06話 英雄、副隊長になる
スブリム王国軍第三兵隊。
スブリム王国が持つ軍の部隊の一つ。
その中でも特に好戦的で気性が荒い者が集まる部隊だとされている。問題も多いそうで、オメガが日々苦労していたと言っていた。そういえば転生した初日、王都の住人がそんな会話をしていた気がする。
そんな第三兵隊の副隊長を任されてしまった。
まだこの世界に来て三日目、それどころか軍務を服したのは一回だけだ。
そんな人間が一部隊の、国軍の幹部職に就いていいのだろうか。
第三兵隊の隊長のレオナ・イーリンや元副隊長のオメガ・ネストからは問題ないどころか、是非にと言われているがそれでも躊躇いはする。
昨日のドラゴン討伐では確かに指示を出してはいたが、あれは突発的なものだったし、それに勝てたのはレオナが駆け付けてくれたからだ。レオナが来てくれなかったら、少しずつとはいえ戦力が削がれ全滅していただろう。
レオナのような一騎当千の力があれば勝てたかもしれない。やはり鍛錬あるのみか。地球ではどれだけ鍛錬してもおおよその限界値は決まっていた。しかし此処は異世界。ギフトなる異能まである世界だ。きっと地球にいた時よりも強くなれるはずだ。
昨日の振り返りや今後の鍛錬などを考えながら、オメガのお見舞いの帰路に就く。
兵舎に着くとレオナから「昨日の報告に行くから副隊長として付いて来い」と言われた。
王都の中央にある王城に報告しに行くそうだ。八柱会議と呼ばれるものが開かれるらしい。そこで各部隊の隊長達が集まり、話し合いが行われる。
その場で俺のことを新副隊長として紹介するとのこと。
……なるほど。その会議に参加するのは悪いことばかりではなさそうだ。各隊長達が集まるということは強者が集まるということ。レオナと同等かそれ以上の猛者も居るかもしれない。
そんな強者達と繋がりが持てるのなら、参加する意義がある。上手くいけば特訓などを付けて貰えるかもしれない。
うちの隊長であるレオナも強いが、強者の戦い方や考え方などは多く知っておくべきだ。知識の有無で勝敗が決まる事など多々ある。
俺はレオナに了解の意を伝え、気になったことを聞いてみる。
「隊長、聞きたい事があるのですが良いですか?」
「レオナ」
「え?」
「……レオナで良い。昨日もそう呼んでただろ。あと、敬語もいらねぇ! オ、オレとオマエの間に他人行儀なんて必要ねぇ! オレ達は家族みてぇなもんだからな、き、気楽に接してくれればいい、うん、そう、家族だからな……家族って言っても別に恋人だとかふ、ふふ、夫婦って言ってるわけじゃないというかなんだその」
途中からレオナの声が小さくなっていき、何を言っているのか聞き取れなかった。
だが初めの方は聞こえていたし、レオナから敬語は止めろと言われればそれに従うほかない。俺は改めてレオナの方を向き、質問する。
その際、ユウは無意識にレオナの目を見て語りかけた。レオナもそれに倣い、ユウの目を見て自分に掛けられる言葉を待つ。だが、レオナは先の自分の発言を少しばかり意識してしまい、固唾を呑んでしまう。
「じゃあ、レオナ」
「おう! なんだユウ!」
「その話し合いの場には、どんな格好で行けばいいんだ?」
「……え?」
各隊長格が集まる集会だよな? なら服装はきちんとした方がいいのだろうか。といっても、俺には日本で着ていたジャージと軍服しか持っていない。軍服は正装扱いになるのだろうか。それともやはり良い服を買わないといけないのだろうか。この世界の良い服なんて正直わからないが、服を売っている店に行けば教えてもらえるだろう。金も女神から貰った分でなんとかなるだろう。
そんな疑問をレオナに伝えると、レオナは鳩が豆鉄砲を食ったようにきょとんとしていた。
「レオナ?」
