熾烈なる戦嬢 Ⅵ
それはーー遭遇戦として始まった。
明るさの落ちていた通路。不審ではあった。だからといって引き返すなんて愚行を犯して何になる? 通路内ではなく、踏み入った部屋で、というのは不幸中の幸いであった。
だが、相手が中央で突っ立って背を向けて、石像の如く待機状態であったことは、幸か不幸か。その天秤は未だ、傾ききって何ぞない。
そいつらの横を通り過ぎて、衝突音の発生が今の続いている先へ向かわねばならない。そう思って、それでも、全員で同時に抜けていこうだなんてせず、それどころか、彼女は、手勢たちに意思を示した。自分がやる、と。
自分より後ろに控えさせ、自分だけ突出し、それを行った。
ぶちっ、ブゥオゥウウンンンンンン!
自身の左右のツインテールを引きちぎり、込めた魔力。迸る陽光のような魔力。二つの毛束の両端から、迸るように。その片方だけを、縦方向に放り投げた。
挟まれるなんて愚は犯せないのだから、こいつらは倒していかないといけない。問題は、それができるかどうか。
狙いは、縦方向一刀両断。
キィイインンンン! カッ!
火花を散らせて、競り合うかの如く、そして、弾かれる。動いていないこいつらは、それだけ固いということだ。こんな状態のこいつらはこれまで見つかっておらず、故に、これ含め、ここから先、ここでの情報は大きな戦果となるだろう。
砂と空気に囲まれた外とは違う。ここは、壁に囲まれた迷宮。故に、それらが振り向く音さえ、石臼で粉でも挽くかのような、鈍く重い音が響きのであった。
それらの大きさと閉所であることも相まって、圧は外で接敵した時の比ではない。
そうして――後詰めをしていた数体の灰色の巨人との戦闘が始まったのであった。
「散開!」
彼らが動き出して、直ぐ、彼女の最初の号令はそれだった。それと共に、手勢たちは、敵たちを広く囲うように散ってゆく。
彼女が攻めの中心を担った。左右の髪束を更に数分割し、躱し、投げ、振り回し。
一部彼女が回収し損ねた、彼女から離れて端に落ちたものを、手勢たちが、投げる。彼女にではなく、敵に。それは濃厚に、彼女の込めた魔力を残しているから。
当然、何度もやれば消える。消えたらそれを、手勢たちは、傍の奴へ回し、回し、動き回る彼女の近くにちょうどその時いる奴がいたら、彼女に渡し、再装填。
手勢達は、援護に徹していた。何せ、彼女が手数も威力もその中で一番。だから、敵の狙う対象は彼女から外れない。
手勢の一人に一部敵の狙う対象が移りそうになろうとも、すぐさま、彼女の数段威力の高い攻撃が飛んでくるのだから、ターゲットはすぐさま上書きされる。
彼女が負担を引き受け、手勢たちの体力と魔力を節約しての、それでいて、彼女が暴れまわるそんな巧い作戦である。
敵は知性らしいものを薄く持ってはいるだろうが、人間らしい悪意を内包していないだろうということは、領地の本陣との情報交換からほぼ確定といってよかった。
そして、これまでからしたら、考えられない動きをしているこいつらを見つけた今でも、それは変わってない、ということになる。
彼女の、再生を許さない魔法戦術により、敵の一体が動けなくなってからは早かった。敵の動きは部位欠損によって、当然の如く精彩を欠いてゆき、次々に、彼女の毛束という刃にやられてゆく。そして残り三体――
(えっ……?)
これまでの一人だけずっと全力全速で動き続けていたのもあって、汗が溢れ流れだす。息も激しくも、見える光景は歪んでなんていなくて、はっきり見えている。それでも、目を疑った。
三体が背を向け、この先へ続く唯一の通路へと駆け出す。駆け出すとはいっても、奴らは速くはない。それでも、大きい。その一挙動も一歩も、大きいのだ。
先への通路方向、先への通路近くにいた数人は、角に、弾き飛ばされる。追撃はない。敵の一体が通路の先へと消えてゆく。
これまでにこいつらが一切見せていなかった行動。まるで人間のような作戦。指図。事前準備。取り決め。こいつらの今行った行動の意味なんて、明白だった。
(不味いっっっ!)
それぞれの手に残った、半分ほどの毛束が、焼けつくかの如く、魔力の猛りで、光の柱をあげる。振りかざすよりもずっと疾い!
突き、である。
強力無比なそれは、敵を貫いた断面から消し飛ばし、先への通路の壁面すら、削り焼く! が、光は失せる。
後先考えずぶっ放した結果、彼女は魔力切れを起こしたのである。
手勢たちが駆け寄ってくる。彼女に自分たちが持つ彼女の毛束を手渡したことで、彼女は辛うじてのところで、意識を飛ばさず、踏みとどまることができたのだが、動けそうにない。
これで一日動けないなんてヤワな鍛え方はしていない。数時間なんて過剰な休憩は必要ない。身体だって鍛えている。その御蔭で、肉体からの魔力生成速度も、常人のそれの域にはない。
毛束から、自らの魔力を吸収までした。
それでも。数分は先程までの動きはできない。そして、あいつらも、ここに残った砂となり果てた奴らも、後詰めに過ぎない。本隊ではない。ただの駒でこれだ。
考える頭を持つ、指揮者がいたら、どうなる……?
手勢たちを、来た通路へと退かせ、自分も来た通路の入り口に立つ。
手勢の最後尾から二人、引き返させた。
ここまでになると、現時点までの情報だけでも、持ち帰らせないといけない。手柄云々の問題ではない。敵が人間に届く知性ある存在、若しくは、敵を創り出す黒幕がここの先にいるかもしれない。
ここから先は、多分、命懸けになる。
彼女は覚悟を決めつつ、敵がやってこないか、衝突音の聞こえる、先へと意識を集中させていた。自分が再び動けるようになる前に、敵が攻めてきたら、を考えない訳にはいかないのだから。




