12話 英雄、対処に追われる
魔族を名乗る男が起こした事件からひと月程経った。
その間王都はバタバタしていた。
まずは魔族が魔王を失っても争いを仕掛けてきたこと。それを知った住民達がパニックを起こしてしまい、王城や各兵隊の兵舎へと人が押し寄せたのだ。
勿論、第三兵隊の兵舎にも人は押し掛けている。だが、レオナは魔族が創り出した異形の鬼との戦闘で負傷してしまっており不在だった。レオナが負傷したことを知った住民達は更にパニックになり、落ち着かせるのには苦労した。
次に商業区にできた大穴。あれは商業区の地下水道に繋がっていた。おそらく魔族はその地下水道を根城にしていたと推測される。
そして地下水道にあった小部屋から数人の子供が救出された。どの子も目は虚ろではあったが命に別状はなかった。そして別の部屋には人を拘束するための椅子や寝台、枷があり地面には点々と黒いシミができていた。
子供達から事情を聞こうとしたのだが、心に傷を負っているのか誰も喋ろうとはしなかった。過剰に反応してしまった子は泣きながら過呼吸になってしまい、少しずつ時間を掛けて聴取が行われるそうだ。
そして、今回はスブリム王国の王都が標的にされたため、スブリム王国から他の国へと情報が送られた。直様何か起こるわけではないが、其々の国では対策が講じられるだろう。
スブリム王国の王都では魔族の事件の後、あんなにも賑わっていた祭りがパタリと途絶えてしまった。
それもその筈。世界の脅威であった魔王が倒されたのに、世界にはまだ安寧が訪れていなかったのだから。
数日経つと、王城や各兵舎への詰め掛けが落ち着いていった。第三兵隊の兵舎に来る住民達の数も減ってきた。レオナが居ないためその対応は俺がしなければならず、ここひと月はずっと兵舎に籠っていた。
そして今日、負傷していたレオナが復帰する。
これで住民達も少しは安心して、詰め掛けてくる人もいなくなるだろう。
隊長室で書類を片していると、バンッと勢いよく扉が開かれる。
「心配かけたな! だがもう大丈夫だ! 第三隊長レオナ・イーリン、完全ふ━━」
レオナが部屋の中にいる人物を見るや固まってしまった。
レオナが見詰めている人物。それは━━
「レオナ隊長、お久しぶりですー。何や固まってはるけど、まだ体の調子わるいんですか? それならまだウチ居るんで、ゆっくり休んでください」
いろはだ。第五兵隊副隊長の如月いろはが第三兵隊の隊長室にいた。
「な、なんでてめぇが第三兵隊の兵舎に居やがる! ここは第五兵隊じゃねぇぞ! それになんでてめぇだけなんだ、チルロットはどうした!」
「チルなら第五の兵舎で働いとるで。隊長副隊長の二人抜けたら、仕事回らんくなるさかい。それにウチが居るんは、レオナ隊長が居らん間、後輩副隊長の面倒をウチが見てたからや。やんな、ユウ」
「面倒を、見る……だぁ?」
レオナの眉間に皺が寄る。いろはと話てから徐々に機嫌が悪くなってきている。
「そうですー。副隊長として歴の浅い後輩を手取り足取り密に教えてあげてたんや」
そう言うとなぜか俺の背後から両肩に手を置くいろは。
その瞬間、レオナがバチバチと電気を纏い始め小声で何かを呟いた。少し離れていたため聞き取れなかったが、今直ぐにでも飛びかかって来そうな雰囲気を醸し出している。
「レ、レオナ、今のはいろはの冗談だ! 確かに副隊長の業務や住民達の対応の仕方などを教わったが、別に遊んでいたわけでないぞっ」
「なんでそないなこと言うん、ユウ。ウチら一緒にご飯も食べに行った仲やんか。いけずなこと言わんといてーや」
「ぶっコロ……」
レオナが俺といろはの方へと歩を進める。レオナの目のハイライトが消えた気がした。
慌てて俺は準備していた物をレオナに渡す。
「レオナ! これ貰ってくれ! 復帰祝いだ!」
「おぇぁ? 復帰、祝い? ユウからか?」
レオナは鳩が豆鉄砲を食ったように固まる。
「あぁ、レオナには日頃お世話になっているし、レオナが負傷した事件の時も助けてもらったからな。何かお返しがしたかったんだ」
「そ、そうか、気を遣わなくてもよかったんだがな。ま、まぁせっかくユウがオレのために選んでくれたんだ。有り難く貰おうかな」
レオナは機嫌を良くしたのか纏っていた電気はなくなり、頬は少し赤くなっていた。
レオナは貰ったお祝いの中身を確認する。
俺がレオナに贈ったのはネックレスだ。日本ではこういう時、消耗品の方が良いというがここは異世界だ。身に付ける物を贈っても大丈夫と信じ、レオナに似合いそうな花の形をしたネックレスだ。あの花は確かハナミズキ、だったか。
ネックレスを見たレオナはパッと顔を輝かせる。
「お、おいユウ。着けてくれ」
そう言うとネックレスを俺に渡して後ろを向くレオナ。確かにネックレスは自分では着け難いもんな。
ネックレスを着けてあげると笑うのを我慢しているのか、口元がニヤニヤしていた。
「お、おう、あんがと、な。……どうだ? 似合う、か?」
隊長という立場から普段はこういうのを我慢しているのかも知れない。レオナも女の子なんだ、やはりネックレスなどのアクセサリーや可愛いものは好きなのだろう。
「似合ってるよ」
「ッくっ。そ、そうか……」
何だかレオナはもじもじとしているが、トイレにでも行きたいのだろうか。なら我慢しないで行けばいいのに。いや、でも俺が指摘するとデリカシーがないよな。
「もじもじしてどないしたんですレオナ隊長。トイレ行きたいなら行ってきたらええんちゃいます?」
いろはも気になったのか、俺が言えなかったことを言ってくれる。
「ちげぇよ! 別にもじもじなんてしてねーし!」
違ったらしい。
「んん! まぁいい。そんなことより、てめぇはいつまでもここに居るつもりだ? オレの代わりに第三を見ていてくれたことには感謝するぜ、助かった。だが、隊長であるオレが帰って来たんだ。ユウの面倒はオレが見る。てめぇは自分の隊に戻れ」
「そう言われてもなー。こっちでやる仕事はもう決まってしまってるから、それが終わるまではこっち居る感じですねぇ。あと二、三日ってとこやな」
「はぁ!? あと二、三日も居座るつもりなんかてめぇ! ふざけんじゃねぇ! 表出ろ、その舐め腐った顔と根性を叩き直してやるよ!」
「ウチは別にええですけど、大丈夫なんです? これで負けてしまったら、隊長としての威厳とかなくなりますよ。あ、そしたらウチが第三の隊長なってユウの面倒も見てあげますよ」
両者の間で火花が散っているように見えた。このままでは本当に外に出て張り合うかもしれない。そしたら業務も滞るし、更に面倒なことが発生するかもしれない。
俺は慌てて二人の間に入り、その場を収めようと四苦八苦する。
その後、二人は何とか落ち着き、業務を始めるのだった。
いろはが第三兵隊に残った三日間はいつもの倍以上業務が進み、机の上にあった山のような書類関係は殆ど片付いてしまった。
レオナとチルロットには悪いが、いろはにはこのまま第三兵隊に残ってほしいと思ってしまった。




