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05話 英雄、ドラゴン討伐に行く2


 煙の隙間から覗く目と目が合った気がした。


 グガャアオオオオオオオオオオォォォ!


 耳をつんざくような爆音━━咆哮が響き渡る。


 あまりの音の大きさに、耳を抑えずにはいられなかった。


 咆哮はすぐに終わったが、唐突の音の衝撃に耳は未だにキィーンという爆音耳鳴りが鳴り続いている。


 咆哮の衝撃波かドラゴンの周囲は煙が散っており、討伐対象の外見を確認することができた。


 赤黒い鱗に鰐のような大きな口、角の生えた頭に長い首、腕単体はなく翼が腕の代わりにある。地球の西洋の物語に出てくるワイバーンのような見た目をしている。


 そのドラゴンが口を少し開ける。何かと思い見ていると、空気を吸っているようで……つッ━━マズいと感じ駆け出す。


 ただの直感だがドラゴンの行動に危機感を覚え、五メートル程離れたモヒカンの元へ向かい、ダイブし押し倒す。


 ドゴンッと音を立て、モヒカンのいた場所が爆ける。


 ただの直感だったが信じてよかった。ドラゴンは吸い込んだ空気を弾として吐き出したのだ。


「くっ、すまねぇ兄弟。助かった」


 モヒカンに手を差し出し、起こすと同時に急いで別の木に隠れる。


 ドラゴンは周囲の様子を伺いながら次の獲物を探している。


「兄弟っ、アイツはマズいぜー。俺達が束になっても勝てない存在だ」


 俺は木から覗き込みドラゴンに鑑定を発動する。


[なまえ]おでぃーる


[しゅぞく]どらごんあしゅ


[つよさ]つよい


[ぎふと]どらごんのしゅご(しょう)


[びこう]なわばりあらそいにまけた


 つよい、ということは俺よりも上位の存在だ。


 レオナと同じ強さ、今の俺では戦っても勝てない相手だ。


 そもそもこの鑑定の[つよさ]は、人間と他の種族で基準は一緒なのだろうか?


