第42話:また・・・。でも、頑張ります
アリアは、美容室に戻っていったスイを訝しく見つめた。
(急にどうしたんだろう?)
美容室の方を見つめていると、スイが廊下を確認していたので、アリアは慌てて正面を向いて部屋に向かう振りをした。
背後からドアの閉まる音が聞こえると、アリアは顔を少しだけ動かして横目で美容室を窺った。
美容室の前には、誰の姿も無くドアも閉まっていた。
アリアは、再び足を止めて美容室の方を訝しげに見つめた。
(・・・。あんなに警戒してドアを閉めたってことは、何か聞かれると不味い話でもするのか)
じっと見つめ続け、こっそり廊下から中の話を盗み聞きしようかと考えた。
そして、美容室に向かい一歩踏み出そうとしたその時、アリアは突然声を掛けられた。
「あ!お嬢様、お疲れ様です!」
ビクッと身体を一瞬振るわせて、声を掛けられた方向に顔を向けた。
そこには、怪訝な面持ちでアリアを見つめる女性の使用人がいた。
「どうかなさいましたか?」
女性の使用人の声が静かな廊下に広がる。
アリアがまた、ビクッと身体を震わす。
スイ達が出てきていないか背後を確認したい衝動に駆られる。が、ここでそんな真似をすれば、目の前の彼女に更に不必要な疑いを持たれる可能性を危惧し、ぐっと我慢する。
アリアは今の得策として微笑みを浮かべて答えた。
「あっとごめんなさい。ちょっと」
と、そこまで言ったものの、続く言い訳が浮かばず、アリアは瞬間悩んだ。
(ああ、何かないか!何か、何か。あ、そうだ!丁度、下腹部に来るものがあるから、これを使うか!)
そして、思い付いた言い訳を口にした。
「えと、ちょっと、お手洗いを探していましてね。この辺りに来るのは久しぶりで、どこにあるか迷ってしまいました」
あはは、とぎこちなく笑った。
そして、恥じらうように顔を少し俯けて、上目使いで彼女を見つめて口を開いた。
「その、お恥ずかし限りですが、わたくしにお手洗いの場所を教えてはくれませんか。あの、そろそろ限界が近いみたいです」
意識した瞬間から、段々と強くなってきた下腹部の痛みに膝をもじもじと擦り合わせて、アリアが彼女を切羽詰まった真剣な瞳で見つめる。
「畏まりました、お嬢様!!お手洗いはこちらになっております!」
女性の使用人が答えると、アリアの手を引いて静かにゆっくりとトイレまで案内していった。
便器に座り用を足し始めると、危ういところまで我慢していたものが、勢いよく解放されていった。
アリアは全身の解放感からほっと一息つくと、膝に両肘をついて正面を見据えながらスイとローズの話の内容を再び考えていった。
(あの2人は一体何を話しているんだろう。さっきのスイが言ったフウとセツの髪を切る話は多分方便だろうしな。俺に聞かれちゃ不味い話なんだろうか?)
そう考えた時、突如アリアの中に危機感が生じた。
(俺に聞かれちゃ不味い話ってことは、偽物の件か!アリアの中身が俺に入れ替わっていることがばれたか!ああ、ヤバい!早く、美容室の前に戻って中の会話を聞かなくちゃ!!)
アリアは慌てて立ち上がると、急いでショーツを穿いた。
そして、トイレから飛び出すと、美容室に向かって走り出した。
走りながら、頭の中ではどうしよう、どうしようと、バレた後のことをいろいろと考えていった。
浮かぶことは全て最悪の結末だけで、アリアの瞳に恐怖から涙が浮かんでいった。
アリアは必死に走りあと少しでスイ達の所に着くという所で、息が続かず立ち止まってしまった。膝に手を突いて、ぜはぜはとうるさい息を吐いていく。
(あと少しなんだよ)
うるさく息を吐くだけで、動けない身体に苛立ちが募る。
(早く早く聞かないと。それと、もしもの時は、逃げ出さなきゃ)
アリアの中に焦燥感も募っていく。
少し呼吸が落ち着いてきて再び走り出そうとした時、ショーツにひんやりした感触を覚えた。
(うそ!?漏らし!?)
