8話
結局のところ昨日はずっとモヤモヤした気持ちで1日を過ごしてしまい、気がつけば次の日になっていた。
デート当日。特に深い意味はないが、いつもよりおしゃれをして家を出た。
別にどの服を着ていくかで1時間も悩んでなんかいない…
彼との待ち合わせ場所が大きい駅ということもあって、人が多く老若男女が視界に入ってくる。
そんな群衆をかけ分けながら集合場所を目指して前に進む。
やっぱり隠キャに人混みは厳しい。居心地が悪すぎるのだ。
私は人が少ない場所やお店が好きだし、散歩をするなら人がいない道が好きだ。
歩くこと5分、待ち合わせ場所が見えてくる。少しだけ家を出るのが遅れたが、とりあえず約束の10分前には着きそうで安心した。
「このあとって時間ありますか?」
「よければ一緒にお茶しません?」
昨日のモヤモヤと人混みで少し疲れていた私が待ち合わせの場所に向かうと、女子大生のように見える2人組にナンパされている男がいた。
そう、何を隠そうその男こそ私がこれから会う予定の相手……大島恭司である。
なんて話しかけにくいのか。あの中に割って入るなんて私には出来そうにない。
というか、男子高校生の分際で一丁前に年上のお姉さんにナンパされるなんて羨まし……けしからん奴だ。
私との約束があるのだから早く断れ。そんなに美人なお姉さんに話しかけられて嬉しいのか。
まあ、正直なところ気持ちは分かる。私も女子大生にナンパされたら嬉しいし、前世で男子高校生の時はよく妄想していた。
それが現実になることはなかったのだけれど……
ああ、悲しきかな…
「すいません、彼女を待ってるんで。あ、ちょうど来たみたいです」
「え…」
と残念な過去を思い出していたら急に矛先が私に向かってきた。お姉さんたちの視線を感じて気まずい。
「そっか。邪魔してごめんね」
「デート楽しんで」
「ありがとうございます。それじゃあ俺はこれで」
そう言って彼はこちらにやってきた。
「おはよう深井さん」
「おはよう」
「いつも可愛いけど、今日は一段と可愛いね」
「そ、そう……」
「俺のためにオシャレしてくれたの?」
「ち、違う…! う、自惚れないで!」
「そっか、それは残念。でもいつもとは違う君を見れて俺は嬉しいよ」
「な、なに言って…は、恥ずかしいからやめて」
本当になんでこの男はこんな恥ずかしい台詞を息を吐くように言えるのか……意味が分からない。
ああ、不意打ちなんてズルすぎる。絶対に顔が赤くなっているのバレた。そんなの嫌すぎる。
それになんで私はこんなことで顔を赤くしているのか…情けない。
でもそれ以上に心臓がバクバクしてうるさい。
「照れてる顔も可愛いな」
「う、うるさい……いいからもう行こ」
これ以上はまずいと思った私は強引に会話を区切って歩き出した。
ああ、心臓の音がうるさい。朝からのモヤモヤも人混みを歩いたストレスもどっかにいってしまったみたいだ。
ちょっと褒められてだけなのに……こんなに動揺して馬鹿みたいだ。
どうして私はこんなに振り回されているのか…納得がいかなさすぎる…
こんなんで私は今日を無事に終わらせられるのだろうか。




