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この日々を愛と呼ぼう 寅印港町交易ギルドとオレンジ色の染布帖  作者: 乾為天女


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17/26

第17話 ひとりでは届かない

 恋人のふりをやめた途端、仕事の連携までぎこちなくなった。


 「その荷札、こっちです」

 「……ありがとうございます」

 「納期表、机に置いておきます」

 「助かります」


 必要なことは話している。なのに、前なら自然に交わせた一言の温度が消えていた。店の中が妙に広く感じる。ボンカはその空気に耐えきれず、茶屋から勝手に乗り込んできた。


 「ちょっと、何これ。喧嘩した夫婦より気まずいんだけど」

 「夫婦ではありません」

 「そこ即答するところじゃないでしょ!」


 サルコは荷を置きながら鼻を鳴らす。

 「運ぶ荷の重さは変わらんのに、空気だけ重いな」

 「痛いところを突かないでください」

 ルラが頭を抱える。


 ジェスパーまで診療所帰りに立ち寄って、湯をすすりながら言った。

 「恋人のふりはやめても、相棒までやめる必要はないだろう」

 「……ボンカと同じことを」

 「港町の医者は、だいたい皆そう思ってるよ」

 「いつのまに町ぐるみなんですか」

 「最初から」


 皆に囲まれて、ルラはようやく自分が何を切ろうとしていたのかに気づく。恋人の名札だけならともかく、支え合う癖まで捨てようとしていた。苦しいから離れたかったのに、離れたせいで仕事まで息苦しくなっている。


 その夜、閉店後にアルカディウスが伝票を届けに来た。ルラは受け取らず、先に言う。


 「すみません」

 「何がでしょう」

 「相棒までやめようとしていました」

 「……私も、似たようなものです」


 ふたりで少し黙って、それから同時に笑った。ぎこちなさの中に、やっと元の呼吸が少し戻る。


 「恋人のふりは、やめたままでいいです」

 ルラが言う。

 「はい」

 「でも、大市までは、ちゃんと一緒にやりたいです」

 「それは、私も同じです」


 アルカディウスは持ってきた資料を机へ置いた。

 「《オレンジ》の試算が出ました。現場の修正が必要です。あなたの感覚を貸してください」

 「貸します。その代わり、帳場の穴埋めはまたお願いします」

 「喜んで」


 外では風が強く、干した布が大きく揺れていた。ひとりでは届かないところへ、誰かとなら届く。その単純な事実を、ふたりは遠回りして思い出した。



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