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虫も殺さないような顔をして、私に平気な顔で揺さぶりをかけてくるのだ。



そんな悪い男なのに、悪い人間に見えないのだから始末に負えない。



「桃、これ……脱いで」


俊の指示の言葉で私たちは共同作業に入る。

脇ぐりを大きくとってあるネグリジェを下に引っ張り脱がしにかかる俊と、

身体を捩りながら片腕を大きめの襟ぐりから抜いて上半身からネグリジェを

脱ごうとする私との共同作業で私の胸や背中が空気に晒された。


……と途端、俊の唇が胸元へ落とされ、ブラの淵から緩急をつけた愛撫が

始まる。

そしてそれは、左の脇近くから右へと徐々にブラカップの形状に沿って順に

胸の谷間まで辿り、「桃が好き過ぎて困る……」と呟いたかと思うと、

またそのまま右側へとプラカップの淵沿いに唇で愛撫を続け、右脇まで

到達すると「苦しくて困る」とひと言……呟きが漏れた。



そんなことを言われる私だって困る。

旦那に自分の友だちと浮気された超絶惨めな女にそんなことを言うなんて、

なんて酷い人。



だが、ブラが外されると、いつものように私と夫との饗宴が始まるのだった。



『この行為をどう受け取れと? 苦しくて困っているのはこちらのほう』



この()、桃は久しぶりに冷めた気持ちに徹することができず、

俊につられるように踊らされるように熱を込めて饗宴に参加して

しまうのだった。



そして宴の後、背に俊の体温を感じながら安らかな気持ちに包まれ……

忘れることが叶うなら、心からあの忌まわしい出来事を忘れたいと

願うのだった。



あの日から自分は一瞬たりとも幸せを感じたことはない。


だが今宵ひと時、嘘か誠か裏切り者の本心がどこにあるのかという疑念も

どこかへうっちゃり、何も頭に浮かべず何も心を泡だたせずフラットにし、

ほんの短い瞬間ではあるけれど桃は心の平安と喜びに包まれながら静かに

眠りについた。


翌朝目覚めてすぐに思ったのは『私はまた幸せになれるの?』だった。



昨夜、俊と交わしたメイキングラブには、やり直せるかもしれないと桃に

思わせるほどの熱量があった。


しかし、起き出してくる俊に笑顔で応えられるほどの余裕のない桃は、

先に目覚めたのをこれ幸いと素早くベッドからするりと抜け出した。



ほど良い肉体疲労と少しの心地よさに桃の気持ちは久しぶりに弾んだ。


そしてそれと共に心に浮かんだことがある。

それは本当にごく自然に浮かんだのだ。



『デッサン教室のモデルも辞めようかな』だった。



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