アリアの頭の中にもう1つ最悪な結末が浮かんだ。
しかし、すぐにその考えを消すと、慌てていて拭かずに穿いた事を思い出した。
(何してんだよ)
そう内心で呟くと、自分の惨めさから悲しみが溢れてきた。
廊下の先に見える美容室も気になるが、今は湿り気を帯びるショーツの状態の方がより気になった。
アリアはがに股気味に歩き、先程のトイレへと戻っていった。
そして、トイレに着くと一気にショーツを脱ぎ、それを一切見ないようにして、ポケットに突っ込んだ。
アリアは、ポケットにショーツを突っ込んだまま部屋まで歩いていった。
その道中、ずっと無言で視線を床に落として歩き、アリアの様子を心配した使用人に何度か声を掛けられたが、それに答える気力が一切湧かなかった。
部屋に着くとポケットからショーツを取り出し、目の前に掲げた。
拭き忘れ以外にも、もしかしたら漏らしてしまったのかと思えるほど、アリアにはそのショーツが濡れているように感じられた。
部屋を見回してベッドに視線を止めると、ベッドに歩み寄り、ショーツをベッドの下に隠した。
靴と靴下を脱ぐと、ベッドに上がり布団の中に潜り込んだ。
布団の中で身体を丸めると、恐怖と不安と惨めさによる悲しさで、アリアの感情がぐちゃぐちゃになり、声を押し殺し身体を震わせながら泣いた。
(もうどうすればいいんだろう。今頃、偽物を追い出そうとスイ達がここに向かっているかもしれないし、漏らしてパンツもないし、どうすればいいの)
顔もぐちゃぐちゃにしてアリアが泣いていると、ドアがノックされ、それに返事をせずにいると、ドアの開く音がアリアの耳に聞こえた。
アリアは、身体を縮こまらせてこちらに近づく足音に耳を傾けた。
足音は、アリアの丸まるベッドの前で止まった。
息を潜め神経を尖らせて、足音の主の様子を窺う。
「お嬢様」
アリアを呼ぶスイの声が聞こえた。
しかし、答えずに、今自分を外界との間で守っている布団を強く握り身体に寄せた。
「お嬢様」
再びアリアを呼ぶ声が聞こえたが、それにも答えずにもっと自分を守ろうと身体をより強く丸めた。
スイがアリアの潜むベッドに更に近づいてくる。そして、ベッドにスイが座ったことを自分以外のベッドの軋みから感じ取った。
その瞬間、アリアは目をきつく瞑った。
更に暗くなった視界の中に、今まで仲良くなった皆の顔が浮かび上がった。その皆が、軽蔑するようにアリアを睨んでいた。
アリアの瞳から流れる雫の量が増し、口からは謝罪の言葉が零れていった。
「ごめんなさい。ごめんなさい。わたくしを許してください。ごめんなさい・・・」
暗闇で謝罪を続けるアリアの背を誰かが撫でていった。それは、一度だけでなく何度も優しく、布団の上から撫でてくれる。
アリアの口から、謝罪の言葉が止まった。
そして、謝罪とは違う言葉を口にした。
「スイ」
涙に濡れたアリアの声にスイが、優しく答えた。
「はい、お嬢様」
アリアはスイの穏やかな声を聞き、のそのそと布団から顔を小さく覗かせた。
視界に温かく微笑むスイの表情が見えた。
「わたくしを責めに来たのではありませんか?」
不安と恐怖と惨めさからの悲しみに押しつぶされそうになりながらも、アリアは懸命に問いかけた。
「いいえ、違いますよ」
にこりと微笑むと、スイが「失礼します」と詫びて、アリアを守っていた布団を一気に捲った。
咄嗟にアリアは布団を掴もうとしたが、それよりも早く布団をスイに捲られてしまった。
全身をスイに見られると考えたアリアは、ワンピースの裾を引っ張り慌てて足元まで隠そうとした。
足を折り畳み何とか隠せたと安心したアリアは、丸まった姿勢でスイを見上げた。
スイはアリアの姿から推測通りであると分かると、微笑ましい思いでアリアに声を掛けた。
「お嬢様、心配しなくても大丈夫ですよ。私はアリアお嬢様を責める気はありませんからね」
そう伝えると、アリアの背中を優しく撫でた。
まだ不安そうに見つめるアリアに、スイがゆっくり語りかけていった。