「え、あ、うん、そうだな、基本何でもいいとは思うぞ。オレ達はこれでも王国の軍人だ。大抵のことは軍服を身に纏っておけばなんとかなるもんだ」
「そうなのか?」
「あぁ、このオレが実証したことだから間違いねぇ。八柱会議だろうが国王主催のパーティーだろうが軍服で出て何か言われたことはないぜ」
なるほど。まぁ確かに、軍人なのだから軍服が正装と言われればその通りだろう。
俺は服装について教えてくれたレオナを観る。
レオナの服装は軍服のチュニックを着ており、その上に防具の胸当てと手甲を身に着けている。下はショートパンツにニーハイブーツを着用している。レオナの戦闘スタイルに合わせた動き易さ重視の格好にしているのだろう。
金髪の髪はサイドテールにしており、改めてレオナを見ると可愛い女の子だなと思う。少し言葉遣いは悪いが、ここが日本であったのならきっとモテていたに違いない。
レオナのことをじーっと見続けたからだろうか、だんだんと頬が紅潮していきレオナが怒る。
「おい、見せもんじゃねぇぞ! ……たく、まあ、どーしても見たいってんなら仕方ないから見てもいい━━」
「あ、すまない。女性を凝視するのはよくないな」
デリカシーの無いことをしてしまった。
いくら異世界でも、女性に対して失礼なことには違いない。その辺りは前も今の世界もあまり違いがないのかもしれないな。
俺はレオナから視線を外し、謝罪する。
すると先程まで紅潮していた頬はすぅっと元の綺麗な薄橙色に戻り、ぽかんと口を開いている。
ん? どうしたんだろう。俺が直ぐに謝罪したのが意外だったのだろうか。それなら心外だな。女性に対し失礼なことをしたならば、謝罪は道理だろう。
それで服装だが、軍服でいいのなら今着ている支給された軍服のままでいいのだろう。
レオナと比べてシンプルな作りだが、レオナは第三兵隊の隊長なのだ。他の隊員に比べて豪奢なのは当然のことなのだろう。
俺はレオナにこのままの格好で行くと伝える。
するとこれから移動すると伝えられ、兵舎から馬車に乗り王都中央の王城へと向かう。
馬車の窓から見える王都の街並みを楽しみながら、もう一つのことを楽しむ。
それは馬車だ。物語に出てくる馬車は乗っているとお尻が痛くなると書かれている。それは世界観が中世のものが多く、馬車のサスペンション機構が発達していなかったり道が舗装されていなかったりし、衝撃が直にお尻に加わるからだ。
そしてそれを俺は今楽しんでいる。まだ痛いまではいっていないが、衝撃を伝わってくる。馬車の座席にはクッションが設置されているし王都の道は舗装されているが、サスペンションが全然駄目なのだろう。少しの揺れでも、乗っている身からすると結構な衝撃だ。これが王都外の舗装されていない道を走るのなら、確かにお尻は直ぐに痛くなりそうだ。それに馬車の移動は徒歩よりは速くとも、地球の車に比べれば雲泥の差がある。街間の移動だけでも時間が掛かる。その間ずっとお尻に衝撃が加わると思うと、流石にキツいだろうな。
まぁ、それも異世界の醍醐味だろう。いつか旅に出るのもいいかもな。
などと考えていると、王城の前まで来ていた。
そのまま門を通り抜け、馬車を降りる。
城の入り口に立つ衛兵の横を通り過ぎる。
その際、衛兵から「レオナ第三隊長、お疲れ様です!」と声を掛けられた。
レオナも「おう、ご苦労」とだけ返し、そのまま王城の中へ入っていく。
俺もその後に続き王城内に入った。
王城というだけあり、広い。そして荘厳な建築をしており、圧倒的な重厚感と歴史を感じる。この場に居るだけで背筋が伸びる感覚だ。
そんな中をレオナは躊躇なく進んでいく。
そして歩くこと五分程。重厚な扉の前までやって来た。レオナは何の躊躇いも無く扉を開ける。
レオナに続いて部屋の中へと入る。部屋には大きな円卓と八つの椅子がある。
