04話 英雄、ドラゴン討伐に行く1
ドラゴン討伐に行くことになった。
朝から招集があり、第三兵隊の隊長レオナ・イーリンからドラゴン討伐の命令が下った。
場所は王都近郊の森。王都の近郊にある森はその一箇所しかないため、特別名前はついていないらしい。
そして俺は今、その森の前にいる。
流石に早くないか?
いや、ドラゴン討伐なんて異世界に来たらやりたいことランキング上位確実なイベントだけどさ、流石に早くない?
普通さ、修行とか冒険とか自身のレベルを上げてから発生するイベントだよね。
転生二日目に発生していいイベントじゃないって。
しかも命令を聞いてからそのまま準備をして出発。武器や防具も渡された物を装備し、説明も訓練も無し。
ブリーフィングはあるにはあったが名ばかりで、副隊長オメガ・ネストから今回の討伐に参加するメンバーの選抜が大半を占めていた。俺も何故か選ばれた。いや、まぁ行かないよりかは行く方がいいのだけども。
討伐隊のメンバーは俺の他に隊長のレオナや副隊長のオメガは勿論、スキンヘッドにモヒカン、食堂や兵舎で会話した奴らもちらほら見受けられた。
参加人数は隊長副隊長合わせて百二人で第三兵隊の総数の約六分の一の数が参加しているらしい。全体の六分の一と聞くと多く感じるが、実際には百人しかいない。ドラゴンと一戦交えるにしては少ない気がする。
いや、日本のラノベ感覚では少ないだけで、実際の異世界ではこれが普通なのか?
一人他愛のないことを考えていると、レオナからの集合がかかる。
「森に入る前にもう一度ブリーフィングを行う。今回の目標はドラゴンの討伐だ。王都近郊でドラゴンが現れたことは今までにない、恐らくははぐれ個体だろう。だが、はぐれであってもドラゴンだということには変わりない。討ち損なった場合、王都や他の街や村が被害に遭う可能性があるわけだ。いいかてめぇら! 死んでもドラゴンを討伐する! はぐれの余所者にこの森に来たことを後悔させてやれぇえ!」
初めはドラゴンのいる森の前だからか声は抑え目で話していたレオナだったが、最後の方は少し熱が入ったのか、少し声を張っていた。
そしてレオナが発言を止めたところで、オメガが代わりに話し始める。
「先のブリーフィングで伝えた通り第一から第五分隊はレオナ隊長が、第六から第十分隊は私が指揮を取る。それでは各自、割り振られた分隊に分かれ軍事行動を開始せよ。以上」
ブリーフィングが終わり、各々割り振られた隊へと別れていく。俺が割り振られた隊は第十分隊。
その第十分隊の所へ行くと、知っている顔があった。
「よぉ兄弟、今回のトカゲ退治楽しもうじゃねぇか。今回の討伐任務ではこの俺ゴリ・ランバーが第十分隊の分隊長を任せられた。大船に乗ったつもりでいたらいいさ、ガハハハ」
スキンヘッドがこの隊の指揮官か、知っている奴だったからマシだと思うべきなのだろうが、こいつは指揮出来るほどの能があるのだろうかと不安になる。
「よー兄弟、俺たちが一緒なんだ。何も不安がることはないぜー。この第十分隊は姐さんがおめーさんのために編成してくれた隊だからよー。おんぶに抱っこ状態ってわけよー、ま、気楽に行こーぜ」
スキンヘッドの他にもモヒカンや兵舎で話した奴ばかりが集まっていた。レオナが配慮したというのは本当なのだろう。
俺の到着で第十分隊は揃ったらしく、他の分隊同様、副隊長の前に整列をした。
「第六から第十分隊まで揃ったようだな。我々は第二小隊として、レオナ隊長の率いる第一小隊と並行して森を進んで行く。どちらかがドラゴンと遭遇すれば、もう片方の隊が直ぐに駆けつける流れになる。なお、森には魔物や獣も生息している。今回、ドラゴンがこの森に飛来した影響が少なからずあるかもしれない。いつも以上に気を引き締めて行動するように。まぁそんな間抜けはいないと思いたいがな」
遂に森に入る時がきた。
この世界に来て初めての戦闘になる。いや、日本にいた時も戦闘なんてしたことはないし、殴り合いの喧嘩すらないけど。
地球では扱えなかった武器も持っている。武器はブロードソード。地球では物語でよく出てくる広く知れ渡っている剣だ。それが今、鞘に収まった状態で腰に下げてある。重さは二キロぐらいか。やはり筋トレはやっておいて良かった。
森の中は歩き難いが転生前のトレーニングで山や森を駆けていたことがあり、その経験が役に立っている。他の隊員と遜色ない程度には森を歩けている。
二、三十分程歩いただろうか、前方が騒がしくなる。
カサカサと草木が擦れる音と動物の鳴き声のような音が聞こえる。
すると他の分隊の隊員から「オークだ!」と周りに知らせるように声を張った。
草木を掻き分けながら二足歩行の大柄の人、いや、顔が豚の魔物、オークがこちらに向かって来ている。
オークは想像通りの姿で、体長は二メートル程だろうか。よくアニメやゲームなどの物語に出てくる、日本人ならその名を聞いて頭に思い浮かべたスタンダードな姿をしている。
