↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/103

第26話:アリアの起床と楽しくて堪らないシオンの嬉しい話

 「お嬢様、起きてください」


 アリアの耳にシオンの声が聞こえた。

 まだ寝ていたいアリアは無視した。


 「起きてください、アリアお嬢様」


 今度は、掛け声だけでなく身体も揺すられた。

 もっと寝ていたいアリアは、それも無視し声が聞こえる方向と反対に顔を向けた。

 シオンはそれをアリアからの挑戦と受け取った。


 「いいでしょう!私に挑戦する気ですね!」


 シオンは、薄く笑うと布団を持った。


 「起きてください!!」


 シオンが掛け声とともに布団を剥ぎ取った。

 突然布団が消え去った事にびっくりして、アリアが飛び起きた。


 「何!?」


 忙しなく視線を巡らした後、アリアはシオンの顔を捉えた。


 「おはようございます、アリアお嬢様」


 やけに晴れやかな笑顔のシオンがそこにいた。


 「・・・」


 アリアは、霞がかった意識でシオンをぼうっと見つめた。


 (誰?)


 そう思い首を傾げて、シオンを見た。しかし、寝起きで頭の働きが鈍いアリアは、目の前でにっこりと笑うメイドさんの名前が浮かばず、首を傾げてぼんやりと眺めることしか出来なかった。

 シオンは、一応起きているアリアを見ると楽しそうに表情を緩めて、ベッドの周りに脱ぎ散らかった寝間着用のワンピースとキャミソールを拾い上げた。

 異様に重い頭を不思議に思いながら、アリアはぼうっとしてそれを目で追っていた。

 シオンは拾い上げたワンピースとキャミソールを丁寧に折りたたんだ後、再びアリアに声を掛けた。


 「お嬢様、朝ですよ。起きてください」


 アリアはそれにコクっと頷いて答えた。それから、目の前のシオンをぼうっと眺めていると、少しだけ頭が覚めてきた。

 少しシオンから視線を外し、部屋を巡らすと明るくなった外の景色が見えた。

 アリアは、再び視線をシオンに戻すと、ぼんやりとした口調でシオンに訊いた。


 「シオン、今何時ですか?」


 この身体に沁み込んだ記憶で無意識にそう問いかけた。その記憶のおかげで、アリアはボロを出さずに済んだ。もし、転生前の気分で、「あの、すみません」と問い掛けていたら、シオンにまた偽物ではと、疑いを持たれていた可能性があった。

 前のアリアのおかげで命拾いしたアリアは、半覚醒状態でぼんやりとシオンを眺めて待った。

 サイドテーブルの時計で時間を確認したシオンが、口を開いた。


 「6時を少し回ったところです」


 それを聞いた瞬間、アリアの顔色が真っ青に染まった。


 (しまった!?寝坊した!!)


 毎朝、通勤で乗る5時台の電車に乗り遅れたと、アリアは焦りを覚えた。

 アリアはすぐにスマホを探した。だが、何処にも見当たらなかった。


 (どこに行った!)


 更に布団を捲ったりして必死に探した。それでも見つからなかった。


 (仕方ない。一旦探すのは諦めてすぐに会社に行く準備をしなくては!!)


 アリアは、会社に行くまでにやらなければならないことを思い浮かべた。


 (ひげを剃りスーツを着たらすぐに家を出て、駅まで走れば少しでも早い電車に乗れるかもしれない。ネクタイは電車で締めればいいし、後は連絡だ。7時半に課長に連絡して遅れる旨を伝えて、会社に着いたら謝罪すれば何とかなるか)