その内の六つは既に埋まっており、それぞれ一人ずつその傍らに立っている。第三兵隊以外の部隊の隊長と副隊長か。
レオナは空いている〈Ⅲ〉と書かれた席にドカッと座り、俺は周りに合わせてレオナの後ろ隣に立つ。レオナの右隣の席には〈Ⅱ〉と、左隣は〈Ⅳ〉と書かれている。時計回りに数字が大きくなっているのか。
レオナが席に着き少しすると新たに二人組が部屋に入ってくる。四十ぐらいの大柄の男と細身で白髪混じりの初老の執事然としたイケおじ。
そして部屋の扉から1番遠い席、部屋の入り口から真っ正面を向く形の席に大柄の男が座る。
その大柄の男が口を開く「全員揃っているな」と。
「それでは八柱会議を始めよう。まずは━━」
「すまない、少しいいだろうか?」
大柄の男の言葉を遮るようにレオナは発言する。
「む? どうかしたのかイーリン第三隊長」
「あぁ、先ずは言葉を遮ってすまない総隊長。だが、昨日の件の話を円滑にするために、初めに紹介させてほしい」
「ネスト副隊長の代わりに居る彼のことか?」
「そうだ、オメガがドラゴンの討伐任務中に負傷したから、代わりに副隊長に就いたハナブサ ユウだ」
周りの視線が俺に集まる。俺は狼狽えずにどっしりと構えるように意識する。
「ほう、代理ではなく就任なのか」
「あぁ、オメガには負担を掛け過ぎていたようだ。これを機に少しの間休養を取ってもらう」
「そうか、彼は生真面目であったからな。副隊長の責務を完璧に熟そうとしてくれたのだろう。ゆっくり休んでくれと伝えてくれ」
「わかった」とレオナは返事をする。
「さて、ハナブサ ユウ君と言ったか、簡単に自己紹介をしてもらおうじゃないか。なに、他の隊の隊長達に名前を覚えてもらえると考えたら悪いことではないだろう?」
レオナを見ると、レオナは首を縦に振る。自己紹介しろということだ。
「レオナ隊長より第三兵隊の副隊長に任命されました。若輩者ではありますが、最強になるために粉骨砕身頑張ります。至らない所がありましたら、ご指導の程宜しくお願い致します」
経験上、長たらしい挨拶は好まれないことが多かったため、簡潔に自己紹介をした。その際、名前について姓が先で名が後であると伝える。
「ほう、ではハナブサ君と呼ばせてもらおう。では新副隊長のために次は私が自己紹介をしようではないか。レガトゥス・ゴールデンだ。第零兵隊隊長、そしてスブリム王国軍総隊長を務めている。この国の軍のトップということだ。君は先程、最強になると言っていたが、この国の現最強はこの私レガトゥス・ゴールデンだ。最強に成りたいのならばこの私を超えなければ最強には成れぬ。精進するんだな」
「他の隊長達はイーリン第三隊長に聞くように」と言い、レガトゥスは次の話に進める。
堂々とした威厳溢れる態度。そしてこの国で一番強い存在。俺はこの国の最強がどれだけ強いのか気になり、【鑑定】を使い確認する。
[なまえ]れがとぅす・ごーるでん
[しゅぞく]ひと
[つよさ]とてもつよい
[ぎふと]りゅうじょうこし
[びこう]いちばんすきなたべものはけーき
強さがとてもつよいとある。俺がまぁまぁつよいでレオナがつよい。とてもつよいはそれらよりも上になるのだろうか。レガトゥスの発言では、この国で一番強いとのことなので、そうなるのだろう。
とてもつよい、か。昨日戦ったドラゴンよりも強いということになる。ドラゴンよりも強い存在。それがこの男で国最強の男でもある。
良い。凄く良い! 魔王が討伐された世界と聞いて、何のために転生したのかと思っていたがこの世界にはまだまだ強い存在がごまんといることがわかった。その者達よりも強くなり、この世界で最強の存在を目指そう。
などと考えているとレガトゥスがニヤリと口元を歪め「ふ、いい目をしている」とボソリと呟く。
!? 鑑定がバレたのか? それともただのまぐれか?
