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第59話:おっさんも偶には役に立ちますね

 保護した女性達の浴場内の案内を終えたアリアは、気を使い、磨り減った神経を癒すために、湯船へと浸かった。何もかもを今一時だけは忘れ、身体の思うままに湯船へと癒しを求めて放り出していくのであった。






 (ああ~、生き返る~)


 湯船の縁に腕を広げ、身体を投げ出し、だらしなく大の字で目を閉じた。

 男のいつも通りの温泉での寛ぎスタイルであった。

 そして、ゆったりと寛ぐために、自身の直前の行為を振り返った。


 (さっき、水で身体を流したから、マナー違反ではないよな)


 そう確認できた男は、ふぅ~と長く息を吐き、更なる癒しに身を浸していった。

 しばらく、目を閉じ至高のひと時に身を浸していると、唐突に肩を叩かれた。


 (うん?誰だ?折角の俺の至福のひと時に水を差すのは?)


 そう心中で不満を垂れると、片目だけ薄っすらと開けて、ぼんやりと前を見た。

 すると、正面に2人組の人影が見えた。


 (いつもの定位置だから、どけって事か?はぁ~、仕方ない。横にずれるか)


 穏やかな雰囲気を剣呑なものに変えたくない男は、不満を飲み込み、横にずれた。

 そして、再び目を閉じて、ゆったりとした癒しに身を浸した。だが、すぐにその癒しが無粋な肩叩きでまたも邪魔をされた。


 (おいおい勘弁してくれよ~。絡みか~。他人のひと時を邪魔して何が楽しいんだよ~)


 泣き言が内心で零れ、男は仕方なく、目の前にいるであろう2人組に対峙した。


 「あの~すみません。そういうことは、他の方々の気分を害しますので、止めて頂けませんか」


 そう言った後に、男は目を開けて正面を見た。

 そこには無粋にも男の至福のひと時を邪魔する2人組がいた。とはならず、仁王立ちとは、こうであると体現する仁王像の如き厳めしい佇まいでシオンとローズが聳え立っていた。

