第4話:GW前の不穏
(第4話 3685字)
明日からGWだ。
一冊目のグリーン会報を出せて、スッキリした気持ちでGWを迎える・・・とは、ならなかった。
行楽日和のさわやかな空とは真逆に、私は毎日、憂鬱に過ごしていた。
理由はいくつかある。
一つ目は、予想以上に本部役員の集まりが多いこと。
最近では、ほぼ毎日のペースで集まるようになってきている。これがかなりきつい。集まりの中でモヤモヤすることがあっても、日にちがあけば次回会うまでに消化できるのだが、それができない。
二つ目は、書記の仕事が思っていた以上に大変だったこと。
私が作った文書は、皆に確認してもらわねばならず、これがかなり負担になっていた。今年度の本部役員の名前で配る文書だから、皆が確認するのはわかる。
でも、あまりにも細かすぎるのだ。
文書を作成するときには、留美さんから”下書きした文書はPDFファイルで見せてください“と連絡が来る。これを書かれると、自分の予定を後回しにして文書作成することになる。理緒に”ちょっと待っててね”を何度も言いながら一生懸命作成して、やっとのことでLINEに載せるのだが、皆一回ではOKを出さない。
なんとかOKをもらい、実際の集まりにプリントアウトして持っていくと、今度は
「やっぱ、この内容ならこっちの字体の方がいいんじゃない?字はもっと大きくして・・」
と言われる。字をなおすとバランスが変わり、文章が変なところで区切れて改行になるため、またまた微調整(泣)
修正すると今度は
「イラストは他にないの?内容に合っていない気がする」
「写真、もっと大きくした方が良くない?」
と言い出し、また修正(泣)
ただでさえPCが苦手なところに、一事が万事こんな調子なので、私はすっかり参っていた。
LINE通知があると気持ちが重くなり、皆の文面を見ると行間に『はぁっ!?』とか『はーっ・・』の感情が透けて見えるようになっていた。
三つ目の理由は、最近優加さんが目を合わせてくれなくなったこと。
もともと、優加さんは私みたいなタイプと合わなさそうだなとは思っていた。
児童館でも、高齢ママに話しかけられると、距離が縮まらないようにするママがたまにいて、なんとなく優加さんがそのタイプに思えた。
優加さんはよくお菓子を作って持ってくる。特にパウンドケーキをよく焼いて持ってきて皆に配ってくれるのだが、私には必ずはじっこを渡していた。ケーキを配るときに順番通り配れば真ん中は私、はじっこは綾乃さんになりそうだった時、すっとトングが真ん中をとばし、はじっこをつかむのが見えてしまった。別に食べたいわけじゃないけど、愛想笑いしながらその場にいるのはかなり辛い。
嫌われている理由はわからないが、目を合わせなくなった理由は、わかる。
私が本部役員の会議を通さずに、幼稚園からの連絡をLINEでするように提案したことだと思う。提案は、気難しい園長先生にあっさりと許可された。
今なら本部役員会で提案、皆の意見を聞く、全員の賛同を得る、園長先生に伝える役目は会長にお任せする、という段取りが決まっていることを知っているのだが・・・。
4月当初なんてそんなこと知るわけもなく、そもそも理緒のお迎えのときに、あかね先生と交わした会話で、あっさりと慣習が変わるなんて思ってもいなかった。いや、私は提案したつもりさえない。
「浅井さん、今年の書記さんですよね。入園早々で申し訳ないんですけど、GW前の参観日のお知らせプリントをお願いします」
「日時はいつですか?」
「4月25日(金)の10時。各教室で」
「わかりました。スリッパ持参ですか?」
「はい。持参で。ここに必要項目書いたメモありますのでお渡ししますね」
「ありがとうございます。メモあると助かります」
「これから一年間よろしくお願いします。今年度は、私が園と書記の連絡係なんですけど、私も言い忘れないように気をつけますね。あーぁ、いっそ一斉メールで済ましちゃえば楽なんですけどね~」
「本当ですよね。そういえば最近は習い事の連絡とかはグループLINEにしているとこ多いですよね。簡単に質問できるし楽ですよね~」
「あ、それいいですね。私祖母に言って、園の連絡をグループLINEでやってみるのを、提案してみようかなあ。本当はスクールアプリのようなものを導入した方がいいんでしょうけど、うち30数人しか園児がいないアットホームな園だし。それに私が浅井さんにお知らせ伝えて、文書作ってもらって、コピーして配るって段取り悪いですよね。本部役員のお知らせだって、LINEの方が早くないですか?」
