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生き延びる為の三領連合 Ⅲ

「挨拶回りどうだった?」


 振り返った彼女の言葉に、


「丸暗記って強いんだなって実感したよ。何せ、いらぬ一言を口にせずに済む」


 俺はそう返した。尤も、挨拶回りというには、余りにも、彼女から離れて喋った人数が少な過ぎるが。だって、僅か一人だぞ? それも俺からではなく、向こうからだし。


 がはは、と周囲から笑いが飛んだ。不快感はない。それは、馬鹿にしてるとかそういうのではないと分かるからだ。


 その証拠に、初めてならそんなもんですぜ、旦那ぁ、だとか。


 俺、旦那か? あぁ、旦那だったわ。先はまだだが、そうなった。俺も受け入れたし。何より彼女が喜んでくれた。


 誰も彼もが受け入れてくれ過ぎていて、上手く出来すぎていて怖いくらいである。


 実のところ、彼女の能力と気質で、彼女がいいと思える男のハードルがバグり散らかしていた上、彼女に相手ができることを望むものばかりが、彼女の周りに彼女の能力故に残った上、彼女がその能力を一度たりとも悪用しなかったという、鋼の理性とそれへの信頼が大きい。なお、男性ばかりである。


 それは、彼女の性格に問題があるとかではなく、彼女の気質が男の望む女友達なそれであったからだ。その上、彼女のその容姿もあり、恋愛対象から外れて関係が始まるのがデフォルトであるし、彼女が好みのど真ん中という類は、揃いも揃ってやばいやつ塗れで、彼女の抑えた最低限の力にすら当然の如く、悪意と見做され弾かれる。


 彼女が要注意とした人物は悉く今、牢屋にぶち込まれているのもあって、彼女のまともさと目の確かさと潔白を証明していた。






「どうやら、あのわけ分からん外出禁止令は解けたらしい。だから、各家、戦力の復活もそう遠くないだろう。そして、だからこそ、騒ぎにならぬように我々は動かねばならぬ。そして、願わくば、我々で収集をつけねば。結婚秒読みが二組。そして新たに、式だけまだなのが一組。……。いずれも片割れは我が領の我が身内だ……。不味いのだ……。我が首だけで納め…ー」


「貴方はわたくしと一緒に死ぬのです。約束は絶対ですよ?」


 ねっとりとした重力。自身の秘書のその女に引っ張られてゆく領主。それは、領主の妻である。執務室ではあれだったのに、何だかなぁ。要するに、この女は、実のところ、やろうと思えば繕えるし、演じられるのだ。


 ウィル・オ領は、様々な面で有名ではあるが、とある方面で殊更一部に有名だった。


 敢えて、この、ではなく、あの、と形容するが、あの家の一族は、変な女、やばい女、重い女が大好きな危険な家だと。要するに地雷女吸着機。地雷処理一家。


 今回の件だって、それに当てはまる、先代領主の後妻という、やばくて重い女の仕業ということらしいので。


 じゃあ、あの家に生まれた女はって? ウィル・オ家は男系一族である。嘘みたいに女が全く生まれない。ダスクは数世代ぶりの女子であった。


 そして、今日恐らく答え合わせは済まされた。その男、変な男である。そう、俺である。


 つまり、男女関わらず、そんな感じのを捕まえちゃう家であるということ。


 しかし、俺は未だ知らない。それでは実は片手落ち。抜け落ちている。男どもは引っ掛けてくる女に喰われ、女どもは引っ掛けた男を喰う。それが正。そこまでまで分かることになる答え合わせは次代と次々代にて。子世代として多くを一人で産んだ嫁を持つウィル・オ・ライトと、家系図をバグらせるハーレムを作り上げたその第一子の紡いだ孫世代にて。






 男は言った。


「追えはしますね。奴らの本拠地は結局のところ地下でしょうし。彼女の御母堂以外はどうとでもなるでしょう。存在そのものが俺の力に無防備。奴らは砂でできているので。あぁ、人間の乾物も、というか、死体というのは土にかえるものでしょう。元よりそういうものですし」


 余裕すら感じられる程の。自信とかそういうのではなく、それは自分にとって、息をするかの如く当然であると言っているかの如く。


 そう。俺である。


「問題はその後ですよ。一番厄介でどうしようもないのが残る。いないのですが?特攻持ち」


 俺のそんな畳み掛けに、これだけ人数いながら、静まり返る。彼らは誰もが知っている。かの魔女と確定していないだけの魔女と言われる、魔女以上に魔女と言われる外れ値のどうしようもなさを。


「ウィル・オ・ライト氏がいてくれれば、彼を当てれば解決だったでしょうに……」


 何処かの誰かが言った言葉に、場の空気は賛同していた。


 ま、温度差あるわな。当事者感とか。


「父上は準備はしていました。3:7くらいで自分は負けると。3の方が母上です。それでも、負けたときの準備をしていないなんて、父に関してはあり得ない。だから、変なやられ方をしたか、罠に嵌められたか、誰かの入れ知恵、でしょう。多分最後が最も確からしい気がします」


 領主はそう情報を漏らした。恐らく頭は別にいるだろうと。


「私が行くわ。御母様放置したの私だもの。けり、つけてくるわ」


 俺の女は、実に男前だった。


「なので、俺と彼女は絶対。他のメンバーをどうするかです。また明日も律儀に攻めてくるでしょうし、こちらには相変わらずの人手がいります。ツテがあるなら、申告してください。俺ならば、連れて来れる。無論そのツテ持ちには同行してもらいますが。遠征のメンバーにって意味ではなくて、連れてくるための足を俺が今晩の範囲でできる限りやる、ということです」


「だ、大丈夫なの?」


 そう、何処かの誰かが声をあげるが、それは仕込みではない。


 そして、俺は、準備として用意していたものがった。俺にはこれがある。今のこれだけは純然たる仕込みである。絶対誰かが不安を声にするだろう、と。それを力づくでひしゃげるための――発起人は彼女。


 件の茶色の液体である。なおすでに、各陣営の運営層最上位たちには試飲させ終えている。今回も、彼らが先導することで、他も、その飲み物を口にすることを拒否せず、自ら、という訳である。


 そして、口にしたなら、効果は折り紙付き。出処知らなかったら、まあ、抵抗もクソも無いわな。


 使えるものは使っとこうということである。商売はしないとしても、それは交渉道具としても、補給物資としても普通に使える。


 幸いなことに、この世界、実利に重点を置きがちである。感情や気持ち悪さ程度、無かったことにしてしまえる位に。


 ここで、食料どころか水を出さなかった理由がお出しされるという訳である。


 俺はこういうの……思いつけないわ……。きっと今後も……。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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