 にっこりと素晴らしく美しい表情のシオンを見た瞬間、ぼんやりとしていた男、もといアリアの意識が急速に覚醒した。

 ギョッと目を見開いたアリアが震える口で言葉を発した。


 「シ、シシ、シオン!?」


 「はい、お嬢様」


 ニッコリ笑顔でシオンが答えてくれた。


 「お嬢様、シオンがしばらく見ない間に随分と、お行儀が悪くなっていますね」


 「い、いやいや、ちっちち、違いますよ」


 そう答えてすぐに、だらしなくしていた足を閉じて、素早く正座に移行していった。

 湯船の中で正座をするアリアに、シオンの隣で見ていたローズがこれまた素晴らしい笑顔で声を掛けた。


 「お嬢、身内以外のいる場で髪を湯に浸けるのはマナー違反だろ。そういうちょっとしたことにも敏感に反応する人もいるんだ。気遣いを覚えていこうな、お嬢」


 先程見えた仁王像の如き厳めしさが消えた優しげな表情でローズが柔らかく窘めた。

 それにアリアの気持ちが緩まった。

 シオンとは違いローズは怒っていないと安心しきったアリアが謝罪を込めた返事を返そうとしたその瞬間、ローズの表情から優しさがすっと引いた。


 「けどな、マナー云々も大事だが、それと同じぐらい大事なことがあるんだ、お嬢」


 「な、何ですか?」


 細められた双眸から覗く鋭い視線を受けたアリアは、微かに身体を震わせて訊ねた。


 「髪が泣くようなマネはしないようにな、お嬢」


 凄味のある視線がアリアの身体に向けられた。

 自分の身体を見下ろすと、自分と仲良く髪が湯船に浸かっていることに初めて気づいた。

 先程の注意を半ば受け流していたアリアは、やっと2つのローズの言葉に理解が及んだ。

 あははっと、誤魔化す様に笑いを零すことしか出来なかった。

 そして、アリアはこの後の展開をほぼ完璧に予期し、その運命を受け入れた。

 その予想通りに、しばらく衆人環視の下、シオンとローズに有難いお言葉をたっぷりと頂戴することになった。






 お説教も済み、再び湯船も堪能し終えた後、軽く身体を流して脱衣所に上がった。

 シオンに従い着替えの置いてある棚にまで着いたアリアは、先程の入浴の時には感じられなかった充足感を今、確かに感じていた。

 見上げる隣には、見慣れるようになった深緑の髪のタオル姿。

 普段と違い髪を降ろした姿だが、隣にいてくれるだけで今までぽっかり空いていた心の隙間に安心としてハマってくれる。

 あの悪夢のせいもあるのか、より一層強く感じられた。

 満ち足りた気持ちから一つ息を吐くと、面と向かって伝えるには恥ずかしいので、心の中で呟いた。


 (お帰り、シオン)


 顔を嬉しさで綻ばせて、見上げた。

 シオンがその視線に気付き、小首を傾げた。

 アリアはシオンのその仕草にも愛おしさを感じられ、もう失わないようにと、笑みを返した。

 そしてその後、夕方の時とは違い、シオンに髪を拭いてもらった。

 安心感に包まれると、ひとりでに笑みが浮かぶことを、アリアはこの時に知った。

 幸せな気持ちに包まれるアリアは、髪も身体も拭き終わりショーツとキャミソールの肌着を身に着けた後、最後に髪を乾かして貰いながら、脱衣所内を見渡した。

 シオンの乾かし方が何処か気になるのか、真剣な表情で細々と注意を繰り返すローズと、それに鬱陶しさを覚え顔を顰めているシオンが鏡に映っていた。

 アリアはその2人を無視し、他に視線を向けた。

 すると、アリア達が入浴後しばらく経った頃に合流した女性使用人3人と妙にすっきりとした表情のスイが映った。その、気になったスイに注目すると、一仕事終えた後の爽快感がありありと浮かんでいるようであった。


 (やっぱり突然入った仕事はきついからな。お疲れ様、スイ)


 自身の経験からそう答えを出して心の中で労いの言葉を贈ると、アリアは一番最後にしていた保護した女性達、その6人に視線を向けた。

 初めて彼女達を見た時に浮かんでいた恐怖はすでにそこにはなく、柔らかな微笑みが彼女達の表情に浮かんでいた。

 彼女達はアリアの視線に気付くと、その微笑みのまま会釈を返してくれた。

 アリアもそれに微笑みを返した。


 (よかった。少しでも気持ちが明るくなってくれて)


 心中で呟いた後、大浴場での事を思い出した。

 最初はずっと硬かった表情がある時を境に和らいだ事をアリアは思い出し苦笑を浮かべた。


 (おっさんも捨てたもんじゃないな)


 そう内心で呟き、大胆な入浴スタイルをシオンとローズにガチで怒られた時、薄っすら涙目で見えた彼女達の緊張から解放された仄かな笑みがそのようにアリアに思わせた。


 (最適解を見出したあの時の俺に、敬意を表しなければな)


