熾烈なる戦嬢 Ⅷ
横歩きで、壁伝いに手勢たちは進んでゆく。
だが、彼女の指示と一つ違った。彼らは、左右の先頭から、連れ立って、進んでいくのである。止まった一人の前を、もう一人が軌道としてコの字に膨らんで進むなんていう無駄を、彼女の指示通りには行わず。
彼らのそれは、彼女への反抗ではない。彼女が為に、より良い方法を浮かべ、実行したまでである。そこに反抗心なんてものは微塵もないし、それがダメそうなら彼女ならすぐ拒絶を示すだろうと信じてのことだった。
もうだいぶ、能力の制御を手にするところに彼女が近づいているということである。彼女が思っているよりもずっと。
やがて、手にしたならば、彼らは、心変わりやふと魔がさすといった可能性皆無の、名実共に忠臣となることだろう。隷属させ、引き連れて、逆ハーレムやってるなんて揶揄されることはもう二度と無いし、無秩序に魅了してしまうことも無くなるだろう。相応しい者であり、既に一か所に強固な一心を置いてない、そんな者たちを引き寄せる、灯のような者となることであろう。
そんなこと知る筈もない彼女は、必死に祈っていた。
仮に何処かから号令が響いて、あいつらがぶつかり合いを止めたなら? ふと、姿勢を崩して、転びでもして、こちらの誰かを知覚してしまったら? 通路の先から、新手が現れて、こちらに気づいたなら?
悪い想像ばかり浮かんでくるのだから。
明らかに敵は、役割を分けている。先程のことを思い出す。一体、逃がすように奥へ消えていった。激しい衝突音と地鳴りが響く方向へ。あの水晶越しに見た場所へきっと通じている。
役割。その切り替え。役割が、付いた? 付与された? そんな風でもあった。違和感である。
……。自分はそう頭はよくない。兄たちと比べたら、その誰にも劣る。学園ではそうでも無かったとは思うけれども、学園の生徒は誰も彼もが上に立つ者という訳じゃあない。
それでも、習慣はつけた。絶えず、頭を回し続ける習慣を。下手くそでも、何でも! とっ散らかっている。ところどころ間違ってもいる。結論すら大きく間違っていることすらある。それでも、考え、結論を下す。それが、自分がやるべき仕事なのだ。率いる者の仕事なのだ。
左右の先頭が、この出入口のある壁面の左右の端に到達した。二手の敵たちは、こちらに気づく素振りは見えていない。
まあ、そうだろう。ここはまだ、離れている。問題は、それぞれが、奥の角に到達できるかどうか。そして、奥から、できれば、その先の通路への道を塞ぐように立てるかどうか。
……。本来、自分が戦闘を行くべき、だったといえる。その位置に自分が立つのが最良であったから。でも、それは、ばれる可能性が非常に高い。彼らの展開すらできず、戦闘の自分が、こちら側では最も目立つため。
自分は、ならば、突っ切るべきか。一閃するかのように、真っ直ぐに。そうして、次の通路の前へと到達し、立ち塞がるかのように。
その間に、手勢たちが、幾らか敵を減らしてくれてる筈だ。そうして、先程のパターンでいくと、伝令役となるのが向かってくる。
複雑な命令ができない、理解できない、若しくは、予め組まれた命令しか遂行できないとするならば、恐らく、先程と同じ動きをする筈だ。
いける、と思う。動きを変えてきているなら、伝令による情報共有で、何かが変わり、伝達されたなら、そも、この部屋のこのような展開自体があり得ない。
……。本当に、伝令だったのか? ただ、逃げただけだったのではないか?
