第10話:バザーに向けて
(第10話 1730字)
園長先生が、バザー日程を突然変更するように言ってきた日から一週間が経った。
その間に、保護者にバザーについてのアンケートをとったり、署名をお願いしたりと、本部役員は大忙しだった。本部役員の対策会議には、レジェンド田中さんも現れて、自分の意見を熱く語って私たちを励ましていった。
そして今日が園長先生との交渉の日だ。
会議室に、本部役員5人で行くと、すでに園長先生とあかね先生とえりこ先生がいた。
「話し合いのお時間をとっていただきありがとうございます」
留美さんが冷静に言う。事前に、留美さんが代表で話すと決めてある。
もし、幼稚園が全く譲歩してくれなかったら、私たちが加勢することになっている。
「それで、なにか新しい考えでもあるのかしら?」
「私たちは、やはり土日二日間のバザー開催が必要だと思います。ここに保護者アンケートを持ってきています。卒園生の保護者やバザーを楽しみにしてくれている方々の署名もあります」
留美さんが差し出そうとしたら、園長先生は手を振った。
「それ、園の許可をとってから行ったアンケートかしら?許可なく勝手に園内でアンケートをしないでちょうだい」
「見るだけ見てください」
堪らず優加さんが口を挟む。
「園の決まりは守ってちょうだい。決まりを守ってないものは受け付けません」
「では、卒園生の保護者や近所の方々の署名は園外なので見ていただけますか?」
千鶴さんが言うと、園長先生は渋々受け取った。
「こちらは受け取るだけ受け取っておきます。あなたたちが持ってきた意見はこれだけですか?」
「これだけって、皆の意見ですよ!」
綾乃さんも強めに訴える。
だんだん会議室の空気はピリピリしたものに変わり、園長先生の横に控えているえりこ先生もあかね先生も、困った顔になっていた。特にあかね先生は、気持ちは私たち寄りだけど、自分の祖母の言うことを否定もできず、泣きそうな顔になっている。
事前の本部の集まりのときに、園長先生は言ったことを撤回しないだろうが、バザー時間を短縮するだけになるように粘ろうと打合せしていた。
いろいろと譲歩案を出してみても、園長先生は絶対に折れたくないらしく、訴える側はどんどんヒートアップしてくる。バザー開催の代わりに幼稚園業務を手伝っていることも、園長先生には、もはや当然のボランティアになっているらしい。
私も留美さんや千鶴さんの提案の合間に追従して発言するが、全く戦力にならず焦っていた。
皆が疲れてきて、もうここまでという空気を園長先生が出し始めたとき、私の言った言葉が、一瞬できた隙間
の沈黙に鋭利に響いた。
「みんなで用意してきたことを、突然ひっくり返すなんて横暴じゃないですか!」
皆一瞬、ビクっとした。
えっ?という顔をして留美さんや千鶴さんが私を見る。
皆驚いているが、私自身、自分の声が予想外に鋭く響いたことに驚いていた。
あかね先生の目に涙が滲んでいる。
園長先生は、目を見開いて言葉が出てこない。
えっ、ちょっと・・・そんなつもりじゃ・・・。
千鶴さんと留美さんが、その場をとりなすように言った。
「私たちも自分たちの気持ちを主張しすぎたかもしれません。でも子どもたちが本当に楽しみにしているので、二日間開催でお願いできませんか?本当に二日間とも終了時間を早めてもらってかまいませんので」
「終了後の跡片付けや清掃は先生たちの手を煩わせることはしません。私たちが責任もってやります」
「・・・・・わかりました。時間短縮ね。終わりの時間はこちらで決めるから従ってちょうだい」
園長先生たちが会議室を出て行ったあと、さっきこの場に走った緊張感をなかったことにするかのように、千鶴さんはまとめた。
「短縮だけど、まあ二日間開催は維持できてよかったよね」
自転車置き場で、綾乃さんには笑われた。
「カオリンがトドメをさすとは思わなかったよ」
私は、さっきのあかね先生の顔が目に焼き付いて、とてもじゃないけどこの状況を喜べなかった。
ただただ人を傷つけた罪悪感でいっぱいだった。
結局バザーは、土日とも開催で、17:00の予定だった終了時間が、土曜日は16:00、日曜日が15:30に変更された。
そして終了後の片付けと清掃は、手が空いている保護者全員と先生たちでやることになった。