 調子よくあの失敗を良い方向に解釈した。

 そして、アリアは彼女達に笑みが戻った後の事も思い出していった。






 怒られて反省していたアリアの横で、身体を清らかに濯ぎ終えた彼女達が硬く握りしめていたタオルを離し、自らの姿を晒して湯船に浸かった。

 そして、しばらく浸かっていると、その内の1人が突然顔を両手で覆い、身体を震わせた。

 それは次々と固まって湯に浸かっていた彼女達全員に伝播していった。

 この時にやっと張り詰めていたモノが緩み、本当に助かったのだと実感できたのだろう、その事実をこの光景が如実に表していた。

 それを見たアリアは唯どうすればいいか分からず、おろおろとするばかりだった。

 そんなアリアに後ろからシオンの声が掛かった。


 「大丈夫ですよ」


 その言葉と共に、そっと優しくアリアの身体が後ろから包み込まれた。


 「お嬢様はここまで頑張ってくださいました。後は私達の出番です」


 そう言葉を掛けてアリアを両手で包み込んだまま、ローズに目配せした。

 すっと立ち上がったローズがアリアの肩を優しく叩いた。


 「ありがとな、お嬢」


 アリアの頭をぐしぐしと撫でた後、女性達の下に向かい、傍に座ると彼女達に語り掛けていった。

 そうして、彼女達の傍に向かったのは、ローズだけではなく、見習いメイドの3人とスイもであった。

 ローズ達5人は、彼女達一人一人に丁寧に声を掛け、抱き締めて背中を撫でたりして、宥めていった。

 アリアはそれをシオンの腕の中で眺めていた。

 最後の最後に彼女達の悲しみに何も出来なかったことを内心で口惜しく思い、歯噛みした。

 シオンはそんなアリアをより優しく自身に引き寄せ抱き締めた。

 “お嬢様は十分に彼女達を救いました、そのようにご自身を責めないで下さい”と思いを込めて抱き締め、顔を寄せた。

 アリアはただシオンの温かな胸に身体を預け、うんとだけ首を軽く振り、彼女達を見つめていった。






 そうして大浴場での一コマを思い起こしている内に、着替えをすべて終えていたアリアは、皆の着替えが終わるのを待って、脱衣所から廊下へと出て行った。

 そして、一旦狭い女湯の前の廊下から広い男女の湯へ分かれる前の廊下に出てきた所で、アリアはスイ達に振り返った。


 「スイ、彼女達をよろしくお願いしますね」


 「はい、お嬢様。お任せくださいませ」


 スイが、アリアの頼みに恭しく頭を下げた。

 それから、スイに続いてナル、メル、グリムに顔を向けた。

 そして、スイと同じように頼もうとした時、その使用人3人の名前が分からず、首を傾げてしまった。


 「えっと、・・・」


 中途半端な言葉が漏れるだけで、彼女達を見据えることしか出来なかった。

 アリアのその姿からすぐに事情を察知した彼女達は、深々と頭を下げて口を開いた。


 「ナルです」

 「メルです」

 「グリムです」


 そう名前を述べた後、続けて昨日の非礼をまたも今度は先程よりも深く頭を下げながら、詫びていった。


 『昨日は申し訳ございませんでした。お嬢様を深く傷つけてしまいましたことをこうしてお詫びさせてください!』


 言い終わると、一度顔を上げアリアに向けた後、再び頭を下げた。

 突然自己紹介の後に、謝罪されたアリアは一瞬だけ目を見開き驚いたが、すぐに微笑みに変えて彼女達に気持ちを込めて語り掛けた。


 「分かりました。ナル、メル、グリム、貴女達の謝意の気持ちは確かにわたくしに届きました。顔を上げてくれませんか」


 『はい、お嬢様』


 返事と共に顔を上げた彼女達に、アリアは微笑みを崩さずに声を掛けた。


 「ナル、メル、グリム、わたくしからも1つ、貴女達に送らなければならない言葉があります。聞いてくださいますか?」


 『はい』


 ナルとメルとグリムが自分の顔にしっかりと視線を向けてくれたことを確認すると、今まで浮かべていた微笑みを消して、一転真剣な表情に変えて、彼女達に劣らぬほど頭を深く下げて謝罪を口にした。


 「今までわたくしが行って来た非礼を、お許しくださいませんか」


 アリアの挙動にその場にいた一同の時が止まった。

 一同が呆然と見つめる中、アリアは唯頭を下げたまま、彼女達からの言葉を待った。

 最初に硬直が解けたシオンが慌ててアリアに声を掛けた。


 「お嬢様!!」


 しかし、その声に微塵も動じず、ひたすらに彼女達の言葉をアリアは、床を見つめながら待った。

 シオン、スイ、ローズがアリアに止めるように懇願するが、それでもなお頭を下げたまま彼女達の言葉を待った。

 シオンの涙の滲んだ声がナルとメルとグリムに掛かった。


 「ナル、メル、グリム、早くお嬢様にお返事を返しなさい!!」


 必死の叫び声に、未だ呆然としていたナルとメルとグリムの意識が引き戻された。

 慌てて自分達の言葉を頭を下げて待つアリアに返した。


 「お嬢様!お嬢様のその御気持ちは私達の心にしっかりと届きました。ですから、お顔を御上げください!!お願い致します、お嬢様!!」


 「お嬢様、お顔を御上げください!お嬢様のお気持ちはしっかりと届きました!私達はもうお嬢様に対して、嫌な気持ちは持っていませんし、心からお慕いしたいと思っています!どうか、お顔を御上げください!」


