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09話 英雄、事件を捜査する3


 聞き込みを一旦中断した俺達は、集合場所である『蒸したジャガイモ亭』へ向かった。


 俺達が到着した時には、いろは達は『蒸したジャガイモ亭』の前に待機していた。


「わりぃ、遅くなった」


「いにゃ、わぁち達もいみゃ来たとこりょだ」


 合流したのでジャガイモ亭の中に入る。中に入ると、受付の女の子に声を掛けられる。


「いらっしゃいませ、宿泊でしょうか? それともお食事のみでしょうか?」


「メシだけだ」


「かしこまりました、では食堂の方へ……あ!」


 女の子は案内するために俺達を見回した時、俺を見るや動きを止め、そして何かを思い出したのか声を上げる。


「先日、宿屋を探されていたお客様ですよね? 無事宿は取られましたか?」


 ジャガイモ亭の女の子は、宿に泊まってすらいない少し言葉を交わしたに過ぎない俺のことを覚えていたようだ。その女の子は何故か不安そうに俺に尋ねてきた。


「あぁ、結局宿は取れなかったが、寝泊まりできる場所はできたから大丈夫だ」


 そういうと女の子はホッとしたような表情をし「良かったです」と呟く。


「実はお客様が帰られた後直ぐ宿泊に一件キャンセルが出まして、急いで外に出てお客様を探したのですが見つけられず、一度食堂へご案内してお食事をしてもらえば良かったと後悔していたのですが、宿泊できる場所が無事見つかっていたと知り胸を撫で下ろすことができました」


 両手を胸の中央で重ね合わせながらホッと息を吐き、此方に微笑み掛けてくれる女の子。でも直ぐに「ん?」と首を傾げながら困惑の表情を浮かべる。


「『宿は取れなかったが、寝泊まりできる場所はできた』と仰いましたか?」


「お、おお、そうだが……」


「それは一体どういうことでしょうか?」


「あ、ああ、それはこの格好のことだ」と言い、俺は自分の今の姿を女の子に見せる。


 女の子は俺の姿を上から下へ、下から上へと観た後、驚いた表情を浮かべる。


「えぇ!? お客様、軍に入られたのですか!?」


 この女の子、表情がコロコロと変わって面白いな。


「あの時は名前すら名乗らなかったから改めて」と俺は所属と階級(副隊長って階級なのか?)と名前を女の子に伝える。女の子はより一層驚きの表情を強くし「えぇぇ!? 副隊長ぅぅう!?」と大きな声を出した。


「ふ、ふふ、ふ副隊長ってあのあの、王国軍のそれぞれに別れている隊の二番目に偉い、八柱大将軍の右腕なんて呼ばれているあの副隊長ですか!?!?!?」


「そんな風に呼ばれてるみたいだな、俺もさっき知ったばかりだが」


「ふえぇぇぇ……、軍の副隊長さんなんだぁー」


 女の子は頬を赤らめながら何かを呟いたが、声が小さくてよく聞き取れなかった。何て言ったのかもう一度聞こうとすると、その前にレオナが「んんっ」と咳払いをする。


 女の子はレオナの方を見るとポカンと固まり、少しして慌てて再起動する。


「す、すみませんお待たせさせてしまいっ、直ぐに食堂にご案内しますっ!!」


 女の子は俺達四人を食堂まで案内すると「空いている席はお掛けください」と言い傍(わき)へとずれる。レオナ、チルロット、いろはの順に女の子の前を横切り食堂に入っていく。俺もその後に続くように食堂へ入ろうとした時、不意に手を握られる。


 握ってきたのはさっきまで話して、そして食堂まで案内してくれたこの宿屋『蒸したジャガイモ亭』の女の子だ。女の子は少し頬を赤らめながら真剣な表情をしている。


「わ、私、この宿屋の娘のニーニャっていいます! あ、あのっ、私歳の差なんて気にしない性格ですっ。ゆ、ユウさんと、仲良くなれたら、嬉しいですっ!」


 仲良くって、友達になりたいということか? それだったら俺は構わないしこの娘(こ)も年頃なんだろう、軍の人と友達なんだよって周りに自慢したいのかもしれない。そう思い、俺は頷いた。


「あぁ、いいよ。友達は多いに越したことはないしな。俺は此処に来てまだ日が浅いから、王都について色々教えてくれると助かる」


 俺の言葉を聞いたニーニャは「と、友達……」と絶望したような表情をしていたが、直ぐにまた表情が変わる。


「いや、王都を案内するのってデートだよね。ならそこで意識してもらえらば……」


 何て言っているのか聞き取れなかったが、真剣な表情で独り言を呟いているから、きっと大事なことなのだろう。


 食堂内を見ると他の三人はもう席に座っているので俺もみんなの元へと向かう。席に着いた俺にレオナが「何喋ってたんだ?」と聞いてくる。


「友達になって欲しいとお願いされただけだ。きっと軍に知り合いがいると同年代の友達に自慢したいんだろう」


 それを聞いたレオナは「友達だぁ?」と言い眉がピクリと動いた。いろはからは「罪な男やな〜」とニヤニヤされた。意味がわからない。


「おほん、ムダばにゃしはそにょぐらいにしちぇ本題に入りょーか、ちょ言いたいちょころだゃが、しぇっかくこの場にきちゃのだ。先ずは食事でもょたにょもーじゃにゃいか」


「まぁそれもそうだな」「そうやなー」とレオナといろはがそれに肯定した。……今回のは何となく分かったが、やはりまだチルロットの言っていることはあまり聞き取ることができない。