 アリアの身体が、不安と焦りで震える。

 しかし、それを気にしている時間の余裕が無いアリアは、洗面台に向かおうとして、ベッドから降りた。そこで、シオンと目が合った。

 その瞬間、霞がかった頭がはっきり覚醒した。そして、死んでアリアに転生したことを思い出した。

 アリアは、シオンをはっきりと見据えた。そこには、アリアの奇行に目を見開き、驚いているシオンがいた。

 客観的に見て、今までの自分の行動が非常におかしいことを理解した。

 アリアは頭を目一杯働かせて、言い訳を考えた。


 「おはようございます、シオン。とても良い朝ですね。空が清々しいくらいに晴れ渡り、うん、今日も良い日になりそうな予感がしますね」


 とりあえずは挨拶でもと、笑顔で困惑顔のシオンに皮肉を交えて朝の挨拶をした。


 「はい。おはようございます、アリアお嬢様。確かに良い天気ですね。ところで先ほどのご様子」

 「うふふ、わたくしとしたことが、ついうっかり寝ぼけてしまいました。夢で何か大切なものを失くしてしまい、必死に探してしまいました」


 何かを聞かれる前にシオンの話を遮り、強引にそれっぽい出任せを口にした。

 そして、昨日からのシオンのちょろい性格を利用して、有耶無耶にしようとアリアは更に言葉を続けた。


 「驚かせてしまいましたか。ごめんなさい、シオン」


 アリアが、しゅんと沈んだ面持ちを作る。


 「シオンはこんな寝ぼけてしまうような、ご令嬢失格のわたくしを嫌いになってしまいますか。わたくしに愛想を尽かしてしまいますか」


 そこまでで一旦言葉を止めると、瞳を潤ませてシオンを見つめて続きを口にしていった。


 「いやですよ、シオンがいなくなってしまうなんて。ダメダメポンコツなわたくしですが、見捨てないでシオン!!」


 未だ、アリアの急展開についていけていないシオンに、アリアはひしっと抱き着いた。そして、涙を浮かせた上目遣いで縋るように、シオンを見上げた。


 「~~~!!」


 シオンはたまらずアリアを胸に一杯に抱きしめた。


 「私がアリアお嬢様を見捨てるなんてことは得ません!一生何があってもアリアお嬢様にお仕えします!」


 それを聞き、アリアは静かに笑った。


 「ありがとう、シオン。夢で失くした大切なものは見つかりませんでしたが、わたくしにとって大切なものを見つけることが出来ました。ね、シオン!」


 シオンの胸元から顔を上げて、嬉しそうに微笑みを向けた。


 「お嬢様!!」


 シオンはアリアをギュッと抱きしめた。そして、願いを叶えてくれた女神さまに感謝した。


 (ありがとうございます、女神様。今日もアリアお嬢様の笑顔が見られました)


 シオンはアリアを最高の笑顔で、抱しめていた。

 一方、アリアはシオンの胸に顔を埋めたまま、ニヤリと笑った。

 あざとさに更に磨きがかかったアリアは、流石悪役令嬢であると頷かせる姿であった。






 よしよし、上手く切り抜けられたとアリアは内心で浮かれていた。


 (やっぱりちょろいね、シオン!!ククク!!)


 しかし、そう世の中上手いことだけではなかいと、アリアはすぐに気付かされた。

 シオンから底冷えする声が聞こえてきた。


 「お嬢様、これはいったい何ですか?」


 ビクッと身体を震わせ、胸元から顔を上げてシオンを見上げた。

 そこには、素晴らしい笑顔があった。その笑顔のチャームポイントを上げるとしたら、額に浮き出た青筋であろうとアリアは思った。

 シオンはゆっくりと視線をベッドの上に向けた。アリアもそれに倣って視線をベッドの上に向けた。

 そこには、綺麗に折り畳まれた寝間着用のワンピースとキャミソールが置かれていた。

 シオンはアリアに顔を向けて、にっこりと笑いながらもう一度、ゆっくりと問いかけた。


 「お嬢様、あれは何ですかね」


 アリアの背中に冷たい汗が流れた。


 「あはは、何でしょうね、シオン」


 笑って誤魔化そうとした。

 シオンは、冷たい視線でアリアを見下ろすと、そっと胸元からアリアを離した。それから、アリアに視線を向けた。特に、アリアの髪に視線を注いでいた

 シオンの視線が、自分の髪に向いていることに、アリアが気付いた。

 アリアは恐る恐る髪を手で触って確かめてみた。寝ぐせがたくさんあることが、感触から分かった。


 「あはは・・・」


 思わず、空笑いを零した。

 シオンは笑ってくれなかった。それどころか、雰囲気が鋭くとがったものに変わっていた。

 あのアリアにはほとんど優しいシオンが、本気で怒っていた。

 アリアがシオンに、訥々と言い訳を語り始めた。


 「あのね、えっと・・・、昨日ちょっと、眠れなかったので、・・・んと、自分なりにどうすれば、寝られるかを、考えて、色々試していたら、その・・・、服が脱げて、髪が解けてしまったの。だから・・・」


 シオンの能面のような無表情が見えた。「ひっ」と引き攣った声が零れた。

 その恐ろしさ腰から力が抜けてその場にへたり込んだ。

 シオンが腰を抜かしたアリアに一歩、また一歩と迫って来た。アリアはもう身体を震わせることしか出来なかった。

 やがて目の前にシオンが到達すると、アリアを抱え上げてベッドに座らせた。それから、衣装掛けに向かい、昨日掛けたカーディガンを取ってくるとアリアの身体に羽織らせた。

 その後、シオンは屈み、アリアの視線に顔を合わせた。

 アリアの顔を見据えながら、シオンが口を開いた。


 「そうだったのですね、アリアお嬢様」


 シオンの顔に笑みが戻った。


 (やった!助かった!ありがとう、神様!!)


 アリアも同じように笑みを浮かべた。

 そして、ここが好機と畳みかける勢いで言い訳を口にしていった。


 「そうですわ!!服が勝手に脱げていったのですわ!!全く、もう少し根性がある服だと思っていたのに!!それにわたくしの髪も随分と元気が有り余っていてね、窮屈だから自由が良いと、リボンを解いてしまいましたのよ!もう、勝手な服と髪よね、シオン!!」


 アリアは、そこまで捲し立てるとシオンの顔を窺った。シオンは、うんうんと笑顔で相槌を打って聞いてくれていた。


 「そうだったのですね、お嬢様」


 シオンが、驚いた表情を浮かべた後に、最高の笑顔で優しく答えてくれた。


 「そうだったのですよ。シオンはやっぱり、わたくしの最高の従者ですね!!」


 えへへっとアリアが嬉しそうに、シオンに笑いかけた。

 うふふっと笑いを零して、シオンがアリアの頭を撫でてくれた。


 (勝った!!!)


 アリアは内心で大いに喜び、まるで戦に勝ったかのように勝鬨を上げていた。

 しかし、そんなアリアに幾分か温度の下がった声が聞こえた。


 「でも服はひとりでに脱げたりはしないですよね。御髪も同じですよね」


 冷たい声だった。それを聞いた途端に、アリアの内心と表面の笑いが消えた。

 ゆっくりと顔を上げてシオンを窺った。

 表面上は、にこやかに笑うシオンがいた。


 「ご、ごご、ごめ、んさい、シオン」


 唇が震えて上手く言葉が出ない。


 「どうして謝るのですか?お嬢様は悪くないのですよね?脱げてしまった服と解けた髪留めがいけないのですよね?」


 凄味が増したシオンがアリアに厳しく問いかける。


 「ごめん、ささい」

 「ん、おかしいですね。悪いのは服と髪留めですよね?」


 シオンに責められ続けて、遂にアリアが素直に白状する。


 「わたくしが脱ぎました。それと髪も解いてしまいました」


 聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声だった。

 それでもシオンには聞こえていたようで、うんうんと頷いてアリアの告白を聞いていた。

 シオンは、まずは素直に白状したアリアを褒めた。


 「分かりました。隠さずにお話しになり、シオンは嬉しいですよ。偉いですよ、アリアお嬢様」


 シオンがアリアの頭を優しく撫でる。恐怖から委縮していたアリアは、それで笑顔になった。

 嬉しそうに弾んだ声でシオンに問いかけた。


 「シオン許してくれるのですか!」


 アリアは、シオンが許してくれたと思った。


 (やった!許してもらえた。最初から素直に話しておけばよかったよ)


 もう、叱られるのは終わりだろうと、内心でほっと胸を撫でおろした。

 だが、無情にもシオンの口からは許しの言葉ではなく、厳しいお叱りの言葉が零れた。


 「お嬢様、どうしたのですか?私は、許すとは一言も申し上げておりませんよ」


 アリアの表情が固まった。


 「え!?」


 呆然とシオンを見つめた。シオンがアリアを見据えて、口を開いた。


 「アリアお嬢様、私と少しお話をしましょうか。大切なお話ですよ。ね、アリアお嬢様」


 アリアは首を何度も横に振っていらない、いらないと拒否をしたが、にっこり笑ったシオンに無視された。


 「遠慮はいりませんよ。久しぶりに、お嬢様と朝から楽しいお話が出来て、シオンは嬉しいですよ」


 アリアは、楽しくないし嬉しくないと何度も首を振った。だが、結局シオンとの楽しくて楽しくてたまらない、嬉しいお話をすることになってしまった。

 そこから30分ぐらい、こっぴどくシオンに絞られ尽くしたアリアであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。