54 ◇吹き荒れる嵐
自助努力で右往左往しながらようやく精神的に自身を安定させて
過ごしていたというのに、夫のあまりの号泣ぶりに少し気持ちが
不安定になってしまった自分。
そして、大きくすれ違った気持ちを抱えたまま過ごしてきた水野夫婦の
無数の波紋に、一滴の雫がこぼれ落ちる。
睡眠をたっぷりと貪れる土曜の朝、ゆっくりと起きてきた夫と娘との3人での
ブランチを終えて少しした頃に、私の元へ、とんでもない人間から連絡が入る。
知らない番号からの電話があり、ついうっかり深く考えず私は電話を取って
しまった。
それは二度と会いたくもないし話したくもないと思っていた
人物からのものだった。
その人物の電話はブロックしていたはずなのに、友人かきょうだいか、
誰かの携帯電話を借りたのだろう、抜け抜けと掛けてきたのだ。
それは自分たち夫婦を破滅の道へといざなった張本人の淡井恵子からの
ものだった。
この時、俊は奈々子の子守をしていた。
「恵子だよ、やっほー。やっと出てくれたね」
「……」
すぐに切ればよかったものを、あまりの驚きで私は切ることも忘れて相手から
垂れ流される戯言を聞いてしまった。
「桃はさぁ、私とあんたの旦那さんとのことはただの浮気だと思ってるんでしょ? でないと、普通離婚するよね?
自分の友達とsexするような旦那と今も結婚生活続けてるんだから、
ただの浮気と思って彼のこと、許してるんだよね」
私がだんまりを続けていると、尚も好き勝手にしゃべり続ける恵子。
「今度久しぶりに会わない? って旦那のこと誘ったら二つ返事で来るって。
ふふっ。次の日曜の3時、って明日よぉ~。
ホテルで部屋取ってるんだぁ。
ねっ、嘘だと思うなら来てみればぁ~。
そんな勇気ある? 魅力的な女でごめんね?
なぁ~に、その無反応。まっ、いいけどぉ~。
最後にぃ、謝っとくね。
女子力高くてごーめん……それとぉ~、あざとくてごめん……ひひっ、
ムカついた? 可愛く生まれるって罪なのね~、じゃあねんっ」
言いたいことだけ言って恵子は電話を切った。




