第2話:本部役員始めます!
(第2話 3499字)
引継ぎの日、理緒を連れて幼稚園に行く。
幼稚園には何回か来ているのに、今日は緊張する。
「理緒、ママは別のお部屋で他のお母さんとお話があるから、先生やお友だちと遊んでいてね」
「うん、わかったー」
子どもたちは、会議の間、先生がみてくれる。
会議室に行くと、私が最後だった。会議用の机がコの字型に置かれていて、お母さんたちは5:4に分かれて向かい合わせに座っている。奥には、園長先生と二人の先生が座っていた。
私は、急いで空いている席に座った。
その途端、入口近くに座っていたお母さんが立ちあがって言った。
「皆さんお揃いですので、これから本部役員の引継ぎ会を行います。まずは園長先生、一言お願いします」
「今年度の本部役員の方々、一年間ご苦労様でした。来年度の役員の方、これからお願いしますよ。頑張って幼稚園のために尽力してくださいね。そのためにも引継ぎはしっかりとね。じゃあ、私は忙しいからこれで失礼するわ。瀬尾さん、これは今年度の役員の方で分けてちょうだい」
引継ぎの進行役の人が、今年度の会長、瀬尾さんだったらしい。
それにしても、こんなにきちんとした引継ぎだったとは・・・・。
園長先生は紙袋を瀬尾さんに手渡すと、二人の先生を引き連れて出て行った。
その後ろ姿に恭しくお辞儀する瀬尾さんとほかのお母さんたち・・・。
私も急いで頭を下げた。
幼稚園の園長先生って、こんな重々しいものだっけ?
そういえば面接のときも、厳格なおばあさまという感じだった。
私が呆然としていると
「セコっ!」
と突然瀬尾さんが声をあげた。
急に場の雰囲気が変わった。
瀬尾さんの周りに、今年度の役員の人たちが集まっている。
「相変わらずセコイよ~、どら焼き一個ずつだってさ。うち子ども三人なのにどら焼き一個もらってどうしろっていうのよ。っつか一年間の労力がどら焼き一個って何なのよ!」
「そういうとこだよね~」
「金持ちのくせにね~」
「だからでしょ!一般常識がない!」
・・・なんだ?なんだ?今年度の役員だけでなく、私以外の人たち皆で盛り上がっているぞ。
ひとしきりどら焼きで盛り上がった後、瀬尾さんが引継ぎに話をもどした。
「じゃあ、まず来年度の役員の人たちだけで、どの役職にするか決めてもらおうか。先にどんな内容か簡単に説明するね。本部役員は、会長と副会長と会計、会計監査、書記があって、一応担当があるけど、お互いに協力しながらやることになっているの」
瀬尾さんは先程とは違い、くだけた口調になっている。今年度の本部役員の人たちは、軽く自己紹介をして、担当した役の内容をざっくりと説明してくれた。その後、来年度の役員だけで集まった。
「じゃあ決めようか」
「さてどうしよう。あ、私は守田留美」
「今さら~」
「いや、ほら、私たちはさ、もう顔見知りだけど、香里さんは今度初めて入園するからさ」
「それもそっか。私は谷原優加」
「牧村千鶴」
「杉綾乃で~す。この子は翔太。よろしくね」
膝の上の男の子がちょっとだけこっちを見る。
「浅井香里です。よろしくお願いします」
皆私より若いなあ。
若干引き気味になる。
いやいや、保護者として来ているのだから年は関係ない・・・・と、思いたい。
「私、副会長で補佐するから、留美さん会長やってみたら?慣れているでしょ」
4人の中では年上に見える千鶴さんが、唐突に留美さんに言った。
そんなダイレクトに・・・。
・・・にしても
「会長に慣れてる?」
私が思わずつぶやくと、すかさず綾乃さんが言った。
「留美さんて、小中高ずっと生徒会長だったんだよ。すごいよね~」
「小中高ずっと生徒会長・・・・それはすごいね」
なるほど。
で、綾乃さん、なぜ得意げ?
「会長?うーん、状況的に私だよねえ。今年度の役員選出委員やっているから内情聞いているし。うん、じゃあ私が会長やるわ。あと皆何やりたい?」
こんなに簡単に会長が決まるとは思わなかった。
助かった。
いや、もしかしたら事前に決めていた?
私はどうしよう。
お金関係は責任重大・・・となると書記?
でもPCー!
苦手だけど、USBがあると言っていたよね。
決まったパターンがあるならなんとかなる?
