↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/28

10話 英雄、厄災へ挑む


 俺達は今回の事件に関与していそうな怪しい男を逃してしまった。


 直様、第三兵隊と第五兵隊の隊員達を投入し東の居住区やその周辺を捜索させたが、逃げた男を見つけることはできなかった。


 第三、第四兵隊だけでは見つけ出すことができなかったため、第七兵隊にも協力を要請することになった。だが、要請するためには一度王城へ赴かなければいけないため、俺とレオナはいろは達と別れ二人で王城へ向かうことになった。


 いろは達には引き続き捜索の指揮を執ってもらっている。


 俺とレオナは急ぎ王城へ向かう。


 いつもなら馬車で移動するため、王城までが遠く感じた。


 暫く走ると、やっと王城が見え始めた。もう少しで到着する。


 あと少しと気合いを入れ直した時だった。


 遠くの方で『オオア゛アアァァァアアァァァァ』と地響きのような音が響いた。


 地面が少し揺れたと思ったら、直後商業区の方から爆発音が轟く。


「ちっ、あの野郎、何かしやがったな!」


 レオナが吠え、商業区の方を見遣る。


 俺とレオナは互いに頷き合い、商業区へ向かうために走り出した。




 商業区に着いたときには、周囲はパニックになっていた。


 住民は逃げ惑い、爆発の衝撃でか露店や屋台が吹き飛ばされたり瓦礫などにより倒壊している。


 そして商業区の道のど真ん中に大穴が空いていた。あそこが爆発起点か。


「第三兵隊隊長のレオナ・イーリンだ! ここは危険だ、できるだけ離れろ! 近づくんじゃねーぞ!」


 レオナが大声で住民達を遠ざけようとする。だが、パニックになっていたり野次馬根性が逞しい輩がいるため、中々収拾がつかないでいる。


 ちっ、とレオナが舌打ちをする。何とはなしにこの場は俺が収めないといけないと感じた。


 俺は何とか言葉を紡ぎ出す。


「第三兵隊の副隊長だ! 王都の住民達よ、不安であったり気になるのは分かるがこの場は退いてほしい! これから戦闘が起こるかもしれない、もしそうなったなら近くにいる諸君が巻き込まれてしまうかもしれない! 王国民である諸君が傷付くのはレオナが望むところではないのだ。頼む、どうかこの場は大人しく離れてほしい!」


 俺の言葉にパニックになっていた住民や野次馬達が互いに顔を見合わせて、この場から離れていく。何とか理解してもらえたようだ。


「ナイスだユウ」とレオナが拳を俺の胸に当てる。


 俺達は大穴を確認するために近づこうとし、穴の直ぐ横に男性が立っているのに気が付いた。


「そこは危ないぞ! 離れるんだ!」


 俺が男性に注意をすると、男性はアルカイックな笑みを浮かべ此方に話し掛けてくる。


「またお会いしたでありますな。先程お世話になったお返しをしないといけないでありますよ」


 また会った? 何を言っているんだ、この男性とは初めて……そこで違和感に気付いた。


 住民達はこの場を離れ、大穴の近くには誰もいなかった筈。そして野次馬達とは違い、明確に此方に語り掛けていた。


 その違和感を頼りに男性を食い入るように観ると、ふと気付く。この男性は先程レオナが蹴りを放った後取り逃がした男だということに。


「レオナ! コイツはさっきの男だ!」


「なに!?」


 俺がそういうと男は「気付かれてしまったでありますか」とケタケタ笑う。


「このまま気付かれないのかと思ったでありますよ、流石にそこまでの無能ではなかったようでありますな、くく」


「てめぇ、ぶっコロすっ」


「ああ、怖い、怖いでありますよ、くくく。こうなっては私の代わりに、コイツに戦わせるしかないでありますよ」


 男は大穴の中に向かって「さぁ来い憎悪の権化よ!」と叫ぶ。


 すると穴の中から何かの気配を感じた。それも、虫の知らせというのだろうか、とても嫌な感じがする。


 穴の中から、黒くて細長い手が伸びてきた。そして地面にその手を突くと、穴からぬっと黒い人型の何かが出てきた。


 真っ黒な存在だった。腕は四本あり手足は長細く、人間でいう額(ひたい)辺りに大小二本の角が生えている。まるで鬼のようだと思った。


「こいつは『悪意』。我々魔族から人間共に心ばかりの絶望をお贈りするであります。絶望の淵で踠(もが)き苦しみ全てを絶念しながら死んでいくでありますよ」


 男は「やれ」と純黒の鬼に端的な指示を出す。


「オ゛オオォオギャヤアアァァァァアァ!!!!!!」


 鬼は耳を劈(つんざ)くような強烈な咆哮を上げた。俺とレオナは両耳を抑え苦痛に悶えこんでしまう。


 そのせいで反応が遅れてしまった。目の前まで鬼が迫っていたのだ。


 鬼は四本の腕を俺方に突き出し迫ってくる。その手が俺に触れそうになった時、鬼の頭に蹴りが放たれる。レオナによる飛び裏回し蹴り。助かったと同時にそんなことを簡単にやってのけるレオナの身体能力の高さには驚ろかされる。


