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この日々を愛と呼ぼう 寅印港町交易ギルドとオレンジ色の染布帖  作者: 乾為天女


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25/26

第25話 これで終わりにしよう、もう偽物は

 大市が無事に幕を閉じた夕暮れ、広場の喧騒が少しずつ遠のいたころだった。


 アルカディウスが「少しだけ」と言ってルラを港の端へ連れ出した。人の少ない桟橋。冬の海は静かで、橙色の空が水面に細く揺れている。


 ルラは胸の奥で、ずっと避けていた予感が形になるのを感じた。終わったのだ。店を守るための恋人のふりも、大市も、きっとここまで。


 アルカディウスが正面から向き合う。


 「これで終わりにしよう」


 その一言で、世界の音が少し遠くなった。やっぱり、と思う。覚悟していたはずなのに、喉の奥がひどく熱い。


 「……はい」

 うまく笑えたかはわからない。


 けれど次の瞬間、彼は続けた。


 「終わらせたいのは、偽物の恋人という言い方です」


 ルラは瞬きを忘れた。


 「私は最初から、あなたに救われていました。店を守ろうとする姿に、子どもや年寄りの服を当たり前みたいに直す手に、誰かを決めつけずに見ようとするまなざしに。気づけば、あなたのいる日々を、仕事以上のものとして受け取っていた」


 言葉はまっすぐで、飾りがないぶん、逃げ場がなかった。


 「あの夜、あなたが線を引こうとしたときも、受け入れたふりをしただけです。あなたが困ると思って、黙りました。でも、もう黙ったまま終わらせたくない」

 そこで彼は、ほんの少しだけ息を乱した。

 「好きです。店がなくなるからでも、大市があるからでもなく、あなた自身が」


 ルラの視界が滲んだ。失恋を覚悟していた場所で、まるで逆の言葉を受け取る。心が追いつかず、涙のほうが先に出る。


 「ずるいです」

 「はい」

 「最初に偽物の恋人だなんて言っておいて」

 「申し訳ありません」

 「そこは謝らないでください」


 泣きながら笑うしかなかった。夕暮れの海の色が、《永遠の愛》の布とよく似ている。重なった色の深みが、胸の奥まで満ちてくる。


 「私は……」

 声が震える。

 「本当はずっと、あなたが好きでした」


 やっと言えた。その一言だけで、長く張っていたものが全部ほどけた気がした。



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