 仮に一緒なのだとしたら、この人数で囲めば勝てるのではないだろうか。


 いや、実際勝てなくてもいい。時間を稼いでレオナの到着を待てばいいんだ。


 俺は周辺の木に隠れてる大十分隊の隊員達に声を掛ける。


「俺達で時間稼ぎをするぞ! レオナ隊長が来るまで奴をこの場に留めるんだ! ドラゴンを囲んで的を絞らせないようにするんだ!」


 俺は木の陰から飛び出し、ドラゴンに向かって駆け出す。


 大十分隊の隊員達はギョッとした表情をしたものの、直ぐに決心したのか俺の後に続いて飛び出してくる。


 ドラゴンに近づくと尚のこと大きく、首を伸ばした高さは家一軒分ぐらいあるだろうか。


 近づく俺達に気付いたのか、ドラゴンはまた咆哮する。


 今回はドラゴンの動きを見ていたので、咆哮に怯むことなく進み続ける。ドラゴンに攻撃が届く距離まで詰めることができた。


 ドラゴンはここまで近づかれるとは思っていなかったのか、反撃はなかった。


 俺は【器用貧乏】を頼りブロードソードを振るう。右足に狙いを定めて斬りつける。


 切られた箇所の鱗に傷が付き、鱗の下に隠れる肉の部分が少し露わになる。


 斬りつけられたドラゴンが焦ったのが何となくわかった。足を上げてこちらを踏み付けようとするが、それよりも早く離脱し回避する。


 そして少し距離を取り、ブロードソードを構え直す。


 それを見ていた副隊長のオメガ・ネストが他の小隊員に向けて指示を出す。


「我々も続くぞ! 第一小隊に接敵を知らせよ! 発煙筒で場所を誘導せよ、色は赤だ! 互いにフォローし合い、各個撃破されないように注意せよ!」


 小隊の他の隊員のギフトなのか、火の玉や水の刃などがドラゴンに向かって飛んでいく。


 それはドラゴンに着弾するも、ドラゴンの鱗は突破できず傷も付いていない。


 だが他からも攻撃されたと、ドラゴンの注意が俺から外れて他に向かう。


 その隙に俺は周りに指示を出すオメガのことを鑑定する。


[なまえ]おめが・ねすと


[しゅぞく]ひと


[つよさ]まぁまぁつよい


[ぎふと]しこうかそく


[びこう]ひごろからぶかのあとしまつにおわれている


 まぁまぁつよい、俺と同じ強さだ。


 しこうかそく、そのまま思考の加速だろうか。


 確かに、指示を出す立場の者には有能なスキルなのだろう。


 その【思考加速】のギフトを持つ副隊長の指示は的確で、こちらに大きな被害は出ていない。まぁ、こちらの攻撃も通ってはいないのだが。


 俺は【器用貧乏】を用い、隙を見つけては近づき小さい傷を付ける。そしてこっちに注意が向けられると、すぐに退きドラゴンの攻撃を避ける。


 そんな小さなヒットアンドウェイで攻防を続けていると、ドラゴンもある事に気付いてしまったのだろう。


 自分を傷を付けることができる存在と、集団に指示を出し率いている者の存在を。


 俺はその事に気付かずにヒットアンドウェイ戦法を続けていると、ドラゴンは俺を狙ってきた。


 一度攻撃を避けても、連続で攻撃してくる。


 俺は左右や前後と動き回り、ドラゴンからの攻撃を必死に避ける。避ける。避ける。


 一撃必殺の攻撃なのだ、一度でも当たる訳にはいかない。


 必死に避けていたから気付かなかった。


 ドラゴンは、攻撃を避けた俺をもう用無しと言わんが如く素通りし、俺の後ろに居たオメガを狙った。


 オメガは咄嗟に反応するが間に合わず、ドラゴンが振るった翼に払い飛ばされてしまう。


 ドラゴンの攻撃を受けたオメガは吹き飛ばされ、そのまま木に激突する。


 微かに動いてはいるが起き上がることはできずにいる。


 死んではいないが戦闘はもう無理だろう。


 オメガの近くにいた隊員達にオメガを安全な場所に運ぶように指示を出す。この場に居ると、また狙われるかもしれないからだ。


 指示を出していたオメガがいなくなった。第二小隊の隊員は不安からか、ざわめき始める。


 このままでは部隊が崩壊する。


 俺は咄嗟にギフト【器用貧乏】を頼りに指揮を執る。


「落ち着くんだ! まだ俺達は死んだ訳じゃない! それにあと少しでレオナ隊長も救援に駆け付けてくれる! もう少しだ、もう少しだけ耐えるんだ!」


 俺は大十分隊が中心に攻撃を仕掛け、他の第二小隊の隊員達に周りからサポートをするように指示を出す。


 俺も攻撃に加わり、ドラゴンに傷を付けていく。


 先程までよりがむしゃらに動き回り、傷を量産していく。


 俺にドラゴンからの攻撃が来なかったからか、それとも焦りからか、気付けばドラゴンの真正面に来ていた。


 上を見上げればドラゴンは大きな口を開き、俺を喰い殺さんと頭がこっちに向かってきていた。


 そこでドラゴンは敢えて攻撃を受け、俺の隙を窺っていたのだと気付いた。


 俺は咄嗟に行動できず、ただこのまま喰われるのだと思った。


 避けられない。避けたいけど体が動かない。


 目の前にドラゴンの頭が迫る。


 死を感じた時、刹那━━目の前で赤い滴が飛ぶ。


 ドラゴンは喚きながら左目から血を流し、迫らせていた頭を引っ込めていく。


「ユウ、待たせたな! よく堪えた、オレが来たからにはもう大丈夫だ! さぁ、トカゲ狩りといこうじゃねーか!」


 待ち焦がれたレオナが居た。


 レオナがドラゴンの左目を切り裂き、俺を助けてくれたようだ。


 レオナは怯んでいるドラゴンに追撃を仕掛ける。


 体や剣に電気を纏わせ、凄まじいスピードでドラゴンを斬りまくる。


 レオナは剣先が膨らんだ双刀を扱っている。


 その双刀を振り回し、時には回転しながらドラゴンを斬りつける。


 レオナは駆け付けてくれたが、第一小隊の隊員達はまだ到着していなかった。


 レオナは先行して駆け付けてくれたらしい、そのお陰で俺は助かることができた。