「大体の事情は既に察していますよ。ここに来る前に、お嬢様をお手洗いに案内した者と俯いてお部屋に戻るお嬢様に声を掛けた者に、相談を受けました。皆、お嬢様を心配しておりましたよ」
その話を聞いたアリアが、不安な表情でか細く問う。
「軽蔑しましたか?」
アリアの姿に嘗ての子供達の姿が重なり、スイは懐かしさと可愛らしさに微笑んで答えた。
「いいえ、全くそのような事はありませんよ」
それを聞くと、アリアはゆっくりと身体を起こし、膝を抱えてベッドの上にちょこんと座った。しかし、抱える足を覆うワンピースの裾が気になり、もっと隠そうと裾を引っ張った。
スイは一生懸命にワンピースの裾を引っ張り、見られないように隠すアリアの姿に非常に愛らしさを感じていた。
(あの子が夢中になる気持ちが分かるわ。こんなに健気に、失敗してしまった事を隠そうとするんですもの)
しっかり隠せたと安心して口元を緩めるアリアを、スイが可愛すぎて堪らないと抱き締めた。
(ああ、どうしてこんなにも可愛くなられたのかしら。ずっと抱き締めていたいです。ですが、お嬢様のお世話を任された身ですからね、ここは一旦我慢しましょう。本日の予定が全て終わる夕方からは、たっぷり甘やかしましょうかね。まずは入浴の時間に、娘の髪を洗ってあげる所から始めていきましょう)
夕方からのアリアの甘やかしを楽しみに思い浮かべながら、スイは穏やかに表情を緩め、アリアにまずは訊かなければならない事を訊ねていった。
「お嬢様、脱いだショーツはどこに隠しましたか?」
過去の子供達の経験と必死に隠そうとする姿から推察して、スイはアリアに問いかけた。
「え、えっと・・・」
(何かない?後で、1人で洗いに行くために、何か今を切り抜ける良い口実はないの?)
スイの直球の問いかけに、無意識に視線を隠し場所である下に向けた事に気付かず、アリアは必死に頭を回転させて、追及を逃れる妙案を探った。
そして、偽物とバレれいない事に微かに心が軽くなったアリアは、知らないふりではぐらかそうと口を開いた。
「分からないわ。わたくし、今もちゃんと穿いていますよ」
ワンピースの裾を更に引っ張った。
スイは分かりやすい反応にアリアが更に可愛らしく思えて、本当の母親のような微笑みを浮かべ口を開いた。
「ふふ。畏まりました、お嬢様。このことは、スイとお嬢様だけの秘密にしましょうね」
そう声を掛けた後、スイはベッドから立ち上がった。そして、何をするのという困惑顔のアリアの頭を優しく撫でてから、ベッドの下を覗き込み、目的の物を見つけた。
(やっぱりここにあったわね)
大体の隠し場所の見当を既に持っていたスイは、アリアの視線の動きで確証を得ると躊躇わずに、ベッドの下を覗き込んでいた。
「あらあら」
見つけた物に手を伸ばして掴むと、アリアに伝えた通り誰にもバレないようにメイド服のポケットにすぐに仕舞った。
スイはベッドの下を覗き込んだ姿勢から顔を上げると、驚愕し固まっているアリアを視界に収めた。
その顔は、何故バレたんだとスイに問いかけているように見えた。
「ふふふ、何故でしょうね」
そう答えて、スイは微笑んだ。
それから、クローゼットに向かい替えの肌着と黄色のワンピースを手に取ると、呆然と自分を見つめるアリアの下に戻った。
「お嬢様、汚れを落としに行きましょうか」
声を掛けられたアリアは、こくんと頷き素直に従った。
脱いだ靴下と靴を履くと、スイに手を引かれてお風呂まで向かって行った。
スイに秘密を暴かれたアリアは、虚しさでいっぱいの心境であった。
(俺はまた・・・)
空虚な言葉が胸の内に響いた。
昨日はシオン、今日はスイに、同じように脱衣所で服を全て脱がされ裸になると大浴場に入り、敬うように控えるスイに足を差し出して、汚れを綺麗に洗い流してもらった。
洗い終わり脱衣所に出ると、せめてここだけは自分でやりたいと、スイに断りを入れてタオルで拭いていった。そして、渡された肌着を悲しく見つめてから、一気に着ていった。
肌着姿のアリアは、次にスイに渡された黄色のワンピースにどこか既視感を覚えた。
(黄色?ワンピース?)