 「あのお嬢様。私達は昨夜の、お慈悲を頂いたあの時から、一切嫌悪も恐怖も抱いておりません。私達にあるのは、純粋に感謝と敬服のみです!お願いですから、そのお顔を御上げください!」


 涙目になりながら必死に訴えるナルとメルとグリムの声がアリアに聞こえた。

 アリアは今まで頑なに下げていた顔をゆっくりと上げていった。

 背の低いアリアから見上げる位置にある彼女達の顔には、自分を嫌悪し恨む色は見当たらなかった。唯、感謝と敬い慕う従者としての顔があった。

 アリアは歴然とした距離が彼女達との間にある事に、物哀しさを覚えた。


 (本物じゃない俺に主従関係なんて要らないんだよ)


 アリアは、ゆっくりと彼女達の顔を順に見て、静かに声を掛けた。


 「わたくしをお許し下さりありがとうございます」


 一先ずの感謝と一礼を彼女達に贈ると、再び彼女達の顔を見据え、真剣な顔付きで言葉を選びながら口を開いた。


 「あの、わたくしから1つ、お願いがあるのですが。どうか、お聴きくださいませんか?」


 『はい、アリアお嬢様。何なりと私達にお申し付けください』


 「ふふ、ありがとうございます。えっとそれでは、わたくしからのお願いなのですが、もう一度わたくしと家族になって下さいませんか?」


 『え?』


 ポカンと戸惑う様にアリアの顔を見る、ナルとメルとグリム。


 「わたくし、このお屋敷の皆さんと家族の様になりたいのです。どうですか?ダメですか?」


 彼女達の表情を見て不安な気持ちになったが、それでも、そうなりたいとナル達を見上げた。

 うっ、と前のアリアにはなかったその表情に狼狽えたナル達であったが、一瞬のうちで3人の中に同じ答えを出すと、彼女達は決心を胸に確固たる意志でアリアに応えていった。


 『心配は要りませんよ、お嬢様。私達はお嬢様とこれから先も一緒に歩んでいくことを誓います。勿論、主従関係ではなく、家族の様な温かな関係で尽くさせて頂きます』


 アリアの、いつの間にか強く握られていた手をナルとメルとグリムが柔らかに包み込んで答えた。

 3人に囲まれ優しい温もりをその手に感じたアリアは、彼女達に向かい気持ちを伝えた。


 「ナル、メル、グリム、よろしくお願いします!」


 緊張から解放された華やかな笑顔を浮かべて、彼女達に向けた。


 (良かった。これで慕われるんじゃなくて、親しい関係になれる)


 それを見た彼女達の心に情動が勢いを以って突き上がってきた。


 (((お嬢様、可愛い!!ああ、甘やかしたい!!)))


 突然の母性がアリアに対して弾けた。


 『こちらこそよろしくお願いします!!』


 言葉を発すると同時に、衝動の赴くままにアリアを抱き締めた。

 しかし、すぐに背後からただならぬ気配を感じ、名残惜しさが全面に心に残る中、ナル達はアリアからゆっくり離れていった。

 そして、ナル達が離れた後、すぐにシオンがアリアを後ろから抱え込んだ。


 「さ、お嬢様、後の事はスイ達に任せて私達はお部屋へと帰りましょう。就寝時間を大幅に過ぎてしまっています」


 そうアリアに声を掛けた後、シオンは視線をナルとメルとグリムに向けた。


 (貴女達、お嬢様に触れるにはまだ、早すぎますよ。もっと、お嬢様に誠心誠意尽くしてからです)


 (((はい、メイド長)))


 視線をシオンに返してナル達は反省を伝えた。

 シオンは、再び彼女達に視線を向けた。


 (見習いが取れるように、頑張りなさい。それからなら、お嬢様にお触れすることを許可します)


 (((っ!?はい、メイド長!!)))


