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⑤飛ぶ缶詰

アスファルトと縁石の間にできているひび割れから伸びる雑草が、埃っぽい匂いを運ぶ風に押されてかすかに揺れる。


まっすぐに伸びる道の、煤けたアスファルトに引かれている車道と歩道を分ける側線。

白かったそれは、灰色にくすんでところどころ掠れているし、タイヤの黒い跡がいくつも重なっている。


その側線の上にぽつんと置かれた缶詰に、歩道をズルズルと歩く列の人たちのひとり、子供の視線が止まる。


それから、前を行く人の列を見て、後ろを歩く人の列を見て、少し前を歩いている女の人の背中を見る。

人々のずるずると進む足。


片方だけ少し強くアスファルトを蹴る人。

足音が一拍だけ遅れる人。

小さな歩幅、大きな歩幅。

おじいさんの杖が、カツカツとリズムを刻む。


ズッ、ズッ。


少しだけ列から外れた子供が足を止めて、それから、縁石を乗り越えた。


車道にしゃがみ込んで、小さな手で缶を掴んで持ち上げて、底を覗き込む。

はぁ、と息が漏れる。

ふわりと広がる白い息が、缶の縁をかすめて登り、表面に貼られたラベルの絵柄をなぞって消える。

子供が鼻を近づける。

離して、中を見て、わずかに首をかしげる。


ヒューっと風が吹き抜けた。

乾いた北風が、アスファルトの上に転がる小石を撫でて、小石が少し転がる。


子供のコートの裾が擦り切れた端をはためかせて、ほつれて出た糸が、細く揺れる。

ブルっと小さく身震いした子供が、立ち上がる。

缶詰を丁寧に縁石の上に置いて。


タッ、タッ、タッ。


走って、一緒に歩いていた女の人のところに戻る。

女の人の裾の端をギュッと掴み、うつむきながらズルズルと進む人々に続く。


ポケットに手を入れて歩く若者。

カバンのストラップをギュッと握る人。

赤ん坊を抱える女性。

唇の端に、乾いた黒い血が固まっている人。


周りを歩く人々のコートも、子供のコートと同じように色を失っている。

袖口が黒ずみ、ところどころが薄くなって、そこから出ている手の手袋の指先が破れている。


人々の足元の靴は、底が擦り減って、泥がついて固まっている表面の皮はひび割れて、途中で切れている紐が硬く結び直されている。


人の列が、車道と歩道を分ける縁石に乗り上げて、焼け落ちた車の横を通る。

焦げた匂いとすえた匂いが鼻に引っかかって、吸い込んだ空気で喉の奥にざらつきが残る。

外装に小さな穴がいくつも空いていて、窓はすべて焼け落ち、外装が落ちたところの黒く焼け残った骨組みのフレームが、冷えた空気に震える。


その先に、根元のコンクリートが砕けて、片側に傾いた電信柱が、電線に引っ張られる形で、斜めのまま止まっている。

一本だけ切れて垂れ下がった電線の切り口が、風に触れて、かすかにヒューと鳴る。


アスファルトの汚れた縁石の上に子供が置いた缶詰も、風が吹くとカタカタと少し揺れる。

そして、飛び降りるみたいに、コロンと歩道側に落ちた。


列の中ほどにいた女の人の足元に転がってきた缶詰。

視線が一瞬だけそれに向く。

女の人がそれを跨いで、後ろの男が慌てて避けて、コロコロと転がるそれが、そのまま、次の男のつま先にコッと軽く当たる。


カラン、カラン。


引きずる足を進ませるついでに蹴られた缶詰が、くるくると回りながら来た方向に戻るみたいに転がって、縁石に当たって跳ね返る。


列の男がひょいと避ける。

老婆の足は払うように弾く。

カスって、前に進んだ缶詰が前の人の踵に当たって、またコロコロと転がる。

転がるたびに小さな掻き傷が増えて、破れたラベルの下の金属が鈍く光る。

別の男が、足元に来たそれを見て、小さく舌打ちした。


「……ちっ」


缶を蹴る。


カラン、カラン、カラン。


蹴られた缶は少しだけ形を変えて、縁石を飛び越えて、カッと着地すると、ひび割れたアスファルトの上を不規則に跳ねながら、焼け落ちた車も追い抜いてコロコロと転がり、大きなひび割れに当たって跳ねた。ひょいと飛ぶ。

体を捻りながら、空にゆるやかな弧を描いて、反対側の縁石にカッと当たって、コロコロと転がりながらこちらにまた戻ってくる。


カラン……カラン。


何度かアスファルトを叩く音が重なって、底の方を下にして、コッ、コッ、と揺れながら止まる。

側面がへこみ、空を向いた縁が傾いている。


ズッ、ズッ、ズッ。


ひび割れた唇から白い息を吐き出しながら進む列の人たちは、缶詰にほんの一瞬だけ視線を向けて、すぐに戻る。


サッと戻す男。

普通に戻す女。

のんびりと動く老人。

少し凝視する者。


それでも、足元だけを見て進む列の人たちは、誰も足を止めずに、そのまま、その空き缶の横を通り過ぎていく。

焼けた車の横をすり抜けて、傾いた電信柱の影を踏み、進む。


子供が、また缶詰の横を通る。

潰れて形が歪んでいる缶詰に、ほんの少しだけ視線を向けて、女の人の裾を掴む手が、少しだけ強くなる。

半分だけ振り返った女の人。

子供が見上げると、その人の手が伸びて、子供を引き寄せる。


ズッ、ズッ、ズッ。


無言で歩く人々の列。さっき缶詰を蹴った男の人が、ひょいと縁石を跨いで、また缶詰を蹴る。


ピューっと通りの向こうまで飛んで、カッ、カッ、カッとアスファルトに跳ねて、今度はカラコロと転がらずに、アスファルトの表面をズズズッと削って、ちょっと進んで、止まる。

大きく潰れて、不恰好になった缶詰が揺れる。

戻る。

揺れる。


カタッとアスファルトに身を預けた缶詰。

列から離れてしまったから、もうその缶詰を見る者も、手にする者もいない。

蹴った男も、もう缶詰を見ないけど、女の人に抱えられるみたいに歩く子供だけが振り返る。


冷たい風に、缶詰がカタカタと揺れる。


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