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この日々を愛と呼ぼう 寅印港町交易ギルドとオレンジ色の染布帖  作者: 乾為天女


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第24話 大市の朝

 冬の大市の朝、トラモアは朝焼けの前から人で満ちていた。


 広場へ続く通りには布が渡され、各店の印が風にはためく。新しく引かれた流通導線は驚くほど滑らかで、旧市街の品々が無理なく人波へ乗っていく。《オレンジ》の計算で整えた配置に、現場の勘で細かな修正を重ねた結果だった。


 「人、すごい……」

 ルラが息を呑む。


 夕凪染房の看板商品は、《永遠の愛》で染めた記念布だった。恋人だけでなく、家族へ、友人へ、相棒へ、離れて暮らす人へ。誰かのために選べる布として並べたところ、客足が途切れない。


 「夫にやるには照れくさいかしら」

 「では“寒がりの人へ”という札にしましょう」

 ルラが言うと、老婦人は嬉しそうに笑った。


 若い船員が「仲直り用に」と灰橙の布を買い、魚屋の女将は「頑固な亭主を黙らせるのに」と深い藍を選ぶ。ボンカは勝手に店先で口上を始めた。

 「ただの恋布じゃないよー! 照れくさい人のための布でもあるよー!」


 笑いが起こり、また人が集まる。


 離れた位置では、サルコが荷の流れを止めずにさばき、デスポットが詰まる箇所へ即座に人を回す。クロディアナは《オレンジ》の板を見ながら現場確認を続け、イリオノーラは抜き打ち検査の顔で不正を寄せつけない。ジェスパーは人混みの端で気分を悪くした客に湯を渡し、リンドウは売上と在庫の記録を驚くべき速さで積み上げていた。


 昼近く、広場を見渡したルラの胸に、熱いものがこみ上げる。切り捨てるはずだった旧市街の品が、人の手から人の手へこんなにも自然に渡っていく。町の価値は数字だけでは測れない。その証拠が、目の前で笑い、話し、布を抱えて歩いている。


 「見てください」

 ルラが言う。

 「見ています」

 隣でアルカディウスが答える。


 彼の横顔は、ひどく静かだった。騒がしい広場の中で、その静けさだけがやけにくっきり見える。きっと彼も同じものを見ている。店だけではなく、町の価値そのものが救われようとしている朝を。



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