第13話:三学期
(第13話 1939字)
二月になり、本部役員業務は終わりに近づいていた。
卒園式の出席と最後のグリーン会報を作成して業務は終わりになる。
これで最後だと思うと、私が作成したグリーン会報を添削されるのも悪くないなという感覚になっていた。皆も、私があと少しでいなくなると思うせいか、言い方が優しい。
あの時、送信取り消しを見た人がいたのか?
それはわからない。
誰も気が付かなかったのか、大人の対応なのか、特に話題になることもなく日は過ぎていた。
「あ~っ!気の利いた言い方が浮かばない~!」
珍しく留美さんがイライラしている。
「卒園式の祝辞?留美ちゃん大変だね。例年通りでいいんじゃないの?」
「そうは言ってもさ、全く同じってことはないからね。そうだ、香里さん。明日書記のUSBを持ってきてくれない?歴代のグリーン会報に会長の挨拶文が載せてあったと思うから。それ土台にして今年の作るわ」
私たちは、卒園式に飾るペーパーフラワーや折り紙のバラを作るために、今週は毎日幼稚園に来ていた。
「会報そのものじゃなくてUSB?」
「そう。私のPCに取り込む」
翌日、私は自分で複製した方のUSBを持って行った。早めに幼稚園に着くと、すでに留美さんが来ていた。卒園式の段取りについて先生から説明があったらしい。早速USBを渡すと、すぐに自分のPCに取り込んで、返してきた。
「ありがとう。今までの祝辞を立て続けに読んでいたら、できそうな気がしてきたよ」
そんな話をしていると、他の三人もやってきて、ペーパーフラワー作りが始まった。私は、なくさないうちにUSBをペンケースに入れた。皆で今までの本部役員の活動について振り返りながら、手を動かし、お昼前に片付けをして、その日は解散した。
夜、自分でグリーン会報をチェックするために、下書きをプリントアウトした。ペンケースから赤いボールペンを出して、会報を読もうとしたとき、なぜか違和感があった。
・・・・・え?USBが入っていない?
確かに入れたはず。
ペンケースの中身を全部出して確認したけど見当たらず、カバンの中身も全部出して確認したけどみつからなかった。幼稚園に置いてきたのかもしれない。明日早めに行って探さなければ・・・・。
次の日、皆が来る前に幼稚園に行き、あかね先生に落し物はなかったか聞いてみたが、なかったと言われた。作業部屋となっている教室をあちこち探していると、留美さんと優加さんが来た。
「おはよう。早いね。どうかしたの?」
「昨日のUSBが見当たらなくて。留美さんから受け取って、すぐペンケースに入れたと思うんだけど」
「はあっ!?なくしたの!歴代のだよ。個人情報入ってるんだよ。ってか留美ちゃんのこと疑ってる?」
「え!そんなつもりは・・・。それにUSBは・・」
「香里さん言い訳はなしね!」
「とにかく探そう」
優加さんは、私に発言する隙を与えず、後からきた千鶴さんと綾乃さんにも状況を説明した。皆で部屋を探しても、昨日作ったペーパーフラワーをしまった段ボール箱をひっくり返し調べてみても、USBは見つからなかった。
一旦USB探しは中断して、集まりの本来の目的、ペーパーフラワー作りと折り紙のバラの貼り付け作業をすることになった。
「まあ、もうUSBにデータ保存って古いけどね。連絡方法も変わってきているし」
千鶴さんがそう言ってくれたけど、私は針の筵だった。伝えたいことがあるのだけど、個人情報を紛失したのは事実だし、自己弁護になりそうなので言えずにいた。
気まずい沈黙で作業が続く中、あかね先生が小さな箱を持って入って来た。
「浅井さん、この中に浅井さんのUSBありませんか?昨日、水道のところに誰のかわからないUSBが置いてあって、えりこ先生が預かっていたんですよ。でも、ゆき先生から預かっていたのと混ざっちゃって」
そう言って、あかね先生は、USBが三つ入っている箱を私に差し出した。
ある!
「ありがとうございます!あります」
私は慌てて、手についたのりをウェットティッシュで拭きとった。
もたついているのがじれったくなったのか
「はい、これ」
と、綾乃さんは言って、私の代わりにUSBを箱から取ってくれた。
あ・・・やっぱりそうだったんだ。
「ちょっとー!香里さん、白なら白って言ってよ。てっきり皆同じだと思って、青いUSBを探したじゃない!」
優加さんが、怒り気味に言った途端、綾乃さんはピクっとして、千鶴さんと留美さんは”あ!”という顔をしてすぐ表情を消したのがわかった。
私が留美さんに貸したのは、引継ぎの時渡された、皆と同じ青いUSBではなく、私が複製した白いUSBの方だった。それを伝えたかったのだけど、言う必要はなくなった。
それにしても・・・。
そんなに私”ウザイ”かな?
特に何かした覚えがないんだけど。