 破顔して嬉しさを溢れさせたナル達は、精一杯これから励む意を乗せて、深くアリアとシオンに頭を下げた。これにより、絶対的な主従関係ではなく、アリアの思い描く緩いアリアとメイドさんとの関係に一歩近づいていくのであった。

 そうして、ナル達の意志を受け取ったシオンは頷きを彼女達に向けた後、突然湯上り後の良い香りのする美女3人に抱き締められて呆然としているアリアを抱き上げた。


 「さ、お嬢様、行きますよ」


 優しい笑みを浮かべてアリアに声を掛けて、シオンが部屋へと歩き出した。

 自分の視界が後ろへと流れていることに気付いたアリアが、ようやく湯上り美人3人に抱き着かれた衝撃から我に返った。


 「シオン、ちょっと待って!」


 はっと目を何度か瞬いた後、自分をお姫様抱っこしているシオンを見上げて慌てて声を掛けた。


 「どうかなさいましたか?」


 アリアの慌てた声にシオンが、歩みを止めた。

 止まったことを確認したアリアは、不思議そうに自分を見るシオンに声を掛けた。


 「保護した女性達の傍に向かってくれませんか?」


 「はい、畏まりました、お嬢様」


 アリアを抱えて、シオンは保護した女性達の方に向かった。

 そして、シオンに傍まで寄ってもらったアリアは、女性達に自分の気持ちを伝えていった。


 「当家自慢のシェフの料理はとても美味しいものです。ぜひ、心ゆくまでお楽しみください」


 ニコッと微笑んで精一杯の笑顔を向けた。

 それから、彼女達の顔を見渡し怯えの消えた表情を確認したアリアは、続く自身の気持ちを穏やかに口にしていった。


 「何日でも構いませんので、ゆっくりと心安らぐまでお過ごしください。わたくし達は、貴女達の味方ですからね。それと、何かありましたら、わたくしでも構いませんので、ぜひ気軽に相談ください」


 伝え終えると、温かな眼差しを彼女達に向けた。

 その後、スイの方に顔を向け、そして、スイと視線が合うと、落ち着いた声音で言葉を紡いだ。


 「スイ、先程も述べましたが、大切な私達のお客様である、彼女達を宜しくお願いしますね。それから、彼女達の心が平穏を取り戻した暁には、彼女達の望みを叶えてあげて下さい」


 「はい、畏まりました、アリアお嬢様。精一杯その務めを果たさせて頂きます」


 「ええ、お願いしますね、スイ」


 微笑んで答えた後、一拍おいて、悲しみに染まる表情で憂いを口にした。


 「私達は彼女達にほんの一助しか出来ません。歯痒さに自身の力不足を嘆きたくなってしまいます。スイ、どうか彼女達がこれからは幸せな道を歩めるように力を尽くしてあげて下さいね」


 「はい、お嬢様。その慈悲に叶うよう、スイは懸命に努力いたします」


 そう述べた後、深く敬愛するアリアに礼を尽くしたお辞儀を返した。

 その思いを受けたアリアは、そこまで敬わなくても良いのにとの思いで微苦笑を浮かべつつ、スイから再び保護した女性達に顔を向けた。

 そして、彼女達に柔和な笑みを浮かべながら、口を開いた。


 「それでは申し訳ございませんが、わたくしはここで失礼させて頂きます。そろそろお眠の限界ですので、ベッドに向かわせて頂きますね。このままですと、はしたなく大口を開けて欠伸を漏らす由々しき事態を皆様にお見せしてしまう恐れがございます。ですので、わたくしは気品あるご令嬢像を保てているこの間に失礼させて頂きます。では皆様、良い睡眠を」


 シオンの腕の中でペコリと一礼すると、シオンに早くお部屋に運んでくださいとお願いした。

 彼女達が少しでも笑ってくれるようにとのアリアの意を汲んだシオンは、微苦笑を浮かべ、相応しい冗談を続けた。


 「それはいけませんね。シオンが速やかにお嬢様の睡眠をお守りいたします」


 アリアに大げさな動作で驚きながら声を掛けた後、スイを一瞥した。

 スイは了解しましたと軽く頭を下げた。

 それを確認したシオンは、アリアを腕に抱えたまま慌てた様子でローズと一緒に駆けていった。




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