生き延びる為の三領連合 Ⅱ
「……。なんで、三領合同になってんの?」
「ダズルが男引っ掛けてきたらしい」
「父上まだ、行方知らずなんですか……?」
「うちらなんて、当代領主どころか、家人団まで、間抜けの殻ですよ?」
「ダリウス一人に任せられねえって思ってきてみたら、泥舟だったわ。ダリウスだけに」
愛想笑いな苦笑いをしながら、ダズルは知った。ダリウスのセンスの終わり具合は、家族性のものであるらしいと。
ダズルこと彼女と離れ、人垣という程の密度ではない人の集まりの中から出てきた、ダリウスこと俺は、一旦、周囲を俯瞰した。
パーティー会場でも何でもない。だが人は数多く集まっている。三つの領の、ただの兵以上、凡そが運営以上の。
ウィル・オ・領。その屋敷の敷地ですらない、ただのなだらかな丘のような、だだっ広い芝の上で。昼間であるから灯の類は無い。空もそれなりに晴れている。
敵の襲撃が俺たちの帰還を機に、一先ず止んだからというのが、この場が開かれた理由としては大きいだろう。それでも、まだ完全には気を抜けはしない。
騎士であれば誰も彼もが兵装を纏って。魔法使いたちも、戦場に出れる、派手でも装飾だらけでもない、飾るためではない、動くためのローブを纏って。
現に、食料の類も用意されていない。宴会の類にはしない、というお上の意思表示か?
ダズルの実質近衛な五人は引っ張りだこだった。何せ、専門分野持ちかつ、マルチ、書類仕事から作戦立案、現場指揮官まで何でもござれである。
ダリウスのバグった認識での評価は雑魚、なのであるが、彼らはそもそも、駒として使うのは愚行と言えるクラスの、スペシャリスト兼ジェネラリストである。その戦闘だって、バグ枠以外になら食らいつくくらいはできるほどの技前腕前がある。
ダズルやダリウスと比べるのは、比較として間違っている。どちらも、始まりの園へ至る資格を持っている。他とは位階が違う。ダズルは、試験の合否を待たず、拒否したから。実は、家に、彼女の合格証は残されている。
「すまないねぇ」
声をかけてきたのは、真摯な方の女である。有名な聖女であり才女。
「いえいえ。あ、親戚になることになりました、ジェロム・ド・ダズルです」
「ふふ、知っているよ。というか、私たちは未だなのだよ。色々混みいっていてね」
女の顔色に、疲れが伺えた。そりゃ疲労もするだろうさ。万能の駒だ。というか要であり、頭の一つだ。戦闘だけではなく、指揮まで含めた。
「ずいぶんお似合いでしょうに。無粋なものがいるものです」
俺が口にしたのは、彼女に返しの一つにと、与えられたフレーズの一つである。
「ダズルちゃんの入れ知恵かい?」
「その通りで。俺らの一族、感性がズレてますんで」
多分、思ったこと口にしてたら、変な感じになったのだろうなと、今の反応から悟った俺は、もう、そう明かしてしまうことにした。
「まだ、君には望みがある。励めばきっと、外面もいい男になれるだろうさ。まだ未知な君ならば」
暫くは甘く見てくれるらしい。ありがたいものである。嫌われたくはないからな。彼女の為にも。俺のせいで、足を引っ張られるなんてことは、本当に避けたい。……。修練、しないとな。
「そうなりますよ。恥をかくのは彼女ですから。俺に恥はないとはいえ、それは嫌なんで」
「垢抜けたね。青臭くなった感じもあるけれど。徹底的にやりたいというのなら、人、寄越そうか?」
察しが良いし、話が早い。こういう先回りなら大歓迎なのである。とはいえ、
「それは後日、他の人材も絡めて、じっくりお話しさせていただければ」
俺が勝手に決めることではないから、彼女に与えられたこのフレーズで俺は返した。
「領主の才能はありそうだね。特に、私利私欲に走らなさそうなところが」
現時点での及第点は頂けたらしい。……。あれ、俺、もしかして試されてた……? 怖ぇぇぇ……! けれども、わざわざ明かしてくれたということは、もう、気を抜いてもいいってことだろう。
「俺、身勝手なたちだと思ってたんですがね」
気を抜いたら、口から出たのは脳裏でずっと考えていたことだった。今の会話とはまるで関係のない、自分事。
「それだけは無いかな。ダズルちゃんの見る目は確かだってことだね。彼みたいに」
そう、気疲れしながら頑張っている、予約済みの自身の男を彼女は見た。俺も促されるようにその方向を見た。
お偉いさんや重要人物たちに揉まれているのが伺える。俺の知っている範疇とはだいぶ違って見える。まあ、古いものだからな。俺の知っている情報は。
どうなの、だろうな。相応しいからか。選んで、選ばれて、相応しくなったのか。なら、最初は、偶然か、必然か。
だが、なんというか、幸福そうだ。眺めるこの女も。眺められる、奮闘するあの男も。
もう俺は、それを羨ましいとも微塵も思わなくなっていた。微笑ましさは確かに感じていたが。
俺が変わったのだとしたら、そういうことだろう。と、いつの間にか、あの五人を除く多くの手勢に囲まれて、指示を飛ばしている彼女を俺はいつしか眺めていた。
「引き留めてしまって悪かったね。それに愚痴に付き合わせてしまった」
「随分高度な愚痴ですね」
「どうも、ストレートにというのは苦手でね」
そう、僅かばかり苦笑するその女に、俺は素直に、真っ直ぐ頭を下げた。そうして、あの五人以外の手勢に指示を飛ばしている彼女の下へと、俺は戻っていったのだった。