記憶を探り、既視感に合致する光景を思い出した。
(昨日も今日も同じだな。ははは)
心の中で自身を嘲ると、余計に悲しくなった思いでその昨日も着た同じ色のワンピースに袖を通していった。
着替えの最後に、ペンダントとスイがきれいに洗ってくれた涙で汚れていたメガネを身に着けると、スイに乱れた髪を梳いてもらい昼食が待つ食堂に向かって脱衣所を出た。
食堂までの道中をずっと落ち込んでいたアリアは、いつ着いたかも分からない食堂のドアの前に立っていた。
開ける前に、スイに顔を向けた。
「お願いしますね、スイ。絶対に、誰にも言わないで下さいね」
「はい、お嬢様。このことは、私とお嬢様2人だけの秘密ですからね」
最後に畏まりましたと、スイの了承を聞いたアリアは、スイを見据えたまま表情を今の落ち込んだものから、少しぎこちなさが残る微笑に変えた。
「これで、いつも通りに見えるかしら」
「はい、少し硬さが残りますが概ねいつも通りに見えます」
「分かったわ。ありがとう、スイ」
スイにお礼を述べた後、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、指摘された点を意識し表情を作り目の前の重いドアを開けていった。
食堂に入ったアリアは、素早く歩き自分の席に座った。その途中、無意識にひらひらと揺れる黄色のワンピースを不安から押さえてしまっていた。
アリアの正面に座るフウとセツがその様子に疑問を抱き、アリアの後ろに控える母親のスイに視線を向けた。
スイは唇に人差し指を当てて、微笑んだ。
フウとセツはスイとアリアに何度か視線を向けた後、大体の事情を察することが出来た。
(そっか、ヒメちゃん、失敗しちゃったんだね)
(ヒメ、大丈夫だよ)
落ち込むアリアを元気づけようとスイから聞いた美容室の話を口にしていった。
「ヒメちゃん、お姉ちゃんが今気になることを聞いてもいいかしら」
顔に柔らかく笑みを浮かべてフウがアリアに声を掛けた。
「はい、どうしましたか、フウお姉ちゃん」
アリアは上手く笑えているか不安になりながら、懸命に笑顔を浮かべてフウに応えた。
「ヒメちゃんの髪、さっき見た時と違ってフワフワになっているね。それと全体的にヒメちゃんに合ったように整っているわ。どうしたのかしら、お姉ちゃんすっごく気になるわ」
フウに続いて、セツもアリアに柔和な笑みを浮かべて訊ねた。
「ヒメ、フウねえの言う通り髪も気になるけど、私はメガネの方が気になるな。ヒメにとっても似合うそのメガネどうしたの?」
2人にじっと見つめられて問いかけられたアリアは、自分の変化に気付いてその容姿を褒めてくれたフウとセツに少しだけ嬉しくなった。
沈んだ気持ちが2人の言葉で浮上してきたアリアは、まだ硬さは残るものの今できる精一杯の笑みを浮かべて答えた。
「これはですね。・・・」
アリアは2人に語っていった。
ローズに髪を整えてもらった事、何故かローズに洗ってもらったら髪がふわふわつやつやになった事、それとシオンに突然メガネを渡された事、それらを語っている内に、沈んでいた気持ちが上向き始め、最後には嬉々とした表情で語っていた。
フウとセツは、楽しそうに語るアリアを嬉しそうに見つめた。
(お姉ちゃんは、ヒメちゃんの自然な笑顔が一番好きだな!)
(よかった。ヒメが明るくなってくれた!)