そのオークが一頭、真っ直ぐにこちらに向かって突進してきてい━━たのだが、第十分隊の先頭にいたスキンヘッドが自慢の筋肉を隆起させ、オークの顔面に己の拳を打ち付けた。
顔面に重い一撃を受けたオークは、ピクピクと痙攣をしているものの起き上がる気配はない。相当な衝撃だったのだろう、顔面は中央部が凹み鼻や口からは血が出ている。
確かスキンヘッドの鑑定での[つよさ]はふつーだったはず。この世界の普通とは、素手で魔物を殴り殺せることを言うのだろうか。やはり地球とは何もかもが違うのだなと、倒されたオークを見ながら胸が熱くなるのを感じた。本当に異世界に来ることができたと、日本での生活を思い返すと感慨深い。
などと考えていると、また草木が擦れ合う音が聞こえる。
周囲の者達も気付いており、先程と同じ方向を見て警戒している。
すると今度は二体のオークが勢いよくこちらに向かって来ている。
俺は鑑定を発動したと同時に前に出る。
[なまえ]ぴ
[しゅぞく]おーく
[つよさ]そこそこ
[ぎふと]しりょくきょうか
[びこう]おーくぞくのなかではしりょくがいい
目線を変えて再度発動━━
[なまえ]ぽつ
[しゅぞく]おーく
[つよさ]びみょー
[ぎふと]けんこう
[びこう]いままでかぜをひいたことがない
━━そのまま近い方のオークに視線を戻しブロードソードで居合、逆袈裟斬りでオークの腹から肩口に一閃を入れる。
いける。戦えている。女神から貰ったギフト【器用貧乏】も上手く発動してくれたようだ。初めて使うブロードソードの扱い方も頭で考えなくても何となくわかり、思った通りに動けばちゃんと振るえていた。
腹から肩口まで斬られたオークは、猩々緋色の噴水を作りながら倒れていく。断末魔の声を出すこともなく、糸の切れた操り人形のように動かなくなる。
初めての戦闘。初めての命の遣り取り。虫などとは違う、生き物の命を奪う感覚がまだ手に残っている。だが不思議と落ち着いている。人ではないとわかっているからなのか、それとも異世界と割り切れているのか。
今は深く考えないようにしよう。そう、やらないと殺やられるのはこっちなのだから。
俺はふっと短く息を吐き、もう一頭いたオークの方に視線を向ける。
もう一頭のオークはモヒカンと対峙しており、オークは幾つもの傷をつくり血を流している。一方のモヒカンは両手に刃渡り三十センチメートル程のナイフ、ボウイナイフのようなナイフを両手に構えている。
オークが攻撃しようと動こうとするタイミングでモヒカンが一瞬にして距離を詰め、新しい傷をつくっていく。深追いはせずに、ジリジリと着実にオークを弱らせていく。
そして焦ったオークが手に持っていた木製の棒を振り上げて、モヒカンに近づく。
動きが単調に大振りになった隙を突き、モヒカンはオークの首に両手に持つナイフで二本の線を刻む。
首を斬られたオークは持っていた棒を落とし、苦しみ踠き首を抑えながら倒れていった。
オークは見た目こそ巨大で強そうに見えるが、この世界ではおそらく下位の存在なのだろう。
鑑定でも[つよさ]がびみょーだったし、チンピラ然としたモヒカンでも余裕綽々で勝てる存在なのだ。
この世界に来て間もないからか、日本で得た知識との乖離に戸惑いながらも森を進んでいく。
少し歩いたところで、他の分隊員の誰かが声を発した。
「いつもの森と違う、静かだ。鳥や虫の声も聞こえない。ドラゴンの影響か?」
確かに静かだが、初めてこの森に入るから何が違和感なのかはわからない。
森に入って四、五十分ぐらいだろうか、森の奥が騒がしくなる。
狼型の獣が数頭、こちらに向かって走ってくる。俺はブロードソードを按ずる。他の隊員達も各々の武器に手をかけている。第三兵隊の隊員達は自分たちを武闘派と言うだけはあり、戦い慣れているのだろう。
狼型の獣が目と鼻の先まで近付く。
居合━━をする直前に獣達は第二小隊の隊員達の隙間を縫って、素通りしていく。
その勢いは止めることはできず、というよりはなから俺達のことは眼中にないようだった。
その姿は何かから逃げているような、強大な存在を恐れている雰囲気だった。
その後すぐに、第二陣の魔物や獣達が猪突猛進が如く勢いで走ってくる。
これも素通りすると思いながらも、ブロードソードには手をかけておく。
魔物達までの距離が十メートルは切った━━その瞬間だった。
目の前で魔物達が猛炎に包まれる。
眼前の景色が緋色に染まる。唐紅に猛る葉は紅葉のように鮮やかに染まり、紅葉狩りに耽る魔物達は灼熱の舞台で激しく踊る。
木々が、魔物や獣達が燃え盛る。湯水の如く湧き出る煙は辺りを鈍色に染め上げる。
そんな最中、もくもくと上がる煙の中に、巨影が映る。
周囲の木々よりも巨大な影が、動いている。
それはきっと俺達が探していた対象で、討伐しなければならない対象だ。
辺りを、魔物達を一瞬で火の海に沈めることができる圧倒的な存在。
これが……ドラゴン。
俺は木の影に隠れながらその影を見ていた。
煙の隙間からこちらを覗く目と、目が合った気がした。