 ドラゴンはレオナを脅威と感じたのだろう、もうレオナのことしか眼中にない。ドラゴンもレオナに対し攻撃を仕掛ける。


 ドラゴンの攻撃は一撃必殺。ブレスにしろ翼、尻尾の薙払いにしろ人間が受けると一溜まりもない。それはレオナであっても同じだろう。


 対するレオナの攻撃は、傷が付き血は流れても深い一撃には至っていない。


 戦闘が苛烈になったため、ユウ達は戦闘に入れなくなっていた。


 ドラゴンの攻撃は当たってはいないが、レオナが押され始めている。


 俺は、何かないかと考えを巡らせる。


 ドラゴンを観察し、隙がないかを観察する。


 するとドラゴンには少なからず傷があるのがわかった。今できたばかりの傷ではなく、時間が経った、昔付いたと思える傷が。


 そういえばドラゴンを鑑定した時、縄張り争いで負けたとあった。


 ということは、古い傷は他のドラゴンが付けた傷ということになる。


 確証はないがこの局面を打開するのに、他の方法がないのも事実。


 俺はその事を伝える。


「レオナ! ドラゴンの体にある古い傷を狙え! そこならもっと深くまで届くはずだ!」


 更に周りにも、


「お前ら! レオナの援護だ、隊長が気持ちよく攻撃できるようにサポートするぞ!」


 周りの隊員から、ギフトの能力による火球や水刃、その他の能力で攻撃がされる。


 俺も隙を突いては斬りつけにいく。


 するとドラゴンが俺を噛み殺そうと口を開けて襲ってきた。


 ドラゴンの注意が俺に向いている。


 レオナはその一瞬の隙を見逃さなかった。


 レオナが飛び跳ねる。


 宙に浮くレオナは、空中で体を捻り双刀を構えながら落ちてくる。


 ドラゴンの鋭牙が俺に届く前に、レオナがドラゴンの天柱を切り裂いた。その速さは稲妻が如く【疾風迅雷】の名の通り、バチバチと雷を走らせながら過ぎ行く。


 今までで一番の出血。動脈を切り裂いたのか溢れ出る鮮血に、深くまでその刃が届いたことがわかる。


 切り裂かれ血を流し続けるドラゴンは動きを止め、佇みこちらを見ている。


 俺とレオナ、そして第三兵隊の隊員達も攻撃を止める。


 ドラゴンと目と目が合う。何を考えているかはわからないが、その眼からは殺意みたいなものは感じ取れない。


 しばらく見つめ合った後、ドラゴンは首を上へと伸ばし咆哮する。


 咆哮が止むとドラゴンはそのまま後ろへと倒れていく。


 倒れたドラゴンは動かない。


 倒した、ドラゴンを。


 その事実からか、安心したからか膝から崩れる。


 持っていたブロードソードも落としてしまう。剣を持っていた手も震えている。


 そんな自分に苦笑してしまう。異世界に憧れていたのに、そのためにトレーニングなどを続けていたのにこの様とは。


 まだまだ強くならないと。俺は俺の目指すべき姿、やはり異世界に来たんだ。この世界で最強と呼ばれる存在になるために、強くなろう。


 自分の弱さに一人反省会をしていると、レオナがこっちにやってくる。


 レオナは俺に手を差し伸べて聞いてくる。


「ユウ、立てるか?」


 その問いに、俺は苦笑いをしながら首をふる。


 するとレオナがどかっと俺の横に座り、肩を組んでくる。


「今回のドラゴン討伐、勝てたのはユウのお陰だ。よくやった。ユウは自分の不甲斐なさを嘆いているかもしれないが、初めは誰でも弱いものだ。初の任務がドラゴン討伐で、そして討伐の貢献までしたんだ。そんなことできる奴、然う然う居やしない。胸を張れ、ユウ」


 レオナの言う通り、初めての任務、異世界で初めての戦いだったんだ。何でもかんでも初めから上手くいく人生なんて、面白くないしな。これから強くなればいいだけだ。


 俺は再度、強くなる事を決意する。


 倒したドラゴンを眺めつつ、隣に並び座るレオナと、そして周りにいる第三兵隊の皆んなと笑い合う。


 こうして、俺の異世界での初めての活動、ドラゴン討伐が幕を下ろした。




 ドラゴン討伐を終え、王都に帰ってきた。


 任務達成の打ち上げとして、第三兵隊の食堂にて飲み会が開かれた。そこで出た料理や酒は経費で落としてくれるらしい。


 なので俺も、お言葉に甘えて食べて飲んだ。気付けば俺も、そして周りの奴も食堂で転げ寝落ちしていた。


 朝はレオナに起こされて、付いて来いと言われレオナの後をぼけーっとしながら着いて行く。


 そして意識がハッキリした今、副隊長のオメガ・ネストが横になっているベッドの前にいた。


 どうやらオメガのお見合いに病室まで来たらしい。


 オメガ曰く、傷はそこまで酷くはないが、これまでの働きの疲れがあり、少しの間休むことにするらしい。


 そしてそのオメガが、寝ていた体勢から体を起こし、俺にお願いがあると言った。


「唐突ですまない、ハナブサ。私の代わりに第三兵隊の副隊長に就いてくれないか? ドラゴン討伐の際に私のやられた時、私の代わりに指揮を執ってくれたらしいな。今の第三兵隊は戦闘面は良いが、どいつもこいつも脳筋の者しかいない。そんな奴らには、副隊長の席を渡せないのだよ。それに第三兵隊の者からのお前の指揮の評判は中々悪くない。済まないが、頼まれてくれ」


「済まないが、ユウ。オレからも頼む。お前の指揮は的確だったし、オレに指示を出せる人間、第三兵隊にはお前以外に居ない。入隊して直ぐで負担を掛けると思うが、宜しく頼む」


 二人から頭を下げられる。


 そんな二人に頭を下げられて、ノーと言えるほど俺は肝が据わっていない。


 こうして俺は異世界にきて、そして第三兵隊に入隊して三日目にして、副隊長になってしまった。


 なぜ? どうしてこうなった???

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