(フウお姉ちゃんとセツお姉ちゃん、それとスイ、ありがとう)
三者三葉の思いを胸の内で呟いていた。
ジェームズが運んできた料理を先程はなかったアリアらしい笑顔で、フウとセツと談笑しながら綺麗に平らげていった。
本日の昼食は、ダニエルのリベンジもあるのか昨日と同じサンドイッチで、定番の卵、ハムレタス、それとむね肉を照り焼きにしたものが具として挟まっていた。
美味しいサンドイッチと忘れずにアリアのお願い通りにむね肉を使ってくれたダニエルの誠実さ、そして、昨日の失敗にめげずにシェフとしての矜持で改めてアリアに振舞う気の強さに、アリアは感謝し、尊敬した。
昼食を食べ終えたアリア達は席を立つ。
アリアは先ほど感じた気持ちを心だけでなくダニエルに直接伝えようと、ダニエルの前に歩み寄った。
「今日“は”とても美味しく頂けました」
「そうか!」
「はい!」
ダニエルの喜ぶ顔を見られて、感謝を伝えて良かったとアリアも顔を綻ばした。
アリアは、更に気持ちを伝えていった。
「ダニエル、わたくしのお願い通りにむね肉を使ってくれたのですね」
「昨日、真剣に頼まれたからな。シェフとしては、客の要望に応えてこそ本望だしな」
ニヤっと笑いアリアを見つめる。そして、更にダニエルが語っていく。
「それに、要望を出されたってことは、また俺の料理を食べてくれるって事だろ。どう叶えればいいか、どんな形で作るか、そして、俺の作った料理をどんな顔で食べてくれるか、考えていくと期待と不安でワクワクする。だから、遠慮せずに喰いたいもんがあれば、何でも言ってくれよ、お嬢」
快活な少年の様にダニエルが嬉しそうに語る。
「はい、そうします。それとありがとう、ダニエル」
「良いって事よ。でも、1つお嬢に謝らなければならない事がある。夕食じゃなくて昼食になっちまったのは、すまねぇな。夕食は夕食でまた腕によりをかけて最高のものを作るから、許してくれ」
「ええ、いいですよ。でも、美味しくなかったら許しませんからね、ダニエル!」
ダニエルが頭に手を当て、大仰に笑う。
「お嬢に許してもらえるように、良いもの作らなくちゃな」
アリアもダニエルに釣られ笑った。
フウとセツは父親の職人としての姿を目の当たりにして、誇らしさに自然と笑顔を顔に浮かべた。
スイとジェームズは、微笑ましく見守っていた。
穏やかな空気が暫しの間、食堂に流れる。
その空気の中、アリアが最初に口を開いた。
「ダニエル、夕食を楽しみにしていますね。では、失礼します」
もっとこの穏やかな空気を味わいたかったが、こそばゆさと皆への申し訳なさを感じてしまい、物静かな1人部屋に戻ろうと考えた。
「お嬢様、お供します」
スイがアリアの傍に寄り沿ってくれる。
良いのと小首を傾げてアリアが見上げると、微笑みでスイが返した。
(やっぱり、いい家族だな)
アリアは脳裏にお屋敷の皆の顔を思い浮かべた。
アリアはスイ以外に、お辞儀をするとスイと一緒に歩き出した。
その時、突然ダニエルから声が掛かった。
「お嬢、何かあるなら打ち明けてくれよな」
一瞬驚愕の表情浮かべたが、すぐに明るい笑顔に変えた。
「はい!!」
胸が更に温かくなった。
アリアはこんなにも自分を気にかけてくれる皆に幸せをしみじみと感じた後、再び歩き出そうとした。
アリアが一歩目を踏み出した時、もう一度ダニエルから声が掛けられた。
「お嬢?」
「はい、何ですか?」
ダニエルが怪訝な面持ちでアリアの全身を眺めた後に、素敵なプレゼントをアリアに贈った。
「さっきから気になっていたんだが、服の色が変わってねぇか」
アリアの足が止まった。
「風呂に入るには、まだ早いよな。どうした。何か、あったのか?」
ダニエルのアリアを心配する気持ちは確かに感じられるが。が、フウとセツとジェームズの前で訊いてほしくなかった。
顔が一瞬で熱くなったアリアは怨みを込めてダニエルを睨んだ。
「いいじゃないですか!気分ですよ、気分!!覚えていらっしゃいーーーーー!!!」
アリアはそう言い捨てると、全力で食堂を飛び出していった。
アリアの突然の変貌にダニエルが混乱する中、フウとセツが冷酷に見据えた。
「パパ、最っ低!!」
「ヒメが可哀そうだよ!!」
フウとセツはそう残すと、ダニエルから背きアリアを追って食堂を出ていった。
愛しの娘達に突然拒絶されたダニエルは、ショックで固まった。
スイが小さくダニエルに伝えた。
「今日も家族会議ね」
スイは食堂の出口に視線を向けると、小走りで娘達を追っていった。
静まり返った食堂で、最後にジェームズが声を掛けた。
「そっとしておく気遣いも覚えるんじゃな」
ジェームズは、ダニエルを放置して淡々と昼食の片づけを行なっていった。




