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「私がいつものように母との電話で泣いていたの。母が電話口で困っているのがわかった。これならもうちょっとでしかたがないねって言って迎えにきてくれるって思った。その時、台所にいたおばさんが食べ終わったばかりのお皿を流し台にぶちまけたの。ガシャンってすごい音がして私の涙も止まった。お皿が割れたみたいでおばさんも手にけがをしたみたい。伯父が慌てておばさんに駆け寄って、血だらけになった手を心配してた。おばさん、肩を震わせて泣いていた。もう嫌だって……。その時、おばの背中から漂ってきた怒りが感じられたの。今も思いだす。すごく怖かった」
その言葉の通り、想像していた。私にもその雰囲気が感じられる。
「従兄のお兄ちゃんが言った。私がこの家に来てから叔父と叔母の喧嘩が多くなったんだって。伯父は私がいつまでも泣いていることをおばさんのせいにしたみたい。全然懐かず、家へ帰りたいって泣くのはおばさんが至らないからだって責めたてた喧嘩をしたそうなの。そんなこと全然なかったのに。おばさんはいつだってやさしかった。私はそんな優しさに甘えすぎていたの。その日から私は泣かなくなった。泣けなくなってしまった。私が泣けば、誰かの顔が曇る。笑えば相手も笑ってくれる。それで悲しくても笑顔を作るようになった」
それから数か月後、家へ戻れた。そのまま美佐穂は常に笑顔を作ったという。母親はそんな仮面をかぶったかのような美佐穂を気味悪がった。子供なのに何を考えているかわからないって。
母親はわがままで文句ばかり言う妹をかわいがったらしい。それは伯父の家とは逆の反応だった。笑顔を向ければ笑顔が返るのではなかった。美佐穂が頑張れば頑張るほど母親の目はそれてしまったそうだ。
だから美佐穂も家庭の団らんや食事を楽しむということを知らなかったのだ。
「郁ちゃんに幸せな家庭みたいって言われて、私もそういうことを求めていることがわかった」そう付け加えて美佐穂は口を閉じた。
私は思った。美佐穂と私は似ている。同じような境遇で育った。正面から親にみてもらえず、笑顔でいることを選んだ美佐穂。
私はその反対でいじけてしまった。同じような真逆な二人。