なりたい役職は被ることなく、会計は優加さん、会計監査は綾乃さん、私は書記に決まった。
役が決まったところで、担当ごとに今年度の役員から業務内容を説明してもらう。
「書記の仕事はね、GW前と学期末の計4回、グリーン会報を出すことがメインだよ。内容は、幼稚園の様子をお知らせすること。あと幼稚園からの連絡プリントを作ること。でも一番大きい仕事はバザーかな。バザーの他は学芸会や運動会のお手伝い。式典への出席」
はい?
幼稚園での子どもたちの様子をお知らせするのって幼稚園側の仕事では?
幼稚園からの連絡プリントを作る?
これも幼稚園がする仕事じゃないの?
「これ歴代の資料と書記のUSB。新しく作った資料は全部このUSBの中に保存することになっているの。もしわからないことがあったら、いつでも聞いて」
USBの他に、ドサッと音がしそうなくらい大きな紙袋を二つ渡される。
なにこれ?
紙袋の中は、プリントがぎっしり入っていた。
「これは、歴代の配布物ね」
USBだけでよくない?
プリントは後でゆっくり見るとして、USBは念のために帰ったら複製しよう。
ふと周りをみると来年度の役員は皆、私と同じ青いUSBと重そうな紙袋を渡されていた。
「やっとこれから解放されたよ~」
「ほんと、もうこれ家にあると邪魔で邪魔で、何度廃品回収に出そうと思ったか」
「あはは。そう、それ~。私も同じこと思ったー」
「浅井さん、まず最初の書記の仕事なんだけど、入園直後にグリーン会報を作ること。今年度と来年度の役員の写真、役員の一言コメント、先生たちの紹介文と写真を載せるんだよ。表紙は、入園式の写真に『ご入園おめでとう』を入れて作る」
うっ、気が重くなってきた。
「この見本通りで大丈夫。先生の紹介文は去年のを使い回せるし、手直しと多少の追加だけでいけるから。配布はGW直前だから、そんなに急がなくても。もしわからなかったら、いつでも聞いて」
見本のグリーン会報は、プリント一枚とかではなく、冊子だった。
これは、一日二日でできるものじゃない。
その後、新役員の集合写真を撮り、名前と役職、役員としての一言、住所、電話番号を記入し、LINEグループを作り、次回の集合日を確認して、やっと解散になった。
1月22日、二回目の集合。
この日から新本部役員だけの集まり。
留美さんは一年間の本部役員スケジュールが書かれた紙をみんなに配った。細かい字でびっしり予定が書かれている。
うわぁ、これ全部やるんだ・・・。
留美さんが進行役をする。
テキパキとしていて、こういうことに慣れているのがわかる。
「まず卒園式に出席だね。これは会長の私と副会長の千鶴さんだけで大丈夫。次は入園式に主催者として全員出席」
「えっ、主催者!?これから入園するのに?」
できるだけ黙っていようと思っていたのに、つい声が出てしまった。
留美さんは淡々と話を続ける。
「そうだよ。本部役員は主催者側なんだよ。たとえ自分の子が入園であっても、入園者と保護者に向けて『ご入園おめでとうございます』って声をかける。まあ決まりだからね。あと入園式の写真撮影よろしくね。正式な写真は、カメラマンがくるけどグリーン会報用にね。グリーン会報どう?大丈夫そう?」
「見本見ながらなんとか」
「途中経過は皆で確認するから」
優加さんの言い方が、ちょっとキツイ。
「次の集まりは3月25日だね。次は入園式の確認と、バザーについてやり始めますか」
「いよいよだねー。今年もやるんだねえ」
気のせいかな。
バザーという言葉に何か含みがある気がする。
「バザーって秋だからまだ大分先のような・・・」
何気に言った私の一言で、一気に皆の顔がキッとなった。
「あのねえ、香里さん。計画して、買い出し行って、みんなで集まって手作りして、幼稚園と交渉して、いろいろ準備することたくさんあるんだよ」
「まあまあ優加ちゃん、やりだしたら香里さんもわかるよ」
「覚悟しといたほうがいいよ~。バザーはみどり幼稚園の沼だから」
「あはは、綾乃さん上手いこと言うね」
・・・・やっぱり幼稚園生活を一年体験してから役員になった方がよかったのかも。
夜、学生時代からの友達にLINEする。すでに子どもは高校生になっている。
役員とかママ同士の付き合いはどうしていたんだろう。
☆:こんばんは
★:元気?入園準備すすんだ?
★:役員になったの?ウチは保育園だからそういうのなかったよ。
★:お互い下の名前で呼び合うの?
香里さん! いいじゃん、新鮮!
★:役員がんばれー!




