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08話 英雄、事件を捜査する2


 スブリム王国王都ビュティニア。太陽がまだ出きっていない彼誰時(かわたれどき)。住民達が仕事をするために準備をしたり夜勤明けの労働者が帰路に就いたりする時間。


 ディストラは、薄暗い王都を歩いていた。彼は魔王軍から派遣された工作員であるため、こうして暇を見つけては王都を観察している。


 本当ならそんな暇は無いのだが、彼は部下に作業を押し付けて暇な時間を作り出している。


「ふん、アケルナル様も人使いが荒いな。いち工作員にこの王都をどうしろと言うのだよ。勇者がこの国に居ないとはいえ、兵(つわもの)が居ないわけではないのだがな。それが分からないほど馬鹿では━━」


 前からこの国の軍服を纏っている者が近付いて来たため、ディストラは独り言を止め口を閉じる。近付いて来たのは二人組の女だった。小柄な女と細い女。小柄な女が声を掛けてきた。


「すまない、我々は第七兵隊に所属する者なのだが、今現在王都住民に対して聞き込み調査を行っている。王都住民は協力の義務がある為拒否できない。すまないが時間を少しもらう」


「へい! だいじょーぶれすよー、ひっく」


 ディストラは変わり身の如く、酔っ払いへと成り切る。二人組の女は酔っ払いに声を掛けたと分かった途端、顔を歪ませる。だが仕事のためか引き続き問い掛けてくる。


「最近王都の住民が行方不明になる事件が発生している。特に子供の割合が多い。貴殿は何か知らないか?」


「んあぇ? 子供? いんやー、わかんないっすねー。ん、んん、ごほん……、行方のわからない子供より、俺たちの子供を一緒に探さないか?」


 声を掛けてきた小柄な女に対して、ふざけた口説きを掛けた。女は顔を赤くし表情を歪ませる。


「貴様っ、ふざけているのか? 酔っ払いといえど斬り伏せるぞ!」


 小柄な女は帯刀している剣に手をやるが、もう一人の細い女に止められる。細い女は此方を睨め付けながら言う。


「貴公、少々酔いが回り過ぎているようだ。もう家に帰る方がいいだろう。今回の事はなかったことにしておく。が、次はない。今後は酒の量には気をつけた方がいいだろう。それと、もし先の件で何か思うことがあったのなら、第七兵隊の兵舎まで報告を頼む」


「へ、へいっ」


 二人組はそれだけ言うとその場を後にする。だが、二人の表情は最後まで侮蔑の色が浮かんでおりゴミを見る目をしていた。


 二人組が離れたのを確認すると、ディストラは何事もなかったかのように普通の足取りで歩き出す。


「まぁいいさ、アケルナル様が時期魔王に成れば私の地位も高くなる。ふふ、そうなればこんな工作員などと言う現場職からも解放される。そのためには今回の任務は失敗できんな、いや、失敗できないでありますな、ははは」


 言葉と表情が豹変したディストラは、朝ぼらけの王都を歩いていった。その行き先は何処なのか、王都住民は誰も知らない。




 兵舎に着いた俺とレオナは、まず第三兵隊の隊員達を招集した。


「てめぇら、仕事の時間だ! 最近王都で住民達の失踪が相次いで起きている。しかしその原因がわかんねぇ状況だ。それをオレ達第三兵隊と第五兵隊が調査することになった。そこでてめぇらには、王都を警らして事件の聞き込みと治安維持をしてもらう。第七の連中も動いているが期待はするな、オレ達はオレ達の思った通りに行動するだけだ。てめぇらもその場の判断で自由に行動しろ、責任はオレが取る。あぁ、第五の連中とは今回の任務では協力関係にある。何かあったら手伝ってやれ。以上だ、動けるヤツから行動しろ!」


 レオナの命令を聞き動き出す隊員達。そこかしこで「どけ! 俺が隊長のために行方不明の奴らを見つけるんだ!」「第七の奴らは仕事ができない集まりのようだな、がははは」「バァァカ共があぁぁぁ、第五の武力は世界一ぃぃぃい! レオナ隊長を基準にぃぃ、この世界の秩序が作られているのだぁぁぁ!」「俺、第五の副隊長結構好みなんだよな、今回の任務でお近付きになれねーかな」「いや、第五隊長の方がいいだろ。あの小柄な体格、庇護欲が唆られるね」「……くたばれロリコンが」など、聞いてて不安になる言葉が飛び交っている。……こいつら、ここから出さない方が世のためになるんじゃないか?


 まぁレオナが直接指示を出したから、そんな変なことはしないだろうが不安がなくなる訳ではない。どうしても、オメガという前例があるために拭いきれぬものがあるのだ。


 あらかたの隊員が出払ったので、俺とレオナも調査へ出ることにした。あらかたが出払ったと言ったが、副隊長補佐の二人は残ってもらっている。他の隊員が報告に来るかもしれないし、書類仕事を少しでも進めてもらうためだ。今回また何かしらの書類が増えるだろうから、減らせる時に減らしておかないと冗談抜きで書類の山に埋もれてしまうかもしれないからな。


 まず俺とレオナは商業区へとやって来た。商業区は魔王討伐の余韻を感じることができないほどの熱気に包まれている。雑踏としていて喧騒の絶えない空間が広がっている。


 俺とレオナは別々に聞き込みをすることにした。まず俺は少し懐かしい串焼き屋台のおっちゃんに声を掛けることにした。


「おっちゃん、串焼き一本」


「おう、毎度あり! ちょっと待ってくれな、ん? 兄(あん)ちゃんどっかで見たことあるような」


「おう、魔王が倒された次の日に宿屋を聞いた旅人だよ。覚えていてくれて嬉しいよ」


「ああ! あん時の兄ちゃんか! 宿屋は無事取れたか? てか、その格好はもしかして……」


「あん時は助かったよ、まぁ宿は取れなかったけど、無事寝泊まりできる場所は見つけられたよ」


「そうか、兄ちゃん軍に入ったんだな。それはえれぇ出世じゃねぇか。しかもその首、一般兵じゃないよな?」


「ん、ああ、なんやかんやあって副隊長をやることになって━━」「副隊長っ!?」


 串焼き屋のおっちゃんの予想外な大声に少し驚いてしまった。確かに王都に来てそんなに日は立っていないが、そんな驚くことなのだろうか。


「副隊長っていえばこの国の軍の要、八柱大将軍の右腕じゃねぇか! そんなすげぇのになっちまったんだな、いや、なったのですね、か?」


「いやいや止めてくれ、今まで通りで頼むよおっちゃん。堅苦しいのはあまり好きじゃないんだ」


「そうかい? ならそうさせてもらうかい。いやしかし、本当にすげぇなー」


「そんなに凄いことなのか? ていうか、八柱大将軍って?」


「かぁー、兄ちゃんそんなことも知らずに副隊長やってんのか。なら教えてやんよ!」


 そう言った串焼き屋のおっちゃんは捩鉢巻(ねじりはちまき)を結び直す。


「まず八柱大将軍っていうのは正式な名称じゃないが、広く使われている愛称みたいなもんだ。俺の爺さんのガキの頃はその名称だったらしく、その名残で今も使われている感じだな。まぁこの国の軍の最上位にいる方達には違(ちげ)えねぇ、ただの王国民である俺達にとっちゃあ憧れの存在だな」


「へぇ、レオナ達はそんなに人気があったんだな」


「ったりめぇだろ! 王国軍総隊長のレガトゥス・ゴールデン様は勿論、レオナ・イーリン隊長にチルロット・ナナニアム隊長も人気だな。他の隊長達も人気ではあるが、この御三方の人気にゃー敵わないな!」


「お、おう、そうなのか」


 あまりの熱量に少し引いてしまう。王国に住む人はみんなこうなのか、それともこのおっちゃんが特別入れ込んでいるのか。異世界のこの世界では娯楽が少ないから将軍や英雄などの人気な人をみんなで推す感じなのだろうか。


「ところで兄ちゃんは何処の隊の副隊長なんだ?」


「そういえば言ってなかったか。第三兵隊だ」


「……………………今なんて?」


「え、あ、だ、第三兵隊所属の副━━」


「な゛あぁぁぁんだっっっでえぇぇぇ!!!!!!」


 ッ!?!?


「兄ちゃんレオナ隊長の右腕なのかなんて羨ましいんだこの屋台やるから代わってくれいやでも俺は戦いの事なんてなんもしらねーし昔から荒事には向かねぇっておっ母(かあ)も言ってたしでもこんな身近にレオナ隊長の━━━━」


 もの凄い早口で何かをブツブツ言い続ける串焼き屋のおっちゃん。その目は焦点が合っておらず、只々虚空を見つめている。串焼き屋のおっちゃんからの聞き込みは諦めて他の人を当たるか?


 などと考えていたらレオナが声を掛けてくる。


「おいユウ、そっちはどうだ? 何か進展はあったか?」


「ヒュッ…………レオナ、隊長……」


「あ、あぁ、すまない、こっちは何の進展も━━」


 グイッと後ろから肩を引かれた。耳元で串焼き屋のおっちゃんが小声で話し掛けてくる。


「あ、兄ちゃん。レオナ隊長の右腕であることは理解した。な、なぁ兄ちゃん。何か困ってるんだろ? 俺はこの辺でそこそこ顔が広いから、もしかしたら何か役に立つかもしれねぇ。その代わりと言っちゃなんだが、こ、ここに色紙なんて物があるんだが、その、なぁ……」


 と言いながらチラチラとレオナのことを見ている串焼き屋のおっちゃん。これは、もしかして。


「もしかして、サインが欲しい?」


「いやそんな欲しいだなんて恐れ多いし直接的過ぎると言うか何と言うか」


「じゃあ要らな━━」


「要ります欲しいですくださいお願いしますっ!」


 はぁ、初めから素直になれば良いものを。俺はおっちゃんから色紙を受け取るとレオナの方へ向かう。レオナってこういうサインとかファンサ? みたいのはするのだろうか。


「レオナ、あ〜、その、悪いんだがサインを貰えるか? あの屋台のおっちゃんがレオナのファンらしくて」と言いながら色紙をレオナに渡す。


 レオナは無言で色紙を受け取ると此方を見つめ「書くものは?」と聞いてくる。……あ、そういえばこの世界は羽根ペンが支流で、鉛筆やボールペンといったものはまだない。


 レオナは串焼き屋台の元へ向かう。俺もその後に続く。


「悪いなおっちゃん。今書くものがねぇんだ。また今度、書いたものを届けさせるよ。今じゃなくて残念だろーが、我慢してくれ」


「い、いい、いえ、滅相もないっ。俺こそいきなりサインなど求めてしまって申し訳ないですっ」


「いや、ファンということはオレのことを応援してくれてるんだろ? 応援してくれるヤツのことを邪険に扱ったりはしないさ。これからもオレやそこのユウ、第三兵隊のことを応援してくれ」


 ニカッと笑うレオナ。串焼き屋のおっちゃんも顔が赤くなりながらインコのように首を上下に振っている。


「話しを遮って悪いが、おっちゃんに聞きたいことがあるんだが良いだろうか?」


 ハッと首を振るのを止めるおっちゃん。そして俺の方へ向き直ってから「おう! 何でも聞きな!」と答えてくれる。


「今王都で住民の失踪が相次いでいるんだが、何かしらないか? 些細なことでもいいから、何か変わった事があったら教えてほしい」


「んー、変わった事、ねぇ。この辺の住民からはそういった話はあんまり聞かないな。旅人なんかだと、居なくなっても気付き難いだろうしなぁ。んー、力になれなくて申し訳ないがわかんねぇなー」


「そうか、いや、ありがとう。また何か変わった事があったら第三兵隊まで教えてくれると助かる」


 何も事件に関わる情報は得られなかったが、商業区付近ではあまり発生していないことが知れただけでも収穫だろう。


 俺とレオナは次へ向かおうとした時、正午を知らせる鐘の音が鳴り響いたため一旦聞き込みは中断し、いろは達との待ち合わせ場所である『蒸したジャガイモ亭』へ向かうことにした。


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