「おばちゃーん、おすすめを四人分頼むー」


「あいよー」


 レオナが代表して注文してくれた。が、その注文の仕方では何が出てくるのかわからない。異世界ということもあり、期待と不安が入り混じってしまう。それを見ていたいろはが「まぁここの料理は評判ええし大丈夫やろ」と気遣ってくれた。同じ日本人に言われ、少し安心する。まぁこっちの世界に来て少し経つが、食べれないほどのゲテモノ料理にはまだ出会っていないしな。


 料理を待つ間、少し情報交換を行うこととなった。此方からは、事件に関する情報は得られていないが商業区近郊では失踪者が出ていないことを。いろは達からの情報では西の居住区では何人の住民が行方不明になっているようだ。子供の割合が多いようで、人身売買系の盗賊団や組織が関わっているかもしれないそうだ。


 だがお互いに事件を究明できるほどの情報を得ることはできず、進展することはなかった。


 互いの情報を出し終えた所でニーニャが料理を運んできてくれた。 


「お待たせしました! こちらが当宿屋の看板料理、ワイルドボアのからっと揚げになります!」


 ニーニャはテーブルの中央に大皿を置く。大皿には唐揚げにしか見えない料理が山のように積まれている。


「そしてこちらが当宿屋自慢のライスになります!」


 そこには、日本人なら誰もが慣れ親しんだ白米があった。盛り付けこそ茶碗ではなく平皿だが、此方の世界では初めて見た白米だ。オムライスなどの加工したライスや玄米などの白くないライスは何度か食べたが、今目の前にあるのはキラッキラの白米である。ついゴクリと喉を鳴らしてしまった。それを見ていたいろはにクスリと笑われてしまった。少し恥ずかしいが日本人ならば白米に反応せざるを得ない状況である。


「ありがとう、ニーニャ」


 気が付けば料理を運んでくれたニーニャに感謝の言葉が出ていた。何も考えずに出た言葉だ、それほどまでに身体が喜んでいるのだろう。


 急に感謝を述べられたニーニャは困っているのか「い、いえ、それほどでも、ありません」と顔を赤らめて俯いてしまった。本当にコロコロと表情が変わる可愛らしい娘だと思う。


 だが今は目の前の白米だ!


 俺は箸を持とうとして、止まる。この場で一番位(くらい)が低いのは俺だ。なのに俺から食べてしまっていいのだろうか、いや、良くないな。


 俺は不動の構えでレオナとチルロットの動向を窺う。どちらが先に動くんだ、いや、どちらでも良い。この二人が食べ始めてくれないことには俺は箸が付けられない。


 二人に悟られるのは、それはそれで恥ずかしいのでバレる訳にはいかない。俺はそれとなく二人の様子を観つつ、どう動くかを頭の中で━━考えていると、レオナでもチルロットでもない第三の手が唐揚げみたいなものに伸びる。


 その手の正体はいろはだ。いろはは唐揚げを齧り、そのまま白米を口に放り込む。……こいつ、幸せそうな顔をしやがる。どうやら同様しているのは俺だけのようで、レオナもチルロットもいろはのことは何も言わずに食べ始める。


「ユウ、この唐揚げごっつい美味いは」といろはは良い笑顔で言う。えーっと、……どうやら俺だけが気にしていたらしい。


 俺も「いただきます」とだけ言い、唐揚げと白米を食べ始めた。


 拝啓、味はとても美味しかったです、敬具。




 昼食を食べ終えた俺達は『蒸したジャガイモ亭』の外に出る。その際ニーニャから「また来てくださいね」と言われた。そして何故かレオナに頭を叩かれた。


 とりあえず調査するにしても当てがないため、俺達は四人で行動することになった。


 行き先はまだ調査のしていない東の居住区へと向かうことになった。東の居住区は西の居住区同様、平民が中心の居住区だ。中心というだけで準貴族や弱小貴族も数は多くはないが居を構えている。だが自身が選ばれし者という矜持があるため、北側の上級区寄りではあるのだが。


 東の居住区に着いた俺達は、道行く人に手当たり次第に声を掛ける。得られる情報は今までのと大差ないものの、遂に初めての有益な情報を得ることができた。それは「知らない顔の人がいた」という内容だった。


 それは一見しておかしな所はない内容だがよくよく訊いてみると、この場所まで旅人はあまり入ってこないし住民なら顔を知らないのはおかしい、とのことだ。


 それを聴いて俺達はその話で出た人物を探しに向かう。訊いた装いは何の変哲もない住民そのものなのだが、違和感があるらしい。特に当てもなく徘徊しているらしい。そして子供を見つけると、じーっとその子供を凝視しているそうだ。


 俺達は急ぎ教えてもらった地点へと向かい、自身の感覚を頼りに違和感を探す。すると短時間で違和感のある男性を見つけた。その男性は道行く子供を凝視していた。そして見ていた子供を追いかけるように後を付ける。


 そしてその男が子供に手を伸ばそうとした時「おい、てめぇ」とレオナがドスを利かせた声で男を威圧する。


 男は慌てて振り返り、俺達のことを認識すると急に走り出した。


「待ちやがれクソ野郎!」


 レオナが悪態を吐き、逃げた男を追いかける。俺といろは、チルロットもレオナの後を追う。


 追いかけるレオナの身体に電気がバチバチと纏わり始める。ギフトによる力を使うようだ。レオナはどんどんと加速していく。


 そして追い付く直前でレオナは跳んだ。男の背中を目掛けて跳び蹴りを放ったのだ。


 !?!?!? まさかの跳び蹴り!?


 レオナに蹴られた男はそのまま転ぶと思った。しかし男は姿を晦(くら)ませた。


 蹴られた男は運良くか狙ったのかわからないが、大通りへと飛び出し、そのまま人混みの中へと消えていったのだ。


 慌てて俺達は男の後を追うが、最終的には見つけ出すことができなかった。


 俺達は後一歩のところで、今回の事件に関与していそうな人物を逃すのだった。


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