 鬼がよろめいている間に俺は剣を抜く。ブレードソードは王都内を駆け回るには大きいと思い、今回はサーベルを帯びていた。


 レオナも双刀を抜き放ち、いつでも動けるように構えをとる。


 よろめきから立て直した鬼は、また腕を四本とも前に突き出して迫ってくる。今度は来るとわかっていたので【器用貧乏】を頼りつつ突進を回避する。


 すれ違いざまに斬りつけようとしたが、鬼の突進が速く、斬る前に間合いの外に出てしまった。


 鬼は獲物を捕えられなかったと気付くと向きを変え、もう一度同じように突進してくる。今度は斬ることを意識して躱したため、鬼の横腹に一太刀浴びせることができた。


「オ゛オオォオオッ、ォォオボオオォオオ!」


 斬られた苦痛によるものか、鬼は体をよじりながら咆哮する。


 俺はその隙に鬼を鑑定する。


[なまえ]━━━━


[しゅぞく]いぎょう


[つよさ]つよい


[ぎふと]━━━━


[びこう]ひとのくるしみをかてにつくられた


 鑑定した内容を観て驚愕する。


 種族が異形であること、備考欄に人の苦しみを糧に造られたと書かれていること。そしてこいつを生み出したのが失踪事件の黒幕であったことが合わさり、嫌な想像をしてしまう。もしかすると攫われた人達はもう……っ、最悪の結末を想像しそうになったが、今は目の前の鬼を対処することに意識を向ける。


 名前とギフトが何も無かったのは、造られた生命体だからだろう。ギフトが無いのであれば、単純な生物としての強さのみだ。


 ギフトによる搦手がないのがわかったのは大きい。それだけでも戦いやすくなる。


「レオナ、こいつの動きは単調だ。一気にけりをつけるぞ!」


「おう、わかった! はあぁぁぁ!」


 レオナが先に動く。体に電気を纏わせながら疾風の如く鬼を斬りつけていく。


 鬼は腕二本で防御の構えをとりつつ、残りの二本をバタバタと動かして抵抗する。だがそれだけではレオナを捕えることはできず、切り傷が増えていく。


「な、何をやっている『悪意』よ! 貴様は人間共を殺戮するために生まれたのだ! 早くその二人を殺して、この王都を地獄に変えるのだ!」


 鬼が俺達を始末できないでいるため、男が苛立ちを隠そうともせず吠える。


 鬼は男の命令を聞き「オオ、オギャアアアァァァァ!」と叫ぶ。


 至近距離での大声に眉を顰(ひそ)めるものの、サーベルで袈裟斬りを繰り出す。


 肩口から脇腹まで斬られた鬼は後退りながら「オ、オオ、オ」と苦痛の声を漏らす。


 そしてレオナが何もしてこない鬼に素早く近付き、跳んで回転斬りを繰り出した。


 鬼は抵抗もできずに斬りつけられ、少しよろめいた後に倒れた。


「なっ、馬鹿なっ」


 男は心底驚いたのだろう、感情が抜け落ちた表情をし固まっている。


 レオナが双刀の一本の剣先を男に向けて言い放つ。


「てめぇの悪行もここまでだ! 大人しく捕まればこの場でのてめぇの身の安全は確約してやる!」


 その言葉を受けても男は固まったまま動こうとしない。


「ちっ、てめぇ聞いて━━」とそこまで声を発したレオナが横に吹き飛ぶ。そしてそのままレオナは建物の壁に打ち付けられる。


 は? 何が……起きた?


 その答えは直ぐにわかった。


 討ち倒された筈の鬼が復活し、腕を振るいレオナを払い除けたのだ。そして鬼の身体には変化があった。


 先程までの鬼は全体的に細長い印象だったのだが、今では身体が肥大化し筋骨隆々としていた。


 俺は圧倒的な絶望感を抱(いだ)きながらも、鬼の方を向きサーベルを構えるのだった。


 その場ではただ一人、男だけが嘲るような笑みを浮かべていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。