鑑定を使われた側の反応は今まで無かったから無いもの思い込んでいたが、強くなればそういったものも感知できるようになるのかもしれない。
そして、実はこの部屋の中にもう一人、鑑定を使用したい人物がいる。
〈Ⅴ〉の席に座っている隊長の後ろ、第五兵隊の副隊長と思しき人物のことが気になっている。
俺が転生して三日間、今まで会ってきたこの世界の住人達は西洋風の顔立ちをしている。でもその人物はどちらかといえば東洋側の出身に見える顔立ちをしている。
この王都では、エルフやドワーフ、獣人などは目にしているが東洋風の、ましてや日本人のような人物は見掛けていない。
だが、この世界に送ってくれた女神の話では俺は千人目の転生者らしい。ということは、この王都に俺の他にも転生者が居てもおかしくないはず。
俺はその第五兵隊の副隊長と思しき人物に鑑定を使━━━━
「諸君!」
! レガトゥスの張る声によって意識がそちらに向かう。レガトゥスの話が始まって全員がレガトゥスの方を向く中、俺だけが第五副隊長の方を向くのは違和感が凄い。
俺はこの会議が続く最中は鑑定を使うことはできなかった。
会議が終わり解散となった。
レガトゥスが話し掛けて来て「これから頑張りたまえ」などの会話を少しする。
レガトゥスとの会話が終わった時には第五隊長と副隊長はこの場に居らず、結局鑑定で観ることはできなかった。
会議は昼前まで続き、ユウ達も兵舎へ戻ろうと王城を歩く。
「レオニャ」
王城を歩く最中、後ろから声を掛けられた。振り向くとそこには先程先に帰っていた第五兵隊の二人がいた。
一人は椅子に腰掛けていた女の子。歳はレオナと同じぐらいだろうが、小さい。身長は百五十センチメートルも無いんじゃないだろうか。可愛らしい印象の女の子だ。
もう一人は後ろに立っていた女の子。ずっと気になっていた鑑定することができなかった娘だ。この娘はレオナよりも歳上だろう、二十歳前後だと思う。すらっとした身躯で可愛いよりも綺麗や凛としていると表現した方がしっくりくる。
そしてなぜこの娘が気になったかというと、俺にはこの娘が日本人にしか見えないからだ。もし日本から来ていたら【鑑定】で観ることで種族のところに(異世界人)と書かれているはず。それを確認したいのだ。そしてもし異世界出身だったのなら、こっちの世界のこと等を色々と聞きたい。だから俺はこの娘に鑑定を━━
「レオニャ、しゅこしいーだろーか?」
「あぁ、構わない」
レオナと第五隊長の女の子が話し始め、そちらに意識が逸れてしまう。
「わぁちのたいの副たいちょーがレオニャのところのあたらちー副たいちょーにきょーみがありゅらちくて、しゅこしはなちがちたいんだ」
ん? なんだって?
「あ? ユウが気になるって? んぁ?」
「じぇじぇ!? いにゃ、しょんなんじゃなくて、ただはなちがちたいだけらちーんだけじょっ」
「第三に話があるならオレでも良いんじゃねぇのか? なぁ?」
「んにょんにょっ、にゃんかもちかちたりゃ、どーきょーかもちれないらちくてぇ、しょれではにゃちてみたいらちーんだ」
「そんな常套句で近づいて色目使おうってんじゃねぇだろーなぁ?」
「んにゃっ、ほんちょほんちょ、かくにんちたいだけらちーち」
レオナが第五隊長を詰めて第五隊長が慌てて否定しているのはわかるが、第五隊長が何を言っているのかさっぱりわからない。レオナは何故何を言っているのかわかるのだろう。
二人の会話を聞いていたら、気が付いたら副隊長の娘が真横に来ていた。
いつの間に。と、驚いていると彼女が口を開く。
「自分、日本人やろ?」
関西弁!? やはりこの娘は異世界人、おそらく俺と同じ日本人だ。俺からも彼女に問い掛ける。
「ああ、日本人だ。二日前にこの世界に来た。君は?」
「二日前!? ゼレスに来て三日目ってこと!? それやのに今はもう副隊長に!? かー、才能の塊やん自分。凄いことやでもっと胸はりーや。ん? ああ、ウチのことか? ウチは第五副隊長をやらせてもらってる如月いろはです、気軽にいろはって呼んでや。気付いてると思うけど、日本人やで。これからよろしゅう願います」
俺も改めて彼女に自己紹介する。名前に出身や年齢など今までのことを簡単に伝えて、この世界に来た経緯を伝えようとした時、いろはからストップが掛かる。
いろはが俺の側まで寄り、耳元で小声で話し掛けてくる。ふわっと香るシャボンの香りに、あまりそういった経験がないため落ち着かない。
「待ちぃ待ちぃ、あかんで公の場でそんなん言ったら。こっちの世界の住人は、別の世界があるなんて知らん。それに一度死んだことあるって言っても誰も信じてくれへんやろ、そんなこと。ただの法螺吹き野郎と思われたらマシな方で、異端呼ばわりされたら面倒なことなるで気ぃつけーや。何があったかはまた今度二人ん時に話そーや。ウチも久々の日本人と話せんねん、ゆっくり楽しもーや」
