第1話 奪われた日常
初投稿作品です。
拙い部分もあるかと思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。
ガシャン!
ティーカップが割れる音が響き、妹のミリアは私を睨みつける。
「こんなお茶しかいれられないの!? 今すぐいれ直してきて!」
「ご……ごめんなさい……」
「は!? あんた誰に向かって口をきいているの! あんたは使用人なのよ! 使用人風情が馴れ馴れしい言葉を使ってんじゃないわよ!!」
「も……申し訳ありません……」
「まったく、いつまでも姉の気分でいられたらはっきり言って迷惑なのよね。いい!? あなたは今使用人なの! 使用人は使用人らしくなさい!」
「は……はい、ミリア様……」
「いいからとっとといれ直して!」
私は閉められたドアの前で一筋の涙を流した。
私はアネッサ。ローゼンハイム侯爵家の長女として生まれた。父であるグラッド・ローゼンハイムと母であるフェリア・ローゼンハイムの娘で、母親譲りの銀色のロングヘア、瞳はくすんだ藍色。瞳は父から受け継いだと思うが、父の透き通ったアクアブルーとは異なり、少し違っている。
妹のミリアは、私よりも2つ下の15歳。髪色は父親そっくりの美しい青、瞳は透き通ったアクアブルーの瞳だ。
幼いころはよく私に甘えるとてもかわいい子だった。父も母もやさしく、笑顔が絶えない幸せな家庭だったが、全てが変わってしまったのは、私が10歳の時の適性検査だった。
この世界には火、水、土、風、光、闇の6つの属性があり、貴族階級以上の者にこの中のどれか1つが宿るとされている。この6つの属性の中で基本的に宿るのは火、水、土、風の4属性で、光と闇を宿した者は歴史上ほとんど存在せず、数百年に一度出現するかどうかという非常に稀な属性であった。宿った者は強大な力をもち、国に大きな幸福をもたらすとされていた。
そして、この属性の中で対になる属性同士で結ばれると、永遠の幸せと繁栄が約束されていると信じられている。火ならば水と、風ならば土と、光ならば闇と。
対となる属性を持つ者との婚姻は貴族にとって最大の誇りであり、属性を宿すこと自体が貴族の当然の義務とされていた。属性を持たない者も稀にいるが、これはただ魔力を持っているだけの状態となり、発動することができない。そのため無属性の者は、もはや貴族として恥という考えが貴族の中で当たり前となっていた。
そして、どの属性を宿しているかを調べるのが、10歳の時に受ける適性検査だ。私も家族と検査を受けに教会に向かった。
教会につくと、私たち以外にも多くの貴族たちが集まっていて、自分たちの子どもが検査を受ける番を待っていた。私たちも自分が呼ばれるのを待ち、ついに私の名前が呼ばれた。
「さあアネッサ、行っておいで」
父が笑顔で私をうながした。
「はい、お父様。行ってまいります」
「アネッサは何の属性かしら。水だとうれしいわ」
母は嫁ぎ先のことを考えているようだ。
この国の第二王子であるジュリアス殿下は火の属性を宿していて、非常に優秀で将来有望とされている。第一王子のレオンハルト殿下は伝説の闇の属性を宿し、周囲から絶大な期待を受けていたが、闇の制御ができず暴走を繰り返し、王政は難しいだろうといわれていた。
そのような事情から、母は第二王子であるジュリアス殿下との婚姻を狙っているのだろう。
「お姉様、がんばってください!」
「ええ、ありがとうミリア」
家族にうながされ、私は神官たちの待つ台座へと向かった。
「さあ、こちらの水晶に手をふれてください」
「はい」
水晶にふれると、その者が持っている属性によって色が変わる。火なら赤、水なら青、風なら緑、土なら茶色に輝く。私は緊張しながらも水晶にふれた。
「え……」
いくらたっても水晶の色は変化しなかった。
「こ……これは……水晶の故障でしょうか。すぐに予備の水晶を!」
「は……はい!」
神官たちがあわただしく予備の水晶を取りに行く。父が神官に、
「これは、どういうことだ?」
「も……申し訳ありません侯爵様! 水晶に不都合が出たようなのですぐに代わりの水晶を……!」
神官たちが急いで予備の水晶を用意した。
「さあ、もう一度水晶にふれてみてください」
「は……はい」
私はもう一度水晶にふれた。……しかし、水晶の色が変わることはなかった。
「な……なんで……」
色が変わらず動揺している私に、神官は肩を落としてこう告げた。
「アネッサ様、まことに申し上げにくいのですが……あなたに属性は宿っておりません」
「なんだと!」
最初に声を発したのは父だった。
「これは何かの間違いだ! ただちにもう一度検査を行え!!」
「し……しかし侯爵様、2回とも色が変化しないということは、これはほぼ間違いなく属性をお持ちではないということに……」
「黙れ!! 私は侯爵だぞ! 侯爵家の子が無属性などあり得ない! さっさと代わりの水晶を持って来い!!」
「は……はい!!」
父の要望により、さらに予備の水晶が用意された。
「そ……それではアネッサ様、お願いいたします」
「は……はい」
私は深呼吸をし、願いをこめながら水晶にふれた。しかし、結果は変わらなかった。
「な……何という……」
父は色の変わらない水晶を見つめ、ただただ呆然としていた。そして、そこから今まで見たこともない恐ろしい形相で私を睨みつけた。
「ここまで育ててやったというのに……属性すら宿せないとは……この侯爵家の恥さらしが!!」
教会内に響き渡るような声で父は私を怒鳴りつけ、そして頬に激しい痛みが走った。
「お……お父様……何を……」
「黙れ!! 育てた恩を仇で返す者など私の娘ではない!」
父がさらに私に手を上げようとした時、母が私の前に立った。
「あなた、落ち着いてくださいませ。それ以上は……」
「む……そうだな…………帰るぞ……」
父が振り向き私から離れていく。私は助けてくれた母に、
「お母様、ありがとうございます」
「汚らわしい」
「え……?」
「汚らわしいと言ったのです。わたくしに気安く話しかけないでいただけるかしら」
「お……お母様?」
「さあ、ミリア、帰りますよ」
「はい、お母様」
「ま……待って! ミリア!?」
「あなたを姉と思っていた自分が恥ずかしい……幻滅だわ」
「そ……そんな……ミリア!」
ミリアは、母と手をつなぎ教会をあとにする。
「お母様!」
母は、まるで私の声など何も聞こえないそぶりで教会をあとにする。
「お父様!」
私が何を言っても家族は、私に一瞥もせず歩みを進める。
ここから、愛されていた家族から虐げられ、ゴミのように扱われる日々が始まるのだった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
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