第13話 冬の大市へ向けた会議
冬の大市に向けた企画会議は、港の倉庫二階にある会議室で開かれた。窓の外にはマストが並び、潮風が紙束の端を鳴らす。
議題は、旧市街とギルドをつなぐ新たな販路づくり。看板名は、やたら勢いのある文字で「寅×港町交易ギルド」と書かれていた。
「誰が考えたんですか、この名前」
「上層部です」
「勢いだけはありますね」
「否定しにくい点を突かないでください」
アルカディウスとルラが小声で言い合う横で、デスポットが腕を組んだ。船長あがりの現場責任者は、細かな飾りに興味はなくても、人が無理なく動ける線を引くのがうまい。
「要は、冬の大市で旧市街の品を新しい流れに乗せる。その実地審査だ」
「成功すれば更新の追い風、失敗すれば整理対象」
イリオノーラが簡潔に補足する。
ルラは背筋を伸ばした。店の存続だけではない。旧市街全体の空気までここに懸かっている。
会議の後半、クロディアナが《オレンジ》の活用案を示した。仕入れ量、客層、動線、滞留時間を計算し、出店配置と配送順を最適化するという。
「反対する理由はわかる。でも、使わずに勝てる根拠があるなら出して」
彼女の目は挑むというより、確かめるようだった。
アルカディウスは資料へ視線を落とし、それから言う。
「使います。ただし、計算結果をそのまま命令にしない。現場の勘で修正する前提で」
「中途半端ね」
「人のいる商いでは、それがいちばん壊れにくい」
「……いいわ」
こうして責任者候補として、アルカディウスの名が挙がった。成功すれば王都への異動話も現実味を帯びる、と誰かが囁いた。ルラはその一言に、胸の奥を軽く刺された気がした。
店へ戻る道すがら、アルカディウスは資料を抱えたまま言う。
「大市まで、やることが増えます」
「知ってます。顔がもう仕事の顔です」
「あなたもです」
「おそろいですね」
「それは少しうれしい」
さらりと言われて、ルラは足を止めそうになった。本人は無自覚なのか、資料の次頁をめくっている。
夕凪染房へ着くと、ボンカが待ち構えていた。
「どうだった? 結婚式の打ち合わせみたいな顔してるけど」
「催しの準備です」
「言い直しても赤い顔は消えないよ、ルラちゃん」
慌ただしい冬へ向けて、町の動きは確実に速くなっていた。選ばれる店、切られる店。残る流れ、消える流れ。その渦の中で、夕凪染房は今までよりずっと大きな場所へ乗り出そうとしていた。