ニカッと笑い俺から離れるいろは。凛とした印象ではあったが、その笑顔に可愛いと思ってしまった。正直先の話も耳元で話されるくすぐったさで、あまり話が入ってこなかった。
「ほなそーゆーことやから、またご飯でも行こか」
唐突な食事への誘いに、何も考えず頷こうとし「おい!」とレオナが会話に割り込んできた。
「おいてめぇ、何人様の隊の副隊長に色目使ってんだゴラァ! そんなに第三が気になるならオレが直々に教えてやるよ、なぁ!」
凄い剣幕のレオナが俺といろはの間に入ってくる。慌てて第五隊長の少女もいろはの隣に立ち抗議する。
「んにゃんにゃっ! らから違うって言ってんらろ、レオニャッ、人のはにゃちを聞けっつぇ!」
何とかこの場を治めようとする第五隊長。だが、何と言ってるのか聞き取れない。丁度二人が並んでいるので、俺は二人に鑑定を使う。
[なまえ]ちるろっと・ななにあむ
[しゅぞく]ひと
[つよさ]まぁまぁつよい
[ぎふと]うんがいそうてん
[びこう]かつぜつがわるい
目線をずらしてもう一度鑑定を使う。
[なまえ]きさらぎいろは
[しゅぞく]ひと(いせかいじん)
[つよさ]つよい
[ぎふと]くりえいと
[びこう]ちきゅう、にほんしゅっしん
驚いた。第五隊長の強さがまぁまぁつよいで、いろはの強さがつよいとなっている。日本出身であるいろはが俺よりも強い。これでも日本で鍛えていたし、見た目も俺の方が筋肉質だ。そんな彼女の方が強いと出ている。やはりこの世界で鍛えた方が強くなれるということなのだろう。さっきもいつの間にか気付かぬ内にいろはは隣に立っていたし、この世界での鍛錬などの話を今度聞いてみるか。
そしてこの小さな女の子、第五隊長のチルロット・ナナニアムは俺と同じまぁまぁ強い。隊長だから驚きは少ないが、こんな小さな少女が俺と同じ強さか。もっと早く転生できていればと悔やまれる、そしたら俺ももっと強くなれていただろうから。
過ぎたことを考えても仕方がないので、俺は目の前の光景に目を向ける。
怒るレオナに治めようとする第五隊長、そして我関せずのいろは。何だろう、俺が治めないといけない気がしてきた。
俺はレオナの隣に立ち、第五隊長に話を振る。
「初めまして第五隊長、先の会議でも自己紹介させて頂きましたが改めて自己紹介させてもらいます」と俺は役職と名前を伝える。
それが助け舟だと第五隊長は直ぐに気付き、少女もこちらに自分のことを語る。
「ああ、これはごてーねいに。第五たいちょーのちうおっと・にゃにゃにゃーむだ。そこにいりゅレオニャのどーきでらいばうでもありゅ。さきの会議でごりりゃオヤジがおーこくさいきょーにゃどとほざいていたが、おーこくさいきょーはこのわぁち、ちうおっと・にゃにゃにゃーむだ。覚えておけ」
鑑定してわかったが、この少女は滑舌が悪いらしい。所々何を言っているのかわからない。これで会話が成立していたレオナはこれが聞き取れるらしい。凄いな。
互いの紹介も終わり、今回は解散となった。なのだがお互い各々の兵舎へ戻る為、王城の門を出るまではお互い向かう方向は一緒である。門を通るまでの間少し言葉を交わし、門を過ぎ互いの兵舎へと向かうまでの間、何故かレオナはいろはのことを睨め付けていた。
俺たちも兵舎を目指し、二人並んで歩く。帰りはレオナからの提案で「ユウは王都に来たばかりだろう? ならオレが案内してやる。……べ、別にてめぇのためじゃなく、副隊長として王都を知らないと困るだろうし、オレの相棒として……あ、相棒……」と途中からあまり聞き取れなかったが、王都を案内してくれるらしい。なので馬車には先に帰ってもらった。余談だが、それを聞いていた第五兵隊も「ならウチらも偶にはそーしよか」といろはの提案でそうなり、王城の門の外まで同行した訳だ。その時何故かレオナといろはが見つめ合っていた気がしたが気のせいだろう。
先ずはレオナはおすすめの飯処へ向かうことになった。そこは大衆食堂というより、静かにランチや軽食などが取れる店らしい。日本でいうところのカフェに近いのかもしれない。
店の前に到着する。看板には『サンシャイン』と書かれている。太陽の光を意味する英語だ。もしかして、地球出身の人が出している店かもしれない。
レオナに続き店の中にはいる。コーヒーの香り。良い香りだ、心落ち着く。中はL字のカウンターとテーブルが五つほどある小さめの落ち着いたカフェそのものだった。
テーブル席は一つ埋まっており、カウンター席には今は誰も座っていない。確かに落ち着いたいい雰囲気のお店だ。この雰囲気だけでまた来たいと思ってしまう。
