第14話:ママたちだって精一杯
(第14話 2475字)
「理緒、パパ第二英光学園に行くけど一緒に行くか?今文化祭やっているらしいぞ」
「行く!縁日系だよね」
「ああ、お祭りみたいに賑やかだよ」
理緒は小学二年生になっていた。
すっかり東京の子になっている。藤澤祭に言ってから、理緒は中高の文化祭にハマっていた。都内には私立中高がたくさんあるので、秋の文化祭シーズンにはあちこちの学校を見に行っていた。
パパと理緒と私の三人で、埼玉の第二英光学園に向かった。パパが本校と第二学園の交流について打合せしている間、私と理緒は校内を見て回った。第二英光学園の中に入るのは初めてだが、学校のある青葉地区は懐かしかった。バザー用の景品を買いにきたり、藤澤祭で千鶴さんやレジェンド田中さんに会ったり・・・・。
そう、それというのもみどり幼稚園の本部役員だったから。
理緒は、廊下を歩きながら、どの教室の催し物が一番楽しそうかチェックしている。お化け屋敷とか選ばないでほしいなと思っていると、ふいに後ろから声をかけられた。
「え?理緒ちゃん?」
デジャブ?
まさかと思って振り返ると、千鶴さんと陽人君、留美さんと杏莉ちゃん、花音ちゃんが立っていた。
あっ、小学生になっている!
当たり前だけどみんな大きくなっていた。
特に杏莉ちゃんは、すっかりお姉さんになっていた。
「久しぶりだね。パパが今日学校に用事があるから一緒についてきたんだよ。皆大きくなっていてビックリ」
「いや、理緒ちゃんこそ背伸びたよね。ほら、花音、理緒ちゃん」
子どもたち同士は、お互いになんとなくわかるものの、はにかみ合っている。
「せっかく会ったんだから、カフェで話さない?送別会もできなかったし」
「え~!お化け屋敷行きたい」
陽人君が、千鶴さんの提案に嫌そうな顔をする。
「じゃあ、子どもたちだけで行っておいで。ママたちカフェにいるから。同じ階にいてね。30分後カフェに集合。杏莉、時間しっかり見といてよ」
子どもたちがお化け屋敷の列に並んだのを見届けて、私たちはカフェに移動した。
「もしかして、また第二英光学園に戻ってくるの?」
「ううん、今日は会議で来ただけ」
「な~んだ。実はさ、杏莉ここ受験予定なんだ」
「あ、中学受験するんだ」
「陽人も、ここ受験させようと思って」
「あれ?藤澤学園じゃなくていいの?」
「いいよ。できたら大学受験の心配したくないし」
「寛人くんすごいんだよ。群馬大学の医学部に入ったんだよね」
「えーっ、すごいね。お医者さんになるんだ」
「ふふふっ。頑張ったよ。私が!なんてね。私、仕送りのためにまた働きだしたよ」
「千鶴さん何やっていると思う?なんと薬剤師だよ。そんなこと知らなかったよ」
「え!同業者だったの?」
「うん。でも自分から言うことでもないし、聞かれたら何でも答えなきゃいけないわけじゃないしね」
千鶴さんは、サラっと言う。このあっさりした感じが、なんだかうらやましい。
「優加さんと綾乃さんは元気?」
千鶴さんと留美さんは、ちょっと間を置くと話し始めた。
「優加ちゃんは相変わらずだよ。というか地元愛がさらに濃くなったかも。私は、杏莉の中学受験の準備を始めてから、バーベキューとか参加しなくなったけどね」
「綾乃さんはね・・・聞いたらビックリすると思うよ」
「綾乃さん、今、みどり幼稚園の本部役員で会長だよ」
「は!?」
「なんか意外でしょ。それにね、なんと今、男の子4人のお母さん」
「えっ!!」
「綾乃さん、本当にずっと女の子が欲しくて気持ちに折り合いがつかなかったみたいだけど、4人の男の子のお母さんだって言うと、皆から一目置かれるし、肝っ玉母さんを目指すことにしたみたい」
「おー!」
「それにね、綾乃さん前は同居でストレス抱えていたみたいだけど、義父母さん、二世帯住宅にリフォームしてくれたんだって。子どもたちやその友だちがドタバタするから、自分たちのスペースを確保したくなったらしい。ちゃんと綾乃さんの希望も取り入れてもらえたみたいだから、良かったよね」
「ああ・・」
留美さんと千鶴さんは、他にもみどり幼稚園のその後をいろいろ話してくれた。
あかね先生が結婚したこと。ゆき先生が復帰したこと。幼稚園が連絡アプリを導入したことなど。USBとプリントの詰まった紙袋を引き継いでいくのはやめたこと。
大体の話が済んだところで、子どもたちがやってきた。先程までのよそよそしさは消え、子どもたちはあっという間にまた仲良くなっていた。
時計を見ると、パパとの待ち合わせ時間5分前になっていた。
「あ、ごめん。そろそろパパと待ち合わせの時間だから」
「そっか。じゃあまたね。理緒ちゃんまたね」
「浅井さん、またね。緑が丘にも遊びにおいで」
都内の家に帰ってくると、私はスマホの本部役員のLINEを開いた。
数年ぶりに見るLINEのやり取りを懐かしく眺める。
◆:感染症が流行っているから、皆で集まるの無理かもしれないね
☆:今は無理だね。送別会提案してくれてありがとう。
●:送別会できなくてごめんね。
▲:元気でね
■:カオリンいろいろありがとう
遡って、最初の方のやり取りも見てみる。
あの頃は、スマホ通知が鳴るたびにドキドキしていた。
またダメ出しされるんじゃないか、皆から突き上げをくらうんじゃないかと。
「あっ・・・あれ?」
数年ぶりに見た本部役員のやり取りは、ただの業務連絡しか書かれていなかった。
あんなに『はぁっ!?』とか『はーっ・・』とか溢れていたのに、そういったものは行間からすっかり消えていた。
もしかして・・・・・・・私がそう感じていただけだったの・・・?
私たちは途中で思うところがあっても、皆言葉にしないでやり過ごしている。
子どもの関わりがあったり、同じ地区に住む中で、そうやってバランスを取りながら生きていく。
お互いに抱えているものも違うし、何を抱えているのかすらよく知らない。
数年後には、自分だってどうなっているのかわからない。
私は千鶴さんと留美さんに、カフェでのお礼を伝えるつもりだったけど、何も打たずにLINEを閉じた。
ほんの少し、もう香里さんと呼んでもらえなくなったことに、寂しさを感じていた。
(了)




