佐穂はいつも私より早く起きて作ってくれる。
私の目にもそれが義務的な行動ではなく、やりたくてやっているというのがわかるからついつい甘えている。
「今日、実は僕の誕生日なんすよ」
急にそんなことを言うから食べようとしていた私の箸が止った。
「え、冗談でしょ」




