19話
「お待たせ」
「全然。瑞樹になら何時間待たされたっていい」
「その返事はなんかキモイわよ兄さん」
そう、目の前にいる男性は何を隠そう私の兄の和哉である。兄さんは大学2年生で一人暮らしをしているので、会う機会がそう多いわけではない。
だから、たまにこうしてご飯を一緒に食べることがあるのだ。
こういうとき食事代は兄さんが出してくれるので、私はありがたく奢らされてもらう。
「お兄ちゃん悲しい…瑞樹が「キモい」なんて言葉使いするなんて…お母さんはそんな子に育てた覚えはありません」
「お母さんじゃないし、人前で嘘泣きするのは恥ずかしいからやめて」
「おかしい。今日は瑞樹が冷たい」
「いつもこんな感じでしょ」
「でもクールな瑞樹もまたいい」
「だからキモイって」
こんな軽口を言い合えるのも私と兄の仲が良好だからだ。兄とは歳が離れているせいか、昔からよく可愛がってもらった。
「瑞樹は食べたいものある? 遠慮なく言っていいよ」
「いいの? 本当に遠慮しないけれど?」
「大丈夫。給料日まえだから」
・・・
「美味しかった。ありがとう兄さん」
私たちは大手チェーン店の回転寿司屋で夕食を取った。
最近は100円皿も少なくなり、なかなかアルバイトもしていない高校生が1人で行くのは厳しくなった。
だから、こうやって兄さんに奢ってもらえるのは助かる。
「どういたしまして。瑞樹は本当に寿司が好きだよね」
「うん、好き」
「そうかそうか。お兄ちゃんのことが大好きか」
「兄さんのことは好きだよ」
「ついに瑞樹にデレ期が……!」
「家族としてね」
「結婚しよう瑞樹」
「彼女さんに怒られるよ」
「うん。それは怖い…」
兄さんにはお付き合いをしている恋人がいるらしいのだけど、どうやらしっかりと尻に敷かれているみたいだ。
そんな風に雑談をしていたら、ふと視界に見慣れた顔が映る。
その正体は私の恋人の恭司だった。最初はすぐにでも声をかけようと思ったのだけど、隣に兄さんがいることを思い出して踏み止まった。
なんとなく2人がこの場で会合するのはめんどくさい気がしたからだ。
だから私は気づかないフリをしようとしたのだが……
「瑞樹」
うっかり彼と目が合ってしまった。どうやら私の判断は少し遅かったみたいだ。




