第60話:保護された女性達の正体と彼女達の決断
その場に残されたスイはアリア達を見送った後、背後に振り返った。
そして、可笑しそうにアリアを笑ってくれている女性達をその目に捉えた。
その姿にスイも、更にナルとメルとグリムも、ふふふと楽しげに笑いを零した。
スイは嬉しそうに笑みを浮かべながら、アリアに託された望みを叶えるために、この後の全ての予定を頭の内で整理していった。
その後に、シオンが捕らえてきた野盗から聞き出した情報を脳裏に浮かべた。
すんなり吐かれた情報の余りの無情さに痛ましさを催し、目の前の彼女達からそっと視線を外し、小さくため息を吐いた。
そして、顔色を窺うように彼女達をチラリと一瞥した後に、内容を整理していった。
(村娘ではなく、孤児院出の娘ですか。丁度、孤児院から巣立ったその日に、その馬車毎野盗に襲われ、攫われたのですね。吐かせた内容から、付き添いの教諭と御者の方は這う這うの体で逃げ出したとありましたから、無事逃げおおせているでしょうね。問題は、彼女達です。彼女達をこのまま外に出すのは、娘を持つ母として心配になってしまいます)
複雑な表情で不安の浮かぶ眼差しで、彼女達を見てしまう、スイ。
不安を口から一息吐くと、ついつい彼女達の身を案じて視線を向けてしまう。
(外の世界ではもう就職先は見つかっているのでしょうか。それとも、一から探すのでしょうか。運営の危うい孤児院だったら、資金の為に売りに出される途中だったのかもしれません。いや、それが一番可能性のある彼女達の道だったのかもしれません。男性は、御者と教諭のみだったみたいですから。はぁ~)
ため息が大きく零れ出る。
そして、悲しみの感情から同情を彼女達に抱いてしまったスイは、ある決心を胸に抱いた。
(もしも、行き場が決まっていないで、こちらに残りたいと望むのでしたら、私がお嬢様にお願い申し上げましょう。それと、こちらではなく他に行きたいと望む方には、お嬢様の仰る通りにお力添えできるよう、ご当主様に進言致しましょう。まだ16歳の少女に暗い道を歩ませる訳にはいきませんからね。・・・そうと決まれば、早い行動に限ります)
憂いの消えさっぱりした表情で、スイは彼女達にこれからどうしたいかを訊ねていった。
そして、彼女達は悩むことなく自分の道を即答した。
やはり貴族へと形式上は侍女として奉公に出される途中だったらしい。彼女達は、自らの出自を嘆くことしか出来ない未来から、本当に慕いたいと願える愛しき主に仕える未来を選んだ。
その選択に悔いのない清々しい笑みでスイに答えていった。
うんうんと何度も頷き、薄っすらと瞳に涙を浮かべてスイは快諾した。
それを周りで緊張して見守っていたナル達は、彼女達の選択を聞いた瞬間、大喜びで歓迎した。
そうして、しばらくスイも加わり彼女達を快く迎え入れた後、明日アリアの下に向かい、そこで一旦の許可をアリアに頂き、その後、正式な採用許可を王都にいる旦那様とご当主様に通信機越しで頂くことを伝えた。
緊張の面持ちで頷く彼女達に、アリアに甘々な両親だからアリアの許可があれば、絶対に通ると伝え宥めた。
それから、幾分か緊張から解放された彼女達をスイは食堂へと案内した。
そこで、始めて見る色とりどりの料理に驚嘆し、ダニエルは怖いのでスルーし、ジェームズに躊躇いがちに彼女達は訊ねた。
本当に食べて良いのかと尋ねられたジェームズは、優しい笑みで遠慮せずに食べなさいと伝えた。
彼女達は礼儀もなくただ目の前のご馳走にぱくついた。一心不乱に食べていると、瞳から自然と涙が零れ落ちていった。初めて食べた食事でなく“料理”に、それとこんなに温かな食卓に。
だれも何も言わず、静かに彼女達を見守った。
そうして、感涙を頬に伝わらせながら綺麗に料理を食べ尽くした彼女達をスイが、一先ずの寝室となる大部屋に案内した。
そこで、10床の寝床の内6床に彼女達を案内し、残る4床にスイ自身とナルとメルとグリムが就いた。
彼女達の見知った顔ぶれである自身達が寝床を共にした方が、落ち着けると踏んだスイの意図であった。
そこから、皆で就寝準備を済ませた後に床に入り眠りについた。
寝入る直前、スイは可愛く自身にじゃれつくフウとセツと、それを遠巻きに望むアリアを思い浮かべた。羨ましそうに佇むアリアに手招きして、一瞬の戸惑いの後、明るく華やかな笑みを湛えて飛び込んできた所を、3人一斉に抱き寄せて頬擦りする場面を柔和な微笑みで想像した。
慈しみ溢れる母親の顔で、脳裏に浮かぶ3人の笑顔を眺めながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。
なお、その夜に見た夢では、娘3人と庭で遊ぶ幸せな日常のシーンが続いた。
けれどもその一方で、夢には余計な雑音が一切入らず、スイに雑音認定されたダニエルは何時になっても現れることがなかった。