すると、丁度展開が終わったようである。
敵は相変わらず気づいていない。目が悪いだとか、感知の力が空気中の遮蔽物にすら妨げられるだとかでは、こいつらが、外では夜には出てこなかった説明には微妙になっていない。
一旦、ぐるぐる考えるのは止めにした。
改めて見渡す。
砂煙は、なんか、少し激しくなっている気がする。
敵と敵の数は相変わらず3対3だし、どちらにも、欠員どころか、大きな欠損すら見られない。まるで千日手だ。
部屋の四辺に沿って、間を開けて並んで、囲うように。お誂え向けに、先に続く通路の前は開けてあるが、その最も近くにいる者たちは、狙われもしていなければだが、駆ければ十分、通路の前に立ち塞がることができそうである。
「やぁあああああああああ!」
わざと、大声をあげながら、白と薄ピンクの振り上げたツインテールを、千切らず、それぞれの手に持って、込めた力で、しなる長い刀の如く、二振り、振り下ろした。
二つ。斬撃という名の結果が飛ぶ。それは、初めての成功。一つですら成功したことがなかったのに、左右から、一つずつ、計、二つも!
魔力が薄く薄く、枯れたも同然だったからこそそうなった。
幾度も幾度も、年単位で、あの日嘗て見た、振り下ろされた刃が、触れもしない木々を別かったあの光景。綺麗だと思った。見惚れた。野蛮な行為。命すら奪う危険な一撃。殺しの為の技術。それでも、あれは、焦がれる程に美しかった。家に飾られてある湖畔越しに眺める山の遠望の美しい絵画や、黄色と赤の押花、美しい白いレースだらけのドレス何かよりもずっと。
争っていた灰色の巨人たちの片腕若しくは両腕が飛ぶ。切り離されただけではなく、断面から消し飛んだ。切り離された手側は消し飛んで、片側は、少なくとも肘より上まで、酷いのは肩まで丸ごと消し飛んだ。
(で、できたぁぁ……)
感激しつつも、身体は動く。ある種の先行入力である。自身が、埒外や、想像の通りいかなかったり、悪い想像をなぞってしまったりなんて事態が起こったとて、硬直して突っ立つなんて愚かなことだけはしないように。
強く思って、次はこうする、という駆動を、前の動作を終えたその時に、思考によって阻害されず、続けざまに行う。
彼女は知らない。それは騎士の技術であるということを。ただ、窓から眺めて、見ていて、そういう思考を彼女は身に着けて、それを実践してきただけである。
魔法使いとしての技術や知恵に、そのようなものはないから。それでも、率いる者としてやらねばならないことをやるために、彼女は、足りない分を、外から持ってきたまでである。意識すらせず。
そりゃ、考えることに、家の中で向いていないわけである。家の誰にも劣る訳である。
なお、その法則はウィル・オ・ライトには適用されない。あれは別枠である。
彼女の適性は実は、魔法使いより、騎士のそれであった。精神性は特に。力として能力として持つそれがそんなものを塗りつぶしてしまうほど、どうしようもないものであったというだけで。
混ざりたい、剣を振りたい、そう母親に言えなかった。
彼女はそういう子供であった。
それでも、隠れて積み上げてしまうくらいには、意思は強かった。そうして、それは、精神面での異質な力強さという形で結実していたのである。
「……。あれっ?」
砂煙が、薄れてゆき、止んだ。
手勢たちが、彼女の号令を待たず、手が、腕が落ちた段階で授かった毛束を投擲、キャッチ、投擲を繰り返し、反撃どころか、次の一挙動すら許すことなく殲滅が終わったからであった。
彼女の残存魔力が、これまで例を見ない程少なくなっていたことから、彼らに掛かる意思の支配も限りなく薄れていたのである。
そして、彼らは、彼女を自分たちの長と認めていた。彼らにとって、彼女は支えるべき長でありつつ、こうやって共に戦い、分かち合う、仲間であった。
魔法使いである彼らにとって、彼女の下に集い、共に雑念も邪念もなく、共に何かを成し遂げるというのが、いかに刺激的で、爽快なものか。
彼らの実のところは、そんなものである。
得ずして得た、理想の集団。彼女の団であって、彼女が為だけのものではない。彼らが為のものでもあった。だから、こうやって、彼女らは成果を挙げられている訳である。




