第5話:公園トラブル①
(第5話 2797字)
みどり幼稚園の裏には、遊具がそろったみどり公園がある。降園後はなんとなく皆こちらに移動し、小学校の下校時間まで子どもを遊ばせながら、ママたちはおしゃべりするのが定番になっている。
私はおしゃべりが苦手だが、理緒は降園後の公園時間が大好きだ。理緒がお友だちと一緒に遊んでいるのをみるとホッとする。今日は、明日から連休のせいか公園に寄った子が多かった。
「理緒ちゃん、一緒にターザンしよう」
同じ年少クラスで、留美さんの娘・花音ちゃんに誘われて、理緒と花音ちゃんはターザンの方へ移動した。ターザンは、高いところから低いところへロープにつかまって移動する遊具だ。私も二人と一緒に移動する。留美さんは優加さんや他のママさんたちとおしゃべりを続けている。
こういうとき、上の子がいる人は度胸あるなと思う。私は自分でも過保護だと思うけど、理緒が遊ぶときはずっと近くにいて理緒を目で追っている。
ターザンのところに行くと千鶴さんと陽人くんがいた。
「ぼくゴールまですごく早く行けるんだよ」
「花音だって行けるもん」
「あたしもいけるよ」
「えー、理緒ちゃんこの前途中で手離したじゃん」
子どもが集まるとすぐ競争になる。何回か交代でターザンで遊んでいると小学校の方から音楽とアナウンスが流れてきた。
#下校時刻になりました。皆さん、気を付けて帰りましょう#
「あ、そろそろ帰らなきゃ。花音ちゃん、理緒ちゃん、またね。香里さん、GWは本部から離れてのんびりしようね」
「うん、またGW明けに。陽人くんじゃあね。理緒、帰っておやつにしよう」
砂場の方から留美さんが、花音ちゃんを呼んでいる。
「花音―、帰るよ。杏莉帰ってきちゃう」
「もう1回だけー」
理緒は、ターザンロープにできるだけ高い位置で摑まろうと格闘していた。やっと位置が決まったのか、えいやっと掛け声をかけてスタートした。
その瞬間、私は思わず”うわっ”と声をあげてしまった。さっきまでスタート地点にいたはずの花音ちゃんが、理緒の進む先を横切って留美さんの方へ向かおうとしていた。
「理緒っ!」
叫んで止めようとしたが間に合わず、理緒と花音ちゃんは激突した。
「うわーんっ!!」
花音ちゃんが大声で泣き出す。理緒は真っ赤な顔で立ち上がった。
「大丈夫⁉」
二人に駆け寄ると、花音ちゃんの膝から血が出ているのがわかった。両手のひらは、土埃で白っぽくなり擦ったあとがある。すぐに留美さんと優加さんが駆けつけてきた。
「大丈夫?危ないじゃないの!香里さん、ちゃんとみてないと!」
「花音、手と膝洗おう」
「あの、花音ちゃん、留美さんごめんなさい」
私の声かけは無視して、留美さんは花音ちゃんを連れてズンズン水道の方へ移動する。優加さんはそんな二人を守るように付き添う。公園の中にいるママたちの視線を感じながら、早くちゃんと謝らなければと、理緒をひっぱって水道の方へついて行く。
「花音ちゃん本当ごめんね。理緒も謝んなさい」
「・・・やだっ!あたし悪くない!ターザンの前を横切っちゃダメって決まりだもんっ」
ずっとだんまりを続けていた理緒は口を開いたけど、頑なだった。
「理緒!ぶつかって転ばせたんだから謝らなきゃだめだよ!」
つい強く言ってしまう。本当は私もわかっている。でも、水道で洗われている花音ちゃんの膝から、血がじわじわと出てくるのを見ると、イライラと焦ってしまう。水がしみるのか花音ちゃんの泣き声も大きくなり、そのたびに優加さんが睨みつけるように目が鋭くなる。早く謝ってこの場を離れたい。離れたら理緒の体にケガはないかゆっくりみれるのに。焦りは一番ぶつけてはいけない相手に向いてしまう。
「理緒!いい加減にしなさい!」
「あたし悪くないもん、あた・・し・・・うおーん、うおーん、ヒック」
とうとう理緒が泣き出し、ついでにしゃっくりも出て収拾がつかなくなってしまった。
「もう行くね。お姉ちゃん帰ってくる時間だし。医者へ連れて行くかもしれないし」
「本当にごめんなさい」
留美さんは花音ちゃんを庇うように抱っこして、こちらを見ずに足早に去っていった。優加さんも一緒についていったが振り返ってひと睨みしていった。
綾乃さんが寄ってきて
「大丈夫?ターザンはこういうこと、たまにあるよね」
と言ってくれたけど、早くこの場を去りたい一心で”大丈夫”とだけ言って、逃げるように公園を後にした。理緒の言い分はよくわかっている。早くその場を収めたいから、とりあえず理緒に頭を下げさせようなんて自分は最低だ。普通に考えれば、自分の子をちゃんと見ていない方が悪い。それでも、ケガさせてしまうとどうしようもない。
家に着くと、理緒は自転車の後ろで泣きつかれて寝てしまっていた。泣いたあとがわかる寝顔を見ると、胸がズキンとする。そのまま起こさないように降ろし、長座布団に寝かせた。そっと手と膝を、濡らしたタオルで拭く。両膝があざになっている。これは明日には大きな青あざになっていそうだ。どうやらロープを摑んでいた分、手をつくのが遅れ膝からダイレクトに地面に落ちたようだ。かなり痛かったはずだ。
理緒、本当にごめんね・・・。花音ちゃんの方はどうしよう。連絡してちゃんとケガの具合を聞かないと・・・。それなのに、理緒の横で座り込んだまま体が動かない。頭も体も力が入らず、つい母に電話をしてしまう。
「なんかあった?・・うん、うん、でもそれ理緒ちゃんが悪いの?なんか違うと思うけど。・・・引きずりたくないなら、今すぐ家にお詫びにいくことだね。GW明けまで持ち越したらいやでしょ。・・・・手ぶらじゃないよ、でも菓子折りなんて持っていくんじゃないよ。ケーキとかなら今日中に食べてくれるでしょ。・・・え?ああ菓子折りはね、日持ちするからしばらく家にあるでしょ。そうするとそれ見るたびに理緒ちゃんにケガさせられたって思い出すからね。そう、ケーキ持っていって謝ったら、もうこっちは引きずらない。普段通りにするんだよ!しっかり!もう切るよ」
そうだ!きちっとやることやって、その後どう思うかは相手に任せよう。
一時間ほど待って理緒を起こす。
「あれー?家だあ。足痛い。お腹すいた」
寝起きで思いつく限りのことを言う理緒を抱き上げて背中をさすりながら
「理緒、ごめんね」
と私は言った。一通りのことを済ませると、今からケーキを買って花音ちゃんに謝りに行くことを理緒に伝えた。
「ママ、本当は理緒だけが悪いとは思っていない。理緒の言っている通りターザンの前は突っ切っちゃだめだもんね。でも、花音ちゃんケガしちゃって心配だし」
「うん、泣いてたもんね。血、出てた」
一眠りしておやつを食べたせいか、理緒の頑なさは消えていた。ケーキ屋さんでも、お詫び用のケーキを買うとわかっているためか、おねだりはしなかった。ケーキを留美さん家の家族分選ぶと、レジ横にある動物チョコもついでに一本買ってカバンにしまった。