「あの、祖母って?」
「あっ、いけない、祖母じゃなくて園長って言わないといけないんだった。浅井さんご存じなかったですか?私、園長の孫なんです」
「!!」
今まで文書一つを作るにも、”文字の大きさが”とか、”イラストが足りない”とか話し合いながらやっていたのに、数分の立ち話で書記の仕事を減らしてしまった。
この件を本部役員の集まりで伝えた瞬間、一気に部屋の空気が悪くなった。
「香里さん、参観日のお知らせプリントってどうなっているの?昨日あかね先生と話していたみたいだけど」
「あっ、今度から幼稚園のお知らせはプリントじゃなくて、LINEでの連絡になりそうです。保護者の同意がとれてLINE連絡に変わったら、本部役員からのお知らせもそのLINEを使っていいって」
「はあっ!?何言ってんの?そんな話聞いてないし、どういうことか説明してくれる?」
詰め寄られるってこういうことなんだと初めて知った。
千鶴さんを除く3人に囲まれて、慌ててあかね先生とのやり取りを説明した。
「(かくかくしかじか)・・・で、今日の朝、あかね先生が園長先生の了解がとれたから、幼稚園のLINE連絡についてのアンケートを、今週中には配ると言ってて。あと他の先生方も、クラスごとのLINEグループあると助かるって言っているみたいで」
「なんでそんな大事なこと勝手に提案するの?お知らせプリントって本部役員業務の大事な仕事だよね?留美ちゃんが会長なんだし、会長通り越して提案するってちょっと違うんじゃない?」
「私じゃなくても、せめて副会長の千鶴さんには言わないと。状況はわかったけど、本来は本部役員の集まりで話し合うことだったと思うよ」
優加さんも綾乃さんもすごく怒っている。留美さんは感情が出ないようにしているが、口調と表情で怒っているのがわかる。
でもそんなに怒ること?
私が自分から提案したわけではなく、話の中でLINE連絡は便利って流れになっただけなのに・・・。
険悪な空気の中、千鶴さんがやってきた。
「おはよう。千鶴さん聞いた?香里さんがね、あかね先生に(かくかくしかじか)・・・・で、LINEで・・・・なんだよー」
「えっ、LINEに変わるの?ふーん、これから保護者の同意をとるんだったら、まだ決定じゃないんだよね」
「うん、まあそれはそうなんだけど」
「まあ時代だよね。保護者のみんなの意見聞くしかないよね」
「まあ、便利だしね」
千鶴さんが来たら、さっきまでの怒りに満ちた空気は収まっていった。千鶴さんが年上なのと(私もそうなんだけど)、寛人くんが天才だと思われているせいなのか、千鶴さんの言うことだと、皆そういうものなのかと話を聞く。
でも、LINE連絡について最初に聞いたとき、千鶴さんの眉間に一瞬縦すじが入るのを見てしまった。
千鶴さんも怒っている?
●:LINE連絡の同意書来たね。どうする?
◆:同意するにチェックするしかないよね
■:最悪!本部の仕事減ったら家留守にする口実減るじゃん!
▲:だね。ほんと余計!
●:本部の連絡もLINE連絡にしないとだめなのかな?
◆:本部は別にいいんじゃない。それは私たち次第で
結局保護者アンケートの結果、LINE連絡賛成が半分以上、プリントでもLINE連絡でもどちらでも良いが3分の1といったところで、LINE連絡反対は0だった。
「結果は結果として受け止めるけど、本部の連絡は今まで通りプリントで配布がいいと思う。その方が本部の誠意が伝わるし。みんなはどう思う?」
「留美ちゃんの言っていることが正しいと思うよ」
「その方がいいと思う」
「一気に全部変えない方がいいかもね。幼稚園のLINE連絡の様子見てから考えてもいいし」
「というわけだから、香里さん今まで通り本部のプリントよろしくね」
「了解です」
ふーん、私には意見聞かないのね・・・。
この件以来優加さんとは目が合わなくなったと思う。
そして幼稚園の連絡方法がプリントでなくなった分、本部からのお知らせプリントのチェックが厳しくなった。
時々USBに入った歴代の書記が作ったお知らせプリントを見てみるが、私が単独で作ったものと大差ない。年度によっては日付だけ打ち直して使いまわしている。個人的には、工作用の廃材募集のプリントなんて、要点が伝わればそれでいいじゃんと思ってしまう。もちろん口には出さないけど。
ああ、まだ始まったばかりなのに。
とりあえず、一冊目のグリーン会報は出せたんだ。
よし、明日からはGW.気持ちを切り替えて理緒を迎えに行こう。




