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魔女と半魔 Ⅰ

 いつの間にかまた、彼女は輪郭だけになっている。それが示すのは、少なくとも短期での欠乏が存在するということ。そして、長期的な持久力の底は未だ見えてない、ということ。


 会話を試みようとしても、喉を貫かれる。口を貫かれ、舌を役立たずにされる。泥化によって現状復帰は容易いとはいえ。これでは、声を出す機構を彼女に声を届けるまで保てない。


 光なんて、伝説上の魔法を放つ彼女に、身体中を穴だらけにされる。


 斬撃、貫通、その混合。そして手数と速度が異常。


 それでもこの身は、血が吹き出すよりも早く、泥と化し、あっという間に、また人の形へと元通り。だが……。俺はは気づいていた。自身のその所作に遅れが生じ始めていることを。


 息をするかの如く当然となったその処理だ。魔力は足りている。まだまだ貯蔵は残っている。それでも、明らかに、遅くなっている、と。


 まだ、コンマ数秒。だが、気のせいではない。


 俺はまさかと思っていた仮定が当たっている、と結論付けた。


 ()()だな。それも、成り立て。


 初めて見た。この世界には現存するのは一人、それも、遥か昔、行方不明となった一人のみ、とのことだったが、それと彼女は違う。伝え聞くそれの能力と、彼女の能力は異なっている。


 ()()()()()()()()()()()()()()()なれなかった。器たる体が耐えきれず。


 魔王ではない。人間でもない。そんな俺を形容する言葉があるとするならば、()()


 どうにでもなると、余裕こいていた自分をぶん殴ってやりたくなる。そうしたとてどうにもならないからやらないが。





 凌ぎと再生と観察から、俺は攻撃と観察に転じていた。


 手を振り翳し、大ぶりなその腕の軌跡に、泥を膜のように。そこから、一気に膨れ上がらせ、被せ、被せ、埋めるように叩きつける。


 そんな風に質量攻撃へと手段を変え、されど、


 ジュゥウウウウウーー


 赤熱し、揮発する。触れた傍からそんなざま。生き埋めどころか、拘束すら(まま)ならない。


 ことごとく通じず、幾度と復活して、身に残り始めた、熱。内から焼け(ただ)れてゆく感覚と共に、再び泥となり、再び人に戻る。それでも、処理しきれない、熱。


 そうして何度かしくじり、漸く男は結論付けた。


 光ではない。熱だこれは。白き熱光。白熱。ある種極まって、光に見えたに過ぎない。あくまで熱だ。それの本質は熱。


 掌握、ではない? 熱? だが、明らかに正気を保っていたときの彼女のそれは、熱を操る類の魔法の方向性の発露では無かったぞ?


 そもそも、魔女という存在自体のサンプルが皆無で、記録すら碌に残っていない。たちの悪いのは、魔女となった後に齎した現象と結果だけが遺されるだけであるということ。変遷が分からない。元が分からない。非魔女から、魔女へ成るに至り、何が変わる?


 俺の場合は、……。恐らく、最初からこうだった。物心ついた頃から。能力の方向性は変わっていない。それに、どう考えたって、俺は例外だ。俺は明確に意思を保っている。それに、成りきっていない、という自覚もある。それに、俺は、他者の経験と知識を喰らい、自らの物とする。ならば、成長の方向性は、()()()。混ざる、とも言い換えられる。


 彼女の場合は、どうか? 理屈は分からん。何故、そういう能力へと変化したのかも。繋がりが見えない。変化はしている。間違いなく。方向性が、違い過ぎる。いきなり、魔法らしい攻撃魔法を行使するようになった。あの斬撃は、魔法というよりは、極まった騎士のそれをなぞっていた。それ自体特異であるが、本題ではない。


 ……。彼女の本質は、掌握、ではない?


 この俺が見誤ったと言うのか?


 借り物であっても、寄せ集めであっても、積み上げたそれらは、我が血肉。


 得た知識の中にも、貰い物の経験の中にも答えがはないというのならば、紡ぐほかあるまい。


 これは、未だ試していない!


 泥を纏い、右腕を覆い、振るう、限りなく水へと近似した、泥砂水の刃が飛ぶ、跳ぶ! それは、俺の力の本質により近い原型たる、原典たる力の行使。泥沼を構成する、()()()()()


 彼女に触れた飛沫も、遅れて触れた刃も、消し飛んだ。


 それどころか、我が右腕まで。


 彼女は避けることも迎撃もせず、その身に刃を受けた。だというのに損傷したのはこちらだけ。


 視界が、体が、ずれ落ちるようにーー地面がーー


 泥となりて、今度は、広がる。


 彼女は避けるために後ろに跳んだ。


 見えなかったな。今のは確かに()()だった。髪は失ったまま。手にしている様子もない。なら、何を何処から振るった?


 ぬ?


 灼けつくのに耐えながら凝らした目を疑った。それは、尾である。どうして今まで気づかなかった? ……。消えた。あぁ、そういう……。


 痛みに強くとも、痛みが無い訳ではない。後遺症は、泥を経ることで踏み倒せる。それでも、痛いものは痛い。


 もしや、見えない速度のそれは、あの尾によるものか? それか、同じ仕組みで、他にもある? 例えば、喪っている筈の左右のツインテールだとか。だがそれなら、斬撃が少な過ぎる。数があることを見せることは不利にはならない。何せ、尾を分割、尾が複数本、などであれば、あり得ることで。ツインテールの再生を確定させられることはない。


 そろそろ、観察は終いにするか?


 ……。恐らくだが、呑み込むには我が密度が足りない。ここに舞い戻った時であったとしてもだ。消し飛ぶだけの熱量を、全て捌けるだけの()()が俺にはない。この一帯を全て俺の身に変えたとて、足りるかどうか。それは悪手だ。地の理すら失うことになる。


 ()()()()()()()()()()()()

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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