第2話 使用人として
続きを見ていただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。
適性検査の後、私の生活は大きく変わった。
部屋を追い出され、私物は必要最低限のものだけ残されて、あとは全て没収された。新しく用意された部屋は、邸宅の庭の片隅にある旧使用人小屋の部屋で、部屋の中はクモの巣とほこりだらけだった。
「お前はこれからここで生活するように」
父は無関心な目で私を見ながら、続けて私の今後の生活について話し始めた。
「立場上、名はそのままにしておくが、これからは使用人として奉仕するように。最低限の食事は用意してやる。追い出されないだけありがたく思いなさい」
「詳しくはケイトに聞くように」
ケイトはこの邸宅のメイド長で、私も彼女にはたくさんお世話になっていた。
「……はい、承知しました。おとう……」
父は私が言い終わる前に部屋を出ていった。
(無属性というだけで……どうしてこんな……)
私はほこりまみれの部屋に一人残され、家族のことを考えていた。
あの優しかった家族はもういない。頭をよく撫でてくれた父も、いつも笑顔で私に語りかけてくれる母も、いつも私にくっついて愛らしかった妹も……あの目……まるで私を同じ人間とは微塵も思わない冷えきった目。もう私はあの人たちにとって、家族ではなくただの邪魔者になったということだ。
(……とにかく眠れるようにしなくちゃ……)
私は掃除道具を手に取り部屋の掃除を始める。掃除をしながら優しかった家族と、変わりはてた家族が交互に頭の中をめぐって涙が止まらなかった。
翌日から私は使用人として働き始めた。仕事はケイトに教わりながら掃除、洗濯、食事の運搬などをこなす。他の使用人たちは私に目も合わせてくれない……寂しさと悲しさがこみ上げてくるが、自分のやるべきことを頑張った。
「アネッサ様、今日はお疲れ様でした」
家族が寝室に入り、食器などの後片付けが終わったあと、ケイトが私をねぎらってくれた。
「ありがとう、ケイト」
「申し訳ありません。アネッサ様は使用人として扱うよう旦那様からきつく言われており、このようなことまでアネッサ様にお願いすることになり……」
「気にしないで、ケイトも今日は仕事を教えてくれてありがとう」
「とんでもございません! ……アネッサ様、ご家族の皆様が何を言おうと、私はアネッサ様の味方でございます」
「そうです! 私たちもアネッサ様の味方です!」
「あなたたち……」
気がつくと他のメイドたちも集まってきていた。
「昼間は申し訳ありません。他のご家族の皆様の目が怖くて、お声をかけることができませんでした」
メイドの一人が申し訳なさそうに言った。
「アネッサ様はいつも私たちに優しくいたわってくださいました。ご恩を感じこそすれ、お慕いする気持ちが変わることなどあり得ません!」
「そうです! 私たちみんな、アネッサ様をお慕いしております!」
「みんな……ありがとう……!」
私は胸の中があたたかくなり、あふれる涙を止めることができなかった。
それから私は使用人として日夜働いた。家族からは暴言を浴びせられる日々。唯一の救いはメイドのみんなが味方でいてくれることだ。
しかし、家族の目がある時にそれを表に出せば、叱責を受けるか最悪解雇だってあり得る。なので、みんなには冷たい態度で接するようお願いしてある。みんなは「申し訳ありません……」「口惜しいです……」と、悔しそうな表情をしていた。
そうして日々を過ごしていき、使用人生活から2年が過ぎたころ、妹ミリアの適性検査の日がやってきた。
ミリアは父と母と教会に向かった。当然私は一緒ではない。その日もいつもと変わらない仕事をしていた。
教会から戻った家族たちの顔はどれも笑顔だった。その表情からミリアは属性を宿しているようだ。そして、夕食はささやかなお祝いを行うことになった。
「よくやったミリア! 水属性を宿してくれるとはさすが私の自慢の娘だ」
「ありがとうございます、お父様」
「これならジュリアス殿下からのお申し出がくるかもしれないわね!」
「お母様ったら、気が早いですわ」
「それに引き換え、どこかのゴミときたら……」
私も使用人として家族の近くで待機している。父はわざと私に聞こえるような声で言った。
「本当にねえ、同じ血が流れていると考えただけでもおぞましいわ」
母も続けて言う。
「お父様、お母様、アネッサがかわいそうですわ。属性すら宿せないゴミだなんて」
「ははは、すまんなミリア。あの顔を見るとつい本音が出てしまってな!」
「まあ、お父様ったら」
家族たちは笑顔で話している。私は悔しさと悲しさを我慢しながら、泣かないように下を向き、ただただ耐えていた。
あれから時が過ぎ、私は17歳になった。適性検査から7年がたっている。ミリアは15歳になった。この国では15歳で成人となり、ここからは社交界に本格的に参加することになる。
そんなある日、父が大慌てに帰ってきた。
「喜べミリア! ジュリアス殿下との婚約が決まったぞ!」
「本当ですの!? お父様!?」
「ああ! ジュリアス殿下が直々に会いに来られて、ミリアと婚約をしたいとおっしゃっていた!」
「おめでとうミリア!」
母が満面の笑みで祝福する。
「ありがとうございます! お父様、お母様!」
三人はお互いに手を取り合って喜んでいた。
「明日から今後について話し合うことになるだろう。今後の予定を楽しみにしていなさい」
「はい! お父様!」
そこから数日後、夕食の時に父が大事な話があるとミリアに話し始めた。
「ジュリアス殿下との婚約について予定が決まったぞ」
「まあ、ジュリアス殿下とはいつお会いできますの?」
「今から3か月後だ。3か月後に我が家で盛大な夜会を開催し、そこでジュリアス殿下との婚約を正式に発表することになった。もちろんジュリアス殿下も出席予定だ。これから忙しくなると思うが、しっかり準備をしておきなさい」
「はい、お父様」
「ああそれと、アネッサ、お前も夜会には参加してもらう。使用人ではなくローゼンハイム家として」
「えっ!?」
「お前は形だけとはいえローゼンハイムの長女だ。それが我が家主催の夜会にお前がいないとなれば世間体としてよろしくない。夜会用のドレスはこちらが用意する。お前はそれを着て隅っこで立っていればいい」
「……承知しました」
「まわりの方々にご迷惑をかけるなよ」
「大丈夫なの? アネッサ、あなた淑女教育をずいぶんやってないじゃない。家の恥さらしがまともな振舞いなんてできるのかしら」
ミリアは自分の属性が判明したころから、私への態度が一層ひどくなった。もう私のことを姉なんて思っていないのだろう。
「……大丈夫よ、3ヶ月あれば昔の感覚を少しは取り戻せると思う……」
「言葉遣いに気を付けなさい!! あなた誰に向かって口をきいているの!」
「……も……申し訳ありません……」
「言葉遣いもまともにできないゴミが夜会で何ができるっていうの!? ……ああ、ごめんなさい。あなた隅っこで立っているだけだったわね。まさにゴミにふさわしい振舞いじゃない」
「……」
「ミリアの言うとおりだ。アネッサ、くれぐれも余計なことはするなよ」
「……はい……」
そして、3ヶ月がたち、夜会が始まろうとしていた。
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