レオナはそのまま空いているテーブル席の一つに腰掛けたので、俺はその正面に座る。座って直ぐ、女性の店員が水を出してくれる。
「この店は水がタダなんだぜ、珍しいだろ」
レオナはそう言うと水を一口飲む。俺も釣られて一口飲む、うん、冷たくて美味しい。
水が無料ということは、日本出身の人がこの店をやっているのだろうか。だが、今店にいる店員はさっき水を運んでくれた女性だけだ。彼女の容姿は日本などの東洋風ではなく、この王都でよく見る西洋風の容姿をしている。容姿だけでは判断できないな。聞いてみたい気持ちもあるが今はレオナもいる。今度一人で、いや、いろはでも誘ってみるか。
俺はメニューを手に取ろうとして、止まる。この世界のメニューはぱっと見でわからないものもある。ここは自分では頼まず、この店に詳しいレオナに任せる方が安心か。なので俺はレオナに頼む。
「レオナ、俺は初めてだから、常連であるレオナにメニューを選んで欲しいな。頼めるか?」
その言葉にレオナがぱぁっと笑顔になり「し、仕方ないやつだな、まぁ、ここはオレに任せておけ」と言い、店員を呼ぶ。
「オムライス二つ、あとカフェモカを二つ、以上だ」
「かしこまりました、少々お待ちください」
レオナがメニューを頼んでくれる。頼んでくれたメニューは日本では馴染みのあるメニューだ。やはりここは日本人の店か?
料理が届くのを待っていると、レオナがチラチラと俺を見ている。目と目が合うとビクッとし、その後ニカッと笑いまた目線が外れる。そしてまたチラチラと此方を見ている。どうしたのだろうか。
その疑問を聞こうとした時、店員に運ばれて料理とコーヒーが届く。
完全完璧なオムライスだ。しかも洒落たとろとろオムライスではなく、昔ながらの堅焼きの薄い卵で包み込んだオムライスだ。少し感動してしまった。ここまで完璧なオムライス、今の日本ではあまり見られない。最近は洒落たオムライスの方が流行っていたからな。もちろん俺は、昔ながらのオムライス派だ。
だが、先ずはこのコーヒー、カフェモカを頂こう。ズズッとカフェモカを一口飲み、目を見開く。甘い。それはカフェモカなのだから当たり前なのだが、その甘さに負けないようなコーヒーの香り。芳醇な香り高い、更に深い味わいのあるコーヒー、日本では中々飲めない代物だ。缶コーヒーやチェーン店も美味しいが、それとは比べ物にならない程香りが良い。
次にオムライス。スプーンを入れるとプツリと薄焼き卵が割れ中のオレンジのケチャップライスと一緒に掬い上げる。それを口に運び━━気が付いたら飲み込んでいた。咀嚼した記憶がない。いつ飲み込んだんだ。恐る恐るもう一口。今度は意識は飛ばなかったが、圧倒的旨さ。卵は割れにくいように堅焼きだが、歯切れは悪くない。噛んだ瞬間に噛み切れる。ケチャップライスはべちゃべちゃではなくパラパラしていて、混ざっている肉や野菜と上手く調和している。こんな美味いオムライスを食べることができて幸せだ。
三口、四口と夢中にスプーンを進めて、ふと気付く。レオナと昼食を共にしていたことを。
慌ててレオナを見ると、彼女は此方を見て微笑んでいた。何故かそれが恥ずかしく、誤魔化すようにオムライスを食べ進める。
俺とレオナが食事をしていると、先に席に着いていた二人組が食事を終え席を立つ。そして食事中の俺達に気が付き、声を掛けてくる。
「おぉ、これはこれは、ハナブサさんではありませんか。またお会いしましたね。これもキラキエル様の御導きでしょうか……。おっと、今日は是非ご紹介したい方がいるのですが、宜しいでしょうか?」
声を掛けて来たのは、一昨日モヒカン達に追われている時に世話になったキラキラ教の司教パムパウムだった。それともう一人、少女がパムパウムと共に居る。
俺が口を開く前に「おい、なんだてめぇらは?」とレオナがドスを効かした声で発言する。
「これは失礼致しました、私はキラキラ教の筆頭司教のパムパウム・ペッチュリンと申します。以後御見知りおきください、イーリン第三隊長様」
パムパウムはレオナに怯むことなく、丁寧な返しで対応する。
「そんな司教様がうちの副隊長に何の要なんだよ? あぁ?」
「いやはや、特別な要件は無いのじゃ第三隊長殿。ただ、教会で会った者と再会したのじゃ。声くらい掛けようて」
レオナの噛み付きに対応したのは、パムパウムと一緒にいた少女だ。
「あぁ? んだてめぇは?」
「妾はクロノワールじゃ、キラキラ教で巫女を務めておる。以後よろしゅうて」
クロノワールと名乗った少女は黒髪長髪で、白がメインのゴシックアンドロリータな服装をしている。……え、異世界の巫女ってゴスロリなの?
