地底と砂の大河 Ⅰ
穴の上からロープを吊るして。一人ずつ降りて行った。
そして――すたっ。
「深くない? 女の細腕だときついわよこれ」
先に降りると言って譲らなかった五人が人二人が並べない仄暗い土色の通路というか洞の中で、彼女に向って笑って見せた。その目は顔は、ご冗談を、と口にしているかの如くだった。
彼らは素でこういう奴なのか、と彼女は思い知ったのだった。
「で。決めていいのよね、私が」
と、前後を彼女が見渡すと、彼らはそれぞれ首を縦に振った。
王座が通路に向かって最初向いていた向きの方か、その逆か。お誂え向きに、前後はそういう方向に続いている。
「じゃあこっち。貴方たちしゃがみなさいな」
彼女がそういうと、進路方向上にいる三人がしゃがんだ。
道は上にように曲がりくねってはいなかった。少なくともこちら方向は。
自分が一番前になって、他が並んでついてきている。後ろから一人ずつ減っていくなんてことになっても怖いから、時折点呼を取りながら、ただひたすら長いだけの真っ直ぐな道をどれだけ歩き続けたか?
時折、後ろから、おかしくないか、だとか、一旦引き返してみないか、だとか、不安の声が届けられたりはするが、どうして彼らがそんなに不安がるのか、彼女には分からなかった。
そもそも、これまで、こういった反応はされることがなかったのだ。彼女のその力故に。
「ちょっと待って」
そう言って、彼女が足を止めた。
疲れた様子で皆が彼女の顔を見る。今度は何ですか? と顔に書いてあるみたいである。
「疲れすぎじゃあない?」
彼らが、前後を入れ替え、隊列を変え、がんばってついてきているらしいことには気づいていた。二人横に並ぶのは無理でも、横向きになったら、前後入れ替わることくらいはできる程度の広さはある。変わらず、誰かがしゃがまないといけない程に高さも変わらないままである。
だが、私を除いた先頭と最後尾に最も余裕がある二人が回り、しんどいのは間に入り、ある意味引っ張られていく。これほど近い距離で固まって歩いていたのなら、手でも繋げば魔力の融通すらできる。
それでもそろそろきつくなってきたらしい。
何せ、彼らの息の上がる音が増えて、大きくなってきていたから。魔力で体力をいくらブーストしようが、こういった持久戦になってくると、素の身体能力と身体の遣い方の熟達度合いが効いてくる。
この道にこれだけ歩いても終わりが見えない以上、仕方あるまい。自分が言い出すしかないと、彼女は分かっていた。
「休みましょっか。凭れかかってもいいし、座り込んでもいい。けど、流石に横になると、汗も掻いてるだろうし土塗れよ?」
と。皆が何か言う前に、有無を言わさないかのように、自らが、どしりと地面に躊躇なく座った。
「何なんですかねぇ、ここは」
ノイシュがそう、彼女の傍で言う。
彼女が座り込んだ位置から。三人が彼女を跨いで彼女の前へ進み、凭れかかったり、座ったり。ノイシュとシュターレンとサフィウスが彼女の前にいる。
「明らかに上とは目的が違う」
シュターレンがそう、ぶつりとつぶやく。
「そもそも、これ、人工物なのかなぁ? 作ったにしては不自然なくらい不親切だし」
サフィウスが普通の見掛け通りの、普通のなよっとした高めの男声の、実に魔法使いの男性らしい声でそう疑問を口にする。
そして。彼女の後ろ側に残る二人である、ラッセルとベリリウスはというと、
「「……」」
二人は大きく肩で息をしていた。それでいて息を殺していた。要らぬ気遣いである。この二人のこういうところは嫌いではないが、今は平時ではない。
「純粋頭脳畑の貴方たちが、体力は一番無いわよね……。こんな状況普段じゃあありえないし。薄いものね、周囲の魔力自体。先に進むにつれて、どんどん薄くなっていっている」
全員の視線が集まる。
まるで、全くそんなもの気づいていなかった、という具合である。
確かに。周囲の魔力がこれほどまでに薄くなる場所なんて、地上には存在しないとされている。少なくとも知られてはいない。
あの領域外である灰色の砂漠ですらもそうだった。魔力とは、あるのが、漂っているのが当然なのだ。息をするかの如く当然。空気があるかの如く当然。
「いい方法があるんだけど。それに乗るか、ここで仮眠とったりしてがっつり休むのと、どっちがいい?」
彼女は、ずるい言い方をすることを選んだ。すると、
「悪いようになる筈が無ぇ。姫。遠慮なく操ってくだせぇ」
ノイシュが自分に対して即答えて、皆の方を見ながら。別に強要された訳でもない、という反応で、自分の前の残り二人は、少しずつ遅れてではあるが頷いていった。
そして、残り。後ろの二人。
「……。お二人さんは相変らず慎重だ。俺ぁさぁ、皆が眠ってた間、実は狸寝入りしてたんだよ。起きてたってこった。でよ。そのときに姫がやってたコトを見てたんだよ。だから確信できてんだ。この人の魔法は、勝手に人を操ってしまうだけのモノからは卒業したんだってな。そもそもなんだが、姫が号令あげて、俺らに後を託したとき、妙だと思わなかったか? これまでたぁ、全然違ってただろ?」




