55 ◇怪しい夫
電話が切れたあと、私はしばらく放心状態でいた。
そんな私のもとへ、奈々子を抱いた夫がやってきた。
どうやら一階のパティオで、外遊びごっこをさせていたらしい。
手を洗わせ、抱いたままの奈々子の手を拭きながら、夫は私の前に来た。
「奈々子、今度はお母さんと遊ぼうか」
そう娘に言うと、私に子守をバトンタッチしてきた。
「電話、誰からだった? お義母さん?」
「ううん、友達から……」
私は、被りを振りながら夫に答えた。
娘の子守から解放された夫がゆっくりするためにリビングへと足を向けた
その背中に、私は言葉を投げ掛けた。
「ねっ、明日ってどこかへ出かけたりする予定あるのかなぁ?」
とそんな風に。
「あぁそうそう、言わなきゃって思ってたとこ。
午後から友達と会う予定があるんだ。なるべく早く帰るよ」
「そう……」
『早く帰るって、なに。……行くなよ』
と言いたかった。
ここ最近休日に出かけたりすることなんてほとんどなかったのに。
このあと、私は目まぐるしく頭をフル回転させた。
そしてデッサン教室の受付のスタッフに電話を入れた。
「体調が悪いので明日は休ませてください」と。
そして、次には母親に奈々子を明日見てほしいと電話で子守を
頼んだ。
そう、この時私は、恵子の話していたホテルとやらに乗り込むことに
決めたのである。




