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桃は植木との間で辞めるという取り決めをして教室を出たものの、最後に
もう一度やさしい男、植木の姿を見納めしてから帰ろうと思い、急ぎトイレの中で
下着を付け簡単に身繕いした後、彼がまださっきの教室に残っていたら
いいのにと思いながら校舎に出た。
そして彼の姿が確認できる窓のところまで歩いていった。
確かに彼はまだそこにいた。
しかし、何とこの時、桃に小さな衝撃が走った。
なぜなら、妻や子供たちとの生活を壊せないからと自分の誘惑を
拒絶していたはずの男が、部下のような立場の女、吉田照子から
積極的で濃厚なキスを仕掛けられ、彼は手慣れた態度と行動で
彼女を受け入れていたからだ。
ふたりの関係は今回が初めてという雰囲気ではない。
双方の身体の密着具合、植木の腕や手の使い方、吉田のこなれた甘え方や
しぐさ。
しばらくふたりのラブシーンを食い入るように見ていた桃は、
そっとその場から離れた。
「あははははっ~、とんだ男だったってわけね。
騙されるところだった。
いや、騙されたけども~。
あいつ、とんでもない食わせ者じゃないの」
そりゃあ愛人なのか、はたまた恋人なのかは知らないけれど、吉田みたいな
四六時中身近にいる女に近くで監視されているんじゃあ、モデルとなんか
イチイチゃできないよね。
速攻奥さんに密告されて復讐されそうだもの。
自制を働かせたわけでもなんでもなくて、自制しないといけなかっただけの話。
植木のことを考えるにつけ、心から好きな相手ならいざ知らず
適当な気持ちで他所の男に手を出そうなんて100万年早かったと
桃は自戒した。
これ以上笑い者になるなんて耐えられない。
そう思い、以後このような形でやけくそになることだけは避けようと
決意するのだった。