いきなりの強烈な出来事に思考を持っていかれ、ポカンとしている俺にクロノワールが声を掛けてくる。
「お主、確かハナブサ ユウと言ったかの。教会での出来事はパムパウム司教より聞いておるのじゃ。どうじゃ、キラキラ教の司教になるつもりはないかのぉ? 一度断られたらしいが、主ならキラキラ教をより良いものにできると、妾は確信しておるのじゃが」
そういえばそんな話をされたなと思っていると、またしても俺より先にレオナが噛み付く。
「てめぇ……ぶち転がされてぇのか、あ? うちの副隊長を引き抜きたぁ、……覚悟はできてんだろぉなぁ!」
レオナの体にバチバチと電気が纏う。やばい、キレかかっている。このまま放っておくと、本当に争いになりかねない。俺は二人の間に立ち、レオナを宥める。
「かっかっか、聞いてみたいだけじゃ。誰も無理に勧誘するつもりはない」
クロノワールはそう言うと踵を返し、店の扉に向かっていく。パムパウムもその後に続き、扉に向かう。
「それではの、またいずれ会おうぞハナブサ ユウ。しかしお主は、またキラキラ教の教会を訪れることになるじゃろうがの、かっかっか」
クロノワールはそう言い残し店から出ていく。パムパウムも此方にお辞儀をし、クロノワールの後を付いていく。
店から二人が居なくなり、俺とレオナ、あとは店員の三人だけになった。
「けっ、なんだアイツらは」
と苛立ちを隠せないレオナは「おいユウ、とっとと食って兵舎に帰るぞ」と言い、オムライスをガツガツと食べ進める。
そこで反論するとレオナに吠えられそうなので、俺もオムライスを急いで食べ進める。
昼食を取り終わり店から出た俺達は、その後何処にも寄ることなく、兵舎へと戻った。その帰路の途中、頬を少し紅くしたレオナから「おいユウ! てめぇは第三兵隊の副隊長として隊長のオレの右腕としてしっかり補佐して貰うからなぁ! いいな!」と何故か吠えられた。……何で吠えられたかわからないが、取り敢えず俺は第三兵隊に必要とされているようだ。それが何だか嬉しく、思わず笑みがこぼれてしまった。それを見たレオナからは、軽く叩かれてしまった。
転生して三日目だが、転生前の日本に居た時よりも、この世界、ゼレスでは自分にとって良い人生を送れる気がした。これからどんな事が起こるか楽しみだ、まぁ、魔王が倒されていたのだけは不満だがな!
スブリム王国王都にある教会。美しいステンドグラスのある礼拝堂、キラキラ教の誇る教会の礼拝堂に三人の人影がある。普段は誰かしら参拝者や信徒、教会関係者が居るのだが、今は彼女らしかいない。
「パムパウム筆頭司教よ、あの男は面白いのぉ、何としてでもキラキラ教に入教してもらわねばな」
「そうですなぁ、ハナブサさんはキラキエル様の神託を授かったお方。是非とも我々と共にキラキラ教を支えて頂きたいですね」
「…………」
「キラキエル様からもハナブサ ユウのことを気にかけろと神託を賜ったからの。かか、全てはキラキエル様の御心のままに